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週刊こぐま通信
「室長のコラム」

2021年度私立小学校入試総括(1)

第748号 2020年12月4日(金)
こぐま会代表  久野 泰可

 お茶の水女子大学附属小学校の入試をまだ残していますが、ほとんどの学校の入試は終了しました。今年はコロナ禍の中で初めての入試で、学校側も感染症対策で相当神経を使ったと思います。学校説明会をはじめ、面接試験・行動観察の方法などきめ細かな対策を取って実施されました。今年の入試がどのように行われるのかをいろいろ考えましたが(→コラム735号)、予想通りの内容になりました。

  1. 一番注目した行動観察は密をつくらないように工夫され、すべての学校ではありませんが模倣体操をはじめとした運動やゲーム、制作活動などが中心に行われました。
  2. 面接試験が重視されるだろうと予想しましたが、予想通り面接時間を増やしたりして、家庭における子育てのあり方を中心に質問されました。子どもへの質問もこれまでより多く、「コミュニケーション能力」が問われていたようです。休園期間中の過ごし方に関する質問も多くみられました。
  3. 学力試験の内容は、30年以上さかのぼったような極めて基本的な問題が多く出されました。点図形・運筆模写・一音一文字・しりとり・図形構成・図形系列・同図形発見・分類計数といった昔から続く課題が多く出されました。また、予想した通り常識問題も数多く出されました。平均点が相当高い学力試験だったと思います。

「30年以上さかのぼった」と述べたのは、入試問題の変遷に関係があります。私が小学校入試に関わり始めた45年前頃は知能テストの問題でした。志願者が多くなり、この知能テストでは選抜試験に適さないと考えた学校側が次に行ったのは、大量のペーパーを課した入試でした。30~40枚のペーパーを使った学校もあったと思います。その時も知能テストの問題は含まれていました。今回出された、同図形発見・図形構成・同数発見・点図形・図形系列などが大変多く出されていました。そうした大量のペーパー試験の準備に対応できなくなった子どもたちが、心療内科などの病院に駆け込みました。それが社会問題になり、現場の医者から警告が発せられました。それを受けてペーパーを一切使わない試験が行われた時もありました。そうした苦い経験を踏まえ、それ以降コロナ前までの長い間、ペーパー試験は平均8枚前後になり、良く練られた「思考力」が問われる問題が数多く出されるようになりました。その中身はコラム740号でお伝えした通り、シーソー、つり合い、飛び石移動、地図上の移動、一対多対応、交換、数のやり取り、回転図形、言葉づくり、言葉つなぎ、魔法の箱といった、思考力・作業能力が要求される問題です。しかし、そのような難しい問題は今年の試験ではほとんど出されていません。ただ、基本的な問題が多い中で話をしっかり聞き、作業して問題を解かなければならない最近の傾向を踏まえた問題も少しだけ見られましたので2つほどご紹介します。

サイコロを使った位置の移動
ウサギとクマがサイコロを振って、マスの中を矢印の方向に動きます。2人は上のようにサイコロの目を出しました。
  • サイコロの目に従って進むと、ウサギはどこでクマに追いつきますか。その場所に青いをかいてください。

ここ数年は「飛び石移動」と呼んでいる、旅人算につながる移動問題が多く出されていました。どこで追いつくか、どこで出会うかといった問題ですが、そうした問題は今年は見当たりませんでした。類似した問題は、ここに紹介した「サイコロを使った位置移動」の問題です。この問題を出した学校は、以前から多くの難しい移動の問題を出していましたが、今回は、サイコロの目の数だけ進むとウサギはクマにどこで追いつくかという基本問題です。飛び石移動の要素も持っていますが、極めて簡単な約束です。しかし、意外とこの問題ができないのです。集中力を持続して作業できるかどうかが問われています。逆に言えば、こうした基本問題ができないと難しい「飛び石問題」はできません。その意味で、飛び石移動の基礎を問いかけた問題です。

数の変化
パンダとウサギが星のカードを3枚ずつ持っています。自分からは相手のカードは見えません。
これから相手のカードを1枚引きます。数が多い方が勝ちです。引いたカードは自分がもらえます。
  • ウサギが2のカードを引くと、パンダが勝ちました。パンダは星いくつのカードを引いたのでしょうか。その数だけイチゴのお部屋にをかいてください。
  • 今度はパンダが2のカードを引きました。すると今度もパンダが勝ちました。ウサギは星いくつのカードを引きましたか。その数だけリンゴのお部屋にをかいてください。
  • 2回勝負をした後、2人が持っているカードの星の数の違いはいくつですか。その数だけバナナのお部屋にをかいてください。

この問題は、トランプゲームをしたことがあれば経験があるかもしれません。「パンダとウサギが3枚ずつカードを持っています。ここから1枚ずつ引いて、カードに描かれた数が多い方が勝ちになります。」この約束をまず理解しなければなりません。子どもたちからの聞き取りでは、勝った方が相手のカードをもらえるとしていますが、負けた方はどうしたのでしょうか。相手のカードをもらえるのかもらえないのか、また勝った方は取られたカードをまた自分の方に戻せるかどうかは分かりません。ゲームですからいろいろな約束設定の仕方があります。今回は、引いたカードをそのままもらえるものとします。カードを引いて勝ち負けが決まったら、勝った方が相手のカードをもらうだけでなく、負けた方も引いたカードをもらえる場合です。

  1. ウサギが2のカードを引いたときパンダが勝ったということは、パンダは3のカードを引いたことになります。そうすると、パンダは1・3・3、ウサギは1・2・2のカードを持つことになります
  2. 今度はパンダが2を引いて勝ったということは、ウサギは1のカードを引いたことになります。そうするとパンダは3・3・2、ウサギは1・1・2のカードを持つことになります。
  3. その結果、2回勝負した後に2人が持っているカードの星の合計は、パンダは8でウサギは4になり、違いは4ということになります。

この問題は、コラム701号で紹介した次の問題(昨年度入試で出題)に類似した問題だといえます。

数の増減とやりとり
  • クマと、イヌと、パンダが持っているリンゴの半分の数を、同時に矢印の方にいる動物にあげます。2回同時に、矢印の方にいる動物にリンゴをあげたとき、パンダのリンゴの数はいくつになりますか。下のお部屋にをつけてください。

今回2つの問題を紹介しましたが、「話をよく聞く」「作業を通して解答を導き出す」という最近の傾向に沿った問題だといえます。基本問題が多かった今年の入試でも「考える力」が求められるよい問題も少なからずあります。それを次回以降、引き続き紹介したいと思います。

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