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週刊こぐま通信
「代表のコラム」

基礎をしっかり身につける

第875号 2023年11月17日(金)
こぐま会代表  久野 泰可

 来年秋に受験する年中児を対象とした「セブンステップスカリキュラム」による授業が始まりました。これから1年間かけて、合格を目指した学習が始まりますが、受験生にとって一番の課題は、これから1年間どのような方針で受験対策を積み上げていくかということです。学びの最初から難しいペーパーを課し、1年前から過去問に取り組ませるというペーパー主義の受験対策では、今入試で求められている「考える力」を育てることはできませんし、学習への興味・関心も育てることはできません。それは、結果が良ければすべてよし、そのためには何をやっても良いという間違った考え方です。人生において最初の学びがペーパーでの教え込み教育で良いと考えるのは、時代遅れの学力観・指導法としか言いようがありません。

こぐま会では、幼児期の基礎教育をしっかり積み上げ、そのうえで入試にも取り組むという方法をとってきました。それは、体験を通して物事への働きかけを十分経験させた後、自らの力で問題を解いていくことができるようにするということです。そのために、事物教育対話教育を通して「考える力」を育てることに十分な力を注ぎ、そのうえで、最後にペーパートレーニングで理解を確認し、応用力をつけていくような指導を行っています。

基礎を大事にし、らせん型カリキュラムで一つずつ積み上げていくこぐま会の考え方は、多くの受験生に支持され成果を上げてきました。学びの最初の段階から、教え込まれた方法で問題を解いていくようなやり方では「考える力」は身につきません。与えられた課題を自分の力で解いていけるようにするためには、易しいと言って見過ごされがちな基本をしっかり身につけることが大事です。

毎年10月の最終週に、11月からばらクラスに進級する子どもたちを対象に、現在身についている「考える力」を総点検する進級テストを実施しています。このテストは、これまでの学習成果を見るわけではなく、これから1年間かけて学ぶ6領域の課題の基礎がどこまで身についているかを見るテストです。このテストを通じてはっきりしたことは、基礎学力がいかに大事かという点です。今回は、全部で12項目の問題を作りました。
  1. 論理性
  2. 作業能力
  3. 視点を変える
  4. 正確に数える
  5. 組み合わせ
  6. 観察力
  7. 模写能力
  8. 構成力
  9. 聞く力(1) 指示の聞き取り
  10. 聞く力(2) 話の内容理解
  11. 法則性の理解
  12. 記憶力

同じ趣旨の問題を、基本・応用・難問の3段階で作成しました。個人差は当然ありますが、それぞれの問題でどこまでわかり、どこからわからなくなっているかを明確にし、今後の家庭学習の参考にしてもらうようにしました。なぜ基本が大事かを、具体的な問題を解説しながらお伝えします。

1. 位置の移動
カタツムリとカエルがマスの中を進みます。カタツムリは1回に1つずつ進みます。カエルは1回に2つずつ進みます。
  • 星の問題を見てください。カタツムリは5回進みました。着いた場所に青いをかいてください。
  • ハートの問題を見てください。カエルは4回進みました。着いた場所に青いをかいてください。
  • ダイヤの問題を見てください。カタツムリとカエルが同時に進みます。2匹はどこで出会いますか。その場所に青いをかいてください。

この問題では作業能力が求められます。約束に従って手を動かし、解答を見つけ出す「飛び石移動」という問題です。小学校入試でもよく出題されますが、それは主に次のような形です。

2. 飛び石移動
ヒツジはマスを1つずつ、ニワトリは1つとばしで、ウサギは2つとばしで、矢印の方へ進みます。
  • 上を見てください。ヒツジとニワトリはどこで出会いますか。そのマスに青いをかいてください。
  • 下を見てください。ウサギはヒツジにどこで追いつきますか。そのマスに赤いをかいてください。

