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週刊こぐま通信
「室長のコラム」

自然の中での遊びを大切に

第845号 2023年2月10日(金)
こぐま会代表  久野 泰可

 教室で授業する際、学習内容に関連していろいろな生活体験や遊びの経験を発表してもらうことがあります。理科的・社会的常識の学習だけでなく、話の内容理解に関しても、それぞれの経験を出し合って理解を深めていくようにしています。ある時、海に関する詩を読んであげたとき、「海に行ったことある人手を上げて」と言ったところ、手を上げなかった子どもが大勢いたことに驚いたことがあります。海に行ったことがないけれど、海に関する知識は豊富に持っているような子が多いということです。また、先日音を聞いてそれが何の音かを判断する授業の際にも、生活音は細かく区別できるのに、自然界の音、例えば浜辺に打ち返す波の音になると、水に関係することはわかっても、それを雨や滝の音と感じたり、中には食器を洗う水の音と勘違いしたりすることがありました。自然に接するチャンスが少ないので当然ですが、こうした自然界から遮断された生活で幼児期を過ごすことがいいのかどうか考えてしまいます。海に行ったことがない子どもに理由を聞くと、「だってお母さんは、海はべとべとするから嫌いだと言って連れて行ってくれないの」と、大人の都合で経験させてもらえない子どもが大勢いることがわかります。 だいぶ前のことですが、こぐま会でも夏の合宿で、静岡県の大井川で川遊びをしたことがあります。川に入って遊んでいるとき、突然「先生、川が流れている」と大きな声で叫んだ子がいました。流されないように踏ん張りながら、足元で水が流れる感触をそう表現したのでしょう。

6歳児になると季節の移り変わりについて学ぶ機会があります。理科的常識問題として受験対策も兼ねていますが、年中行事であったり、季節の果物・花などについて、経験を整理しながら知識として定着させていこうと考えています。しかし、図鑑的な知識だけで覚えている子と、経験を通して理解している子の差は歴然としていて、さまざまな質問に対する答え方が違います。経験がないと、順序性を聞かれた場合などは整理がつきません。知識として定着させるためにも、図鑑だけでなくぜひ経験を大切にしてください。

最近、自然の中で子育てをする考え方が広がり、西欧で始まった「森の幼稚園」の考え方に共鳴し、実践をする幼稚園や保育園が日本でも増えてきたように思います。ドイツなどでは園舎も持たず、毎朝森の入り口に集まったり、指定の川に集まって1日の保育をそこで行うという実践が多いようですが、自然環境や制度の異なる日本では「森のようちえん」として、園舎もしっかりありながら、毎日の保育を自然の中で遊ばせることを中心に行っているようです。日本の伝統的な「遊び保育」を中途半端な園舎で行うのではなく、自然の中で行うというものです。こうした教育を実践する人たちの全国組織もあるそうです。里山でさまざまな経験をさせる、子どもにとってはとても楽しい幼稚園のように思います。

2021年10月に発行された おおたとしまさ著『ルポ 森のようちえん SDGs時代の子育てスタイル』(集英社新書)には、全国各地の実践が紹介されています。やはり自然豊かな地方の幼稚園や保育園が多いですが、これからの日本の幼児教育を考えるうえで、大変興味のある実践だと思います。そうした環境がなくても、幼児教育の内容や方法を考えるうえで、「森のようちえん」の考え方を私たちは大いに参考にしていきたいと思います。

筆者は、「はじめに」の部分で次のように書いています。
森のようちえんの魅力と課題を明らかにしていくのが本書の役割ですが、取り急ぎわかりやすいメリットを一つだけ挙げるとすれば、今話題の「非認知能力」がぐんぐん育つということです。「生きる力」の土台といわれる「自己肯定感」も含まれます。「身体感覚」が研ぎ澄まされる効果もあるでしょう。
(中略)
仮に森のようちえんに子どもを通わせなくても、自分自身のなかに森のようちえん的視点が芽生えます。その視点で子どもを見れば、自分自身で森のようちえんできる ようになります。
(本文4ページより)

教室で実践している私にとっては、目次の中見出しを見れば、幼児教育を考える際に大事にしなければならない視点にはっと気づくのです。
第1章
「おもちゃ」なんていらない ヨーロッパの「森の幼稚園」との違い
第2章
「おとな」は見てるだけ!? モンテッソーリやシュタイナーとの共通点
第3章
「せいちょう」を焦らない 非認知能力を引き出す自然のマジック
第4章
「きょうしつ」って何? 森を揺るがす幼児教育・保育無償化制度
第5章
「しぜん」はこどもの中に 都市部でもできる森のようちえん
 (目次より)

こぐま会では、幼児期の子どもたちへの指導に際して「事物教育」という考え方を掲げています。具体的には「3段階学習法」という、(1)体を使い、(2)手を使い、(3)頭を使って認識能力を高める方法で実践していますが、「体を使って物事に働きかける経験」は、自然の中で行うことが一番意味のある経験だと思います。森のようちえん的視点を教室での授業でどう生かすことができるかどうか、物事に働きかける経験が大事だと言ってきたこれまでの「事物教育」の意味を改めて考えてみたいと思います。


 重版決定!! こぐま会代表 久野泰可 著「子どもが賢くなる75の方法」(幻冬舎)

読み・書き・計算はまだ早い!

家庭でできる教育法を一挙公開
子どもを机に向かわせる前に実際の物に触れ、考えることで差がつく。
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