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週刊こぐま通信
「室長のコラム」

スパルタ教育では子どもの考える力は育たない

第844号 2023年2月3日(金)
こぐま会代表  久野 泰可

 幼児教育ブームが低年齢化している一つの大きな原因は、英語教育に対する関心が高まっているからだと思います。「英語を身につけなければ、これからの社会で戦えない」「耳を鍛えるためには早ければ早いほどいい」・・・そんな考え方が支配的です。果たしてそうでしょうか。「母国語でない英語を日本人が身につけるということはどういうことか」「英語を武器に何をなそうとしているのか」「本当に身につくためには何が必要か」、そうしたことが置き去りにされたまま、早い方がいいという考え方だけが独り歩きしています。

私が幼児教室にかかわったこの50年間の中で、現在の状況は「第二次幼児教育ブーム」のように思います。私が大学を卒業するころ、井深大氏の『幼稚園では遅すぎる』(サンマーク文庫,1971)」という本をきっかけに、幼児のための早期教育、いわゆるおけいこ事が盛んでした。この時が私が経験した「第一次幼児教育ブーム」だったと思います。「幼児開発協会」なるものができ、多くの人たちが結集しましたが、教育理念がばらばらなため、最後は空中分解してしまいました。その中で、幼稚園受験や小学校受験の対策を行う幼児教室もたくさん生まれました。日本の伝統的な「遊び保育」だけではだめだという発想から、幼児期における正しい知育の在り方を追究し、新しい考え方で幼児期の教育の在り方を考え実践する傍ら、受験対応の指導もしていました。いわゆる「知育」が受験と結びつき、意図的な教育はすべて受験のための教育だというように、捉えられていました。しかし、現在のように首都圏だけでも個人塾を含め2,000を超すというほど多くの教室があったわけではありません。まともな考えで幼児期の基礎教育を行い、その結果としての受験に取り組んできたわけですから、合格だけを目的とした幼児教室があったわけではなく、しっかりとした教育理念をもって受験対応の指導が行われていました。当時は、知能検査の内容が中心の入試問題になっていましたから、年長の夏ごろから少しトレーニングすれば合格できた時代でもありました。

その後、受験者の増加に伴って問題も変化する一方、「受験ビジネス」が台頭して「合格」させることだけを目的とした教室が増え、現在の過熱化した生徒の奪い合いが始まったのです。

学校からの情報が未公開であることに目をつけて情報操作を行い、難しいことをやらなければ合格できないと謳って生徒を集めるスパルタ教育の塾が出始め、その結果受験業界が混乱し始めています。教育理念を掲げ、現場で体を張って子どもたちの教育に情熱を燃やしていた教室創始者がさまざまな理由で現場から去ると、教室が閉鎖されたり、また買収されて名前は残ったものの創始者の考え方は受け継がれず、受験ビジネスとしてだけ生き残ったりしています。スパルタ教育を「受験ビジネス」の売りにして台頭し始めている新しい動きは、幼児教育に対する教育理念などは全く持たずに、ただ「合格」だけを目的にしたものです。わかりやすいスパルタ教育を売り込んでいるにすぎません。しかし、厳しい指導が合格率を上げるというエビデンスはあるのでしょうか。もともとしっかりとした家庭学習で育った優秀な子が集まって合格しただけであり、厳しい指導で思考力が伸びて合格につながったという証明はどこにもありません。

手っ取り早い教え込みの教育では、思考力は伸びません。最近転塾して来られるご家庭が多いのは、保護者の方がその教育に疑問を感じ、実際子どもが行くことを拒否するようになったケースがほとんどです。お話を伺うと、私たちの想像を超えて非教育的な異常な事態が教室で起こっているのです。
  • 理解が遅く、ついていけない子や泣き出す子は外に連れ出す
  • よくできた子にご褒美としてものを与え、子ども同士を競争させる。それだけではなく参観している親同士を競争させる
  • 理解の遅い子をみんなの前でしかりつける
  • 常に厳しい態度で子どもに接し、親子に対してカリスマ教師を演じる
  • 行儀の悪い子の足を縛り付けたりして、体罰まがいのことを指導として行う
想像を絶するこうした「厳しい」指導に比べ、こぐま会の主体性を育てる教育を「易しい」と感じる方もいるかもしれませんが、指導理念を変えるつもりは全くありません。安心して発言できる人間関係の中で、考える力を育てるだけでなく、学ぶ意欲を育てること、そして将来の集団活動のなかで、共感できる人間関係を築く力を育てることも大事な指導であると考えています。その総合された形で「合格」が判定されるわけですから、厳しい指導で学力だけを高めておけばいいというものではありません。

英語の早期教育が牽引している現在の幼児教育ブームを、一度立ち止まって冷静に考えてみる必要がありそうです。英語教育の低年齢化が受験準備の低年齢化につながり、早くやることが競争に勝つためには必要だと宣伝され、3歳ごろから過去問に取り組ませるといった異常事態を引き起こす間違ったやり方に対しては、現場で子どもの指導に当たる人間の一人として、警告を発していかざるを得ません。


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読み・書き・計算はまだ早い!

家庭でできる教育法を一挙公開
子どもを机に向かわせる前に実際の物に触れ、考えることで差がつく。
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  • 飲みかけのジュースから「量」を学ぶ
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