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週刊こぐま通信
「代表のコラム」

どんな能力が求められているか(1)
学力試験の内容が変化する背景

第882号 2024年1月19日(金)
こぐま会代表  久野 泰可

 コロナ禍3年間の学力試験は、それ以前に比べると易しくなりましたが、その分2024年度の入試問題は難しくなったように思います。しかし、コロナ禍以前の水準に戻ったわけではありません。何十年と問題を分析してきた経験から、この3年間を経て問題作りの傾向が変わっていくのではないかと感じています。私が関わった50年間の入試を振り返ってみると、次のように変遷してきています。
  • 知能検査の問題が主流であった時期
  • 志願者の増加に伴い、小学校低学年の学習を踏まえて大量のペーパーが課せられた時期
  • 過剰な入試対策の結果、子どもたちにかかる相当の心的負担を考えてペーパーを減らし、多くても10枚前後、平均7枚程度の問題数に絞り込み、その中で「考える力」を求める問題が工夫される一方、行動観察が重視されるようになった時期
  • コロナ禍の子どもの生活を考慮し、基本問題に回帰したこの3年間

こうした流れで2024年度入試が行われました。ここでの内容が今後の問題作りのスタートだと考えると、今回の問題をしっかり分析しておく必要があります。2024年度入試の全体的な傾向については、以前のコラムで述べた通りですが、思考力を要する問題が減ったことにより、問題の質が低下した感は否めません。私が経験したこれまでの入試では、2005年ごろからの10年間が一番工夫された問題が出されていたのではないかと思います。

機械的な訓練でできてしまう知能検査的な問題ではなく、質問の意図をしっかり聞き取り、道筋を立てて考え、解答に至る問題を良質な問題と考えてきましたが、それが少なくなってきているのは、問題作りの担い手が世代交代した影響かもしれません。 その結果、2024年度入試では知能検査的な問題が増えたように感じます。今後は、訓練によって解決できるような問題は減り、「考える力」を必要とする問題が増えていくと思いますが、小学校入学後の学力の基礎を育成するためには、そうした問題を増やしていく必要があります。受験のための学習が将来の学力の基礎づくりとなるために、良質な問題を出題していただくことを願っています。学力試験で何を見るのか、その目的をしっかり持つことが必要だと思います。子どもたちを送り出す側の立場からすれば、思考力を必要とする入試問題が多くなれば、準備する側の教育も変わっていくはずです。大学入試の傾向が変われば、高校の教育が変わり、高校入試の問題が変われば中学校の教育も変わるというように、小学校入試の問題が変われば準備教育のあり方も変わることになるはずですから、入学後の教科学習にとって意味のある良質な問題を出していただきたいと願っています。ただ最近の問題作りを見ていると、一場面を使った数の総合問題にみられるように、生活や遊びに密着した問題が多く出されるようになり、これは幼児が取り組むテストとしては大変好ましいと思います。生活からかけ離れた、訓練で解決できる問題は、将来の教科学習にあまり意味はありません。大学入学共通テストが変化したように、生活の中のテーマを考える問題が増えれば、子どもたちの生活体験ももっと豊富になるはずです。それが、幼児期の教育にとってどれだけ大事な意味を持つことになるでしょうか。

思考力を必要とする問題が減っていく中で、逆に私たちが「法則性の理解」と括っている問題が少し増えているのは何か関係がありそうです。法則性の理解とは、約束事を発見し、それを他のものに当てはめていくものです。典型的な問題としては、「図形系列」があります。そのほかにも、「回転推理」「魔法の箱」などがあります。今回の入試では、そうした問題がやや増えているように思います。いくつか具体例を紹介しましょう。

1. 図形系列
  • 左上のお部屋に並んだの順番で続くとき、青いが入るのはどこですか。その場所に青いをかいてください。

並んだ色の順番を見て、青いの入る場所を考える図形系列の基本問題です。次はやや応用的な問題ですが、これも入試問題としては基本です。

2. 図形系列
下からスタートして、はじめのの間にはが1つ、次のの間にはが2つ、その次のの間にはが3つのお約束で並びます。その次は、また間にが1つからはじまります。
  • お約束の順番を考えて、続きからが入るところのを青で塗ってください。