このように、小学校高学年で学ぶ「旅人算」の考えにつながる問題です。 長年子どもたちを見てきて、出来不出来の分かれ目は結局「コマを正しく動かせるかどうか」という単純なことであると感じていましたが、今回のテストでその理由がはっきりわかりました。 今回のテストでは、3つの質問をしています。
  1. カタツムリは5回進みました。着いた場所に青いをつけてください。
  2. カエルは4回進みました。着いた場所に青いをつけてください。
  3. カタツムリとカエルが同時に進みます。2匹はどこで出会いますか。その場所に青いをつけてください。

3つの質問の正解率に注目してください。1の正解率は83%でしたが、2になると正解率は28%に落ち、3の入試レベルの質問では22%でした。つまり、2個ずつ4回動く作業が正確にできれば、応用的な問題(この場合はどこで出会うか)も解決できるのです。とすると、結局この難しいとされる「旅人算」につながる問題に正解できるポイントは、コマの動かし方が正確にできるかどうかにかかっており、一番基本となる課題をしっかり身につけておけば、間違いなくできるようになるということです。入試レベルの問題を繰り返し特訓するのではなく、一番基本となるコマの動かし方をしっかり身につけることが大事であることがわかります。応用ではなく、基礎が大事であることがお分かりいただけたでしょうか。

また、次の数の問題においても、正解率から見える学びの順序性の大事さがわかります。

3. 数の構成
動物村ではドングリで果物を買うことができます。
イチゴはドングリ1個、ミカンはドングリ2個、リンゴはドングリ3個、カキはドングリ4個、ブドウはドングリ5個です。
サルさんとクマさんがドングリを7個ずつ持ってお買い物に来ました。
  1. ミカンとカキを買うとドングリをいくつ払いますか。払うドングリの数だけ右のお部屋に青いをかいてください。
  2. サルさんは違う果物を2個買って、ドングリを7個払いました。どれとどれをを買ったと思いますか。その果物2つに青いをつけてください。
  3. クマさんは違う果物を3個買って、ドングリを7個払いました。どれとどれとどれを買ったと思いますか。その果物3つに青いをつけてください。

これは、ドングリで果物が買えるという前提で、それぞれの果物がいくつで買えるかという条件を踏まえて、ドングリ7個で買えるものを探す問題です。

1.は、数の合成で、ミカンは2個、カキは4個必要ですので、2つ買うと6個になることはわかるはずです。
2.は、ドングリ7個で何かを2個買ったが、それは何かという質問です。
3.は、ドングリ7個で何かを3個買ったが、それは何かという質問です。

つまり、2.は2つの数、3.は3つの数で7を構成するということです。一般的に「数の構成」は、2つの数で指定の数を構成する場合が多いのですが、3.のように3つの数を合わせて7にする問題もやっておく必要があります。
正解率をみると、1.は63%、2.は46%、3.は25%とだんだん落ち、難易度が上がっています。このことから、同じ「7の構成」でもレベルの違う問題を順序を間違えないで行うことの大切さがおわかりいただけると思います。早いうちから難しい問題に取り組ませてはだめなのです。また、1.と2. 3.の決定的な違いは、

1.・・・2つの数を合わせたらいくつか
2. 3.・・・合わせてこの数にするにはどのように買えばよいか

と、2. 3.では逆から聞いていることです。このように、テーマは同じでも問いかけの仕方が違うことで難易度が上がります。こうした逆からの問いかけは、さまざまな領域においてありますが、その問いかけによって「考える力」が磨かれるのです。「たくさんのペーパーをこなすのではなく、1枚のペーパーを大事にし、深い学びをしてください」とわたしたちが訴える理由はここにあるのです。

入試に向けた学習で、できるだけ早く難しい過去問ができるようになってほしいと願うのは当然のことですが、子どもが物事を理解していくには学びの順序が大切で、そこから外れたやり方では、表面上はわかったつもりになっても自分の力では解けていないのです。学びの順序を守ること、そして試行錯誤する時間をたくさん取ること、そのうえで最後にペーパーで確認し、より発展した問題に挑戦させること。この順序をぜひ守ってください。易しいからといって基本をおろそかにしないこと、これが受検対策の基本です。


※次回更新は12月1日(予定)です
 こぐま会代表 久野泰可 著「子どもが賢くなる75の方法」(幻冬舎)

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