週刊こぐま通信
「代表のコラム」らせん型カリキュラムの効用
第881号 2024年1月12日(金)
こぐま会代表 久野 泰可
こぐま会代表 久野 泰可

11月から始まった新ばらクラスの子どもたちとの学習も、はや2カ月半がたちました。セブンステップスカリキュラムも「ステップ3」に入り、基礎段階の後半の学習に進んでいます。ゆりクラスで重視して行ってきた具体物操作の復習をしながら、ペーパー学習への比重が増してきています。こぐま会のKUNOメソッドの考え方は、3段階学習法に集約され、「(1)体を使った活動 (2)手を使った試行錯誤 (3)ペーパー学習」で授業を完結させています。一般的に多くの塾では、低年齢からペーパートレーニングのみを行っているようですが、このやり方では「考える力」は育ちません。早い時期から入試問題に取り組ませ、わからなければ解き方を教え込み、それをパターン化して訓練する方法では、将来の学習の基礎を育成することはできないのです。教え込まれた方法で解けても、それは本当にわかったことにはなりません。みずから物事に働きかけ、試行錯誤し答えに到達するプロセスこそが大事です。そこで身につけた理解力は決して忘れてしまうことはありません。そうした物事への働きかけの蓄積こそが考える力を育てる原動力になっているのです。
私がメソッドを確立するために学んだピアジェの認識心理学では、知識には3種類あるとされています。
- 物理的知識
- 社会的(慣習的)知識
- 論理数学的知識
考える力は、主に論理数学的知識と理解されている面が強く、「算数」「数学」がどれくらい理解できているかが学力の一つの目安になっています。その論理数学的知識は、それぞれ個人が外部の世界に働きかけて身につける「関係づけ」を構成するところから始まります。そして、その関係づけを次の5つに分けて子どもの学習課題を提案しています。
- 分類
- 順序づけ(系列化)
- 数量的関係づけ
- 空間的関係づけ
- 時間的関係づけ
今期、私が担当しているクラスの子どもたちは、物事に対する取り組み方や発言内容、ペーパーワークでの理解力が、過去のクラスとは違うところがあると感じています。これまでの経験を思い出しながら、サブの教師に「今年の子どもたちは素晴らしいですね」と話しかけると、クラスのほとんどの子どもたちが、すみれクラスやゆりクラスから通ってきており、長い期間こぐま会で学んでいるとの答えが返ってきました。そのためか、一つ一つの学習がしっかり身につき、自分で考え自ら答えを導き出し、そのプロセスをしっかり言語化できている子が多いことに驚いています。実は私たちが長年追究してきたのはまさしくそのことです。「らせん型教育カリキュラム」で扱う課題を常に検討し、ここ10年間カリキュラムの改訂を毎年行ってきましたが、その成果を一人ひとりの子どもたちが体現している様子を実際に見て、少し努力が報われた気持ちです。
こぐま会では、すみれクラス(年少児)・ゆりクラス(年中児)・ばらクラス(年長児)と進級していきますが、同じ学習テーマであっても年齢ごとに異なる課題に取り組んでいます。たとえば、未測量領域の「長さくらべ」を例にとってみると、同じ課題でもそれぞれの年齢にふさわしい活動内容を考え、子どもの発達に見合った形で同じテーマの学習が次第に難しくなっていくようにカリキュラムを構成しています。
年齢によって異なる「長さくらべ」の内容
- すみれクラス(年少児)
- ・電車の長さくらべ(つみ木をつなげて)
・ひもの長さくらべ(ひも抜きゲーム) - ゆりクラス(年中児)
- ・長さの比較(カードをつなげて)
・長さの系列化(5本の棒) - ばらクラス(年長児)
- ・長さの比較(7本の棒)
・長さの系列化(ひも・くさり)
・大きさと長さの順対応(旗づくり)
・長さの個別単位(マッチ棒)
初めてご覧になる方にとっては、「なぜ、3回も同じ課題を繰り返すのだろう」と感じられると思いますが、これこそが「らせん型カリキュラム」での学習であり、同じ課題を難易度を変えて繰り返し、基礎から応用へ、具体から抽象へとらせん階段を上るようにより難しい内容の理解に仕上げていくのです。ですから、ばらクラスで行う長さくらべは、すみれクラス・ゆりクラスの学習を前提に組まれており、決して同じことを繰り返しているのではありません。ここをしっかり理解していただかないと、「教育の力によって引き上げていく」という指導方針がご理解いただけないのではないかと思います。
今回、授業での子どもたちの取り組みを見て感じたのは、こうした基礎をしっかり学んできたからこそ身についているということです。幼児教育は時間がかかるもので、短期間でどうにかなるものではありません。今はやりの教え込みの幼児教育は、5年後、10年後にはその結果が出るはずですが、そのやり方は「自ら考え、判断し、行動できる」人間の育成にはほど遠いものであるし、社会に出て新しい価値を創造できる人間を育成するためには、「型」を教え込む幼児期の教育のあり方をもう一度考え直す必要がありそうです。「合格のために」といって行う徹底した教え込みの教育では、合格はしたものの、その先が続かないという結果になってしまうことが目に見えています。事物教育・対話教育を大切にした「らせん型カリキュラム」による基礎教育への理解が広まることを願っています。
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子どもを机に向かわせる前に実際の物に触れ、考えることで差がつく。- 食事の支度を手伝いながら「数」を学ぶ
- 飲みかけのジュースから「量」を学ぶ
- 折り紙で遊びながら「図形」を学ぶ
- 読み聞かせや対話から「言語」を学ぶ
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