の間にあるの数の約束を踏まえて、の入る場所を考える問題です。だけを考えれば、 1-2-3-1-2-3・・・と変化していくわけですから、この法則を踏まえての位置を探すのは、それほど難易度は高くありません。また次のような問題も、昔からある基本問題です。

3. 図形系列
  • 左から並んでいる順番のお約束を考えて、星とハートに入る形を下のそれぞれのお部屋から選んでをつけてください。

ところで、次のような少し応用的な問題も出ています。転がるボールの順序と、転がった後の穴への入り方を踏まえて選択肢から選ぶ問題です。理科的常識の一つとしてみると面白いと思います。この問題も昔からありますが、いずれにしても約束ごと(法則性の理解)の理解が前提になっています。

4. 推理
上のお部屋を見てください。右から転がってきたボールは、絵のような順番で穴に入ります。
  • 同じように、転がってきたボールはどんな順番で穴に入りますか。それぞれ下から選んでの中にをかいてください。

もう一つ、今回の入試でよく出されていたのは「魔法の箱」の問題です。3問続けて見てみましょう。

5. 魔法の箱・数の構成
上のお部屋を見てください。女の子がポケットを叩くと、あるお約束で中のアメの数が変わります。ポケットの中のアメが1個のときに叩くと2個に、2個のときに叩くと4個になりました。
  • もう1回ポケットを叩くと、アメの数は何個になりますか。その数だけ真ん中のお部屋に青いをかいてください。
  • 左下のお部屋を見てください。今持っているアメを赤、青、黄の袋に分けます。どのように分けたらよいか考えて、その数だけ青いをかいてください。アメは全部の袋に入れますが、アメが1個だけの袋ができないように分けてください。
  • 右下のお部屋を見てください。さっきと同じお約束で違う分け方を考えて、その数だけ青いをかいてください。

ポケットをたたくと、ある約束で中のアメの数が変化します。1回たたくと2個、2回たたくと4個ということは、1回たたくと同じ数だけ増える(倍になる)という法則性を導き出し、もう1回たたけば4個増えて8個になる、これが解答です。

6. 魔法の箱
上のお部屋を見てください。の箱を通ると、数が2つ増えて出てきます。♡の箱を通ると、の数が1つ減って出てきます。
  • 上のお約束で下の絵のようにが箱の中を通ると、最後は何個になって出てきますか。その数だけ右のお部屋にをかいてください。1番下のお部屋は、途中のの数から◇の箱のお約束を考えて、最後にいくつになるかを考えてください。

を通ると数が2増え、♡を通ると数が1減るという約束で、数の変化を考える問題ですが、最後の◇の約束は自分で考えなければなりません。4個の玉が星を通って6個になり、ひし形を通って4個になるということは、◇のトンネルは2個減らすという約束になります。その約束を最後のひし形のトンネルに当てはめ、「4個が2個減って2個になる」と導き出せるかどうかが問われます。

7. 法則性の理解
上の絵を見てください。あるお約束で、左のものが右のように変わります。
  • チューリップの問題は、と×がいくつになればいいでしょうか。上のお約束と同じように変わったらどうなるか考えて、右のお部屋にかいてください。
  • チョウチョの問題は、どこにと×があったらいいでしょうか。上のお約束と同じように変わったらどうなるか考えて、右のお部屋にかいてください。
  • トンボの問題は、どこにと×があったらいいでしょうか。上のお約束と同じように変わったらどうなるか考えて、右のお部屋にかいてください。

チューリップの問題は、上下2つの変化を見て、は1増え、×は1減ると約束を導き出せるかどうかが問題です。蝶の問題は、×が〇になり×は右回りに移動して1個増えるという約束を導き出せるかどうか、非常に難しい変化の法則です。トンボの問題は、鏡写しのように左右が入れ替わるという約束がわかるかどうかです。チューリップとトンボの変化の約束はわかるとしても、蝶の問題はかなり難しいと思います。

今回は2024年度入試の問題を見てきましたが、過去にはこの他にも「法則性の理解」に関する問題はたくさん出ており、変化の法則性を自分で発見するという難しさが共通して求められています。それこそが、自分で考えなくてはならない課題ですから、「考える力」がかなり身につくはずです。

※次回のコラムは2月2日掲載です。
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