週刊こぐま通信
「室長のコラム」体を通して言葉を紡ぎだす
第846号 2023年2月17日(金)
こぐま会代表 久野 泰可
こぐま会代表 久野 泰可

こぐま会では、視覚的な情報を遮断し、触策(手探り)だけで物事の特徴をつかむ「ひみつ袋」の学習を、年少児~年長児を対象に行っています。独自に開発した袋の中に、生活用品を入れたり、パズルを入れたり、いろいろな形をした平面図形やつみ木を入れて、
- 見本と同じ生活用品やつみ木を、袋の中から触策だけで見つけて取り出す
- 袋の中に入っているものの名前を言葉で表現する
- 袋の中に入っている平面図形やつみ木を触り、それを紙に描いて表現する

この触策活動を言語の教育に応用できないかと考え、袋の中に入っているものを触った感じを子どもたちに言葉で表現してもらう授業を行っています。物の名前を言えばよいわけではないので、どのように表現するか私たちも興味深く見守ります。先日も、個別指導の際にこの課題をやってみました。以下の記録メモは、もうすぐ5歳になる子どもが表現したものです。
- たわし
- チクチクする。草のような感じ。上に小さな丸がついている
- LEGO
- 上に丸いっぽいものがついていて、下にちっちゃな丸がついている
- スーパーボール
- 丸くなっていて転がせそう。ちょっと柔らかい。すべすべ
- 立方体つみ木
- サイコロみたい。全部四角みたい
- 上面に毛糸がついているつみ木
- 上がふわふわしている。下は端っこに四角がついているつみ木
- つみ木でできたパンのおもちゃ
- 下が丸い。ハンバーガーのようなパン。ちょっと固い
- 鉄球
- 丸い。重い。冷たい。すべすべしている
名前を知っているものもあったはずですが、「“触った感じ”を言葉で表現してください」と伝えているので、上のような言い回しで答えてくれました。身につけている言葉を最大限使って表現しようとしていることがよくわかります。少し前になりますが、大阪のある幼稚園で行った公開授業でもこの課題を扱ってみました。はじめて会う年長の子どもたち12名ほどで行いましたが、見学されていた園長先生は、子どもたちのかかわりに大変興味を持ち、発する言葉を聞いて「子どもって、こうして言葉を紡ぎだすんですね」と感心されていました。
子どもは生まれ落ちた瞬間から、もって生まれた五感を通して外の世界を認識していきます。研ぎ澄まされた感覚をもって生まれたのに、自然界から離れて生活していると、成長するにしたがって感覚がどんどん鈍くなっていくように思います。目で見ることや耳で聞くことは増えても、手で触ってみるとか、味わってみるとか、においをかいでみるといった経験が少なく、その感覚がだんだん退化していくようにも思えます。
実感を伴わない「言葉」は、論理性の欠如だけでなく、みずみずしい感覚を欠いた言葉になってしまいます。特に視覚的な情報にあふれている子どもの生活環境を考えると、もっと五感を使って物事を認識していく経験を持たせる必要があります。そして前回のコラムでもお伝えしたように、ぜひ自然界に飛び込んで「体を通して言葉を獲得していく」経験をたくさん持たせてあげてください。
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子どもを机に向かわせる前に実際の物に触れ、考えることで差がつく。- 食事の支度を手伝いながら「数」を学ぶ
- 飲みかけのジュースから「量」を学ぶ
- 折り紙で遊びながら「図形」を学ぶ
- 読み聞かせや対話から「言語」を学ぶ