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週刊こぐま通信
「室長のコラム」

入試結果報告会を終えて

第839号 2022年12月16日(金)
こぐま会代表  久野 泰可

 今年の私立小学校の入試がどのように行われたかをお伝えする「入試結果報告会」を12月11日に実施しました。午前中は会員の皆さま、午後は一般の皆さまを対象に、学力試験の内容と行動観察の課題を分析してお伝えしました。今年の入試全体の総括は、コラム 835号836号 で報告したとおり「学力試験はより難しくなり、行動観察はコロナ以前のやり方に戻りつつある」で間違いないと思います。今回の報告会ではその内容を具体的にお話ししました。女子校を中心に19校の入試問題を扱いましたが、事前に予想した問題がどの程度出されたかという視点でも分析しました。最近の傾向を踏まえた問題が数多く出題され、予想通りの出題であったことを確認できました。

9月の段階では、最近の出題傾向を踏まえて領域別に次のように予想していました。

未測量単位の考え方/シーソー/つりあい
位置表象左右の理解/四方からの観察/飛び石移動/地図上の移動
一場面を使った総合問題/数のやりとり/交換/暗算
図形図形構成―分割/対称図形/重ね図形/回転図形
言語一音一文字/しりとり/言葉つなぎ/言葉づくり/話の内容理解
生活 他常識/魔法の箱/回転推理/図形系列

コロナ禍3年目の入試であるということを踏まえると、かなり難しい問題も多く出されるだろうと考えていました。実際、今年の入試問題は難しくなりましたが、その中身がこれまでとは少し違っていて、論理的思考力を求めるというよりも、記憶の要素を絡め、聞く力を最大限重視し、限られた時間の中でどれだけ解答できるかを見る「知能テスト方式」の難しさが全面に出たように思います。時間制限がこれまで以上に厳しく、問題によっては全部できなかったと報告する子が例年以上に多く見受けられました。「時間があっても解けない」というのがこれまでの問題の難しさですが、今年は「時間制限があるためにできない」というたぐいの問題が多かったといえます。予想した中で、「思考力を要する難しい問題」として例年対策を強化してきた次のような問題が、これまで見た19校の問題の中にはほとんど見当たりません。

未測量単位の考え方
位置表象飛び石移動
数のやりとり/交換
図形対称図形/回転図形
言語言葉つなぎ/言葉づくり
生活 他魔法の箱/回転推理

しかしその反面、これまであまり見られなかった新しいタイプの問題が工夫されて出されています。その中には6領域の難しい問題というより、遊びやゲームで培った「見通す力」のようなものが求められています。たとえば次のような問題です。

1. 音による方眼上の位置の移動(A校)
音のお約束でマスの中を進みます。
太鼓がなったら矢印の方に3つ進みます。
ラッパが鳴ったら矢印のほうに2つ進みます。
すずが鳴ったら矢印の反対方向に1つ進みます。
  • 丸にはクマさんが立っています。(音:太鼓→ラッパ)着いた場所に二重丸をつけてください。
  • 今度は丸のところにキツネさんが立っています。三角を通ってひし形に行きます。できるだけ少ない数の楽器を鳴らして行くには楽器を何回鳴らせば良いですか。下のお部屋にをかいてください。

方眼上の位置移動と言ってしまえばそのように見えますが、「どこにつくか」だけでなく「目的のところにつくまでに、楽器を何回鳴らしたか」の問いは、質問の視点を変えた問題であり、子どもたちも戸惑った新しい問題づくりの一つとして注目しておく必要があります。結果から過程を問いかけているため、「逆思考」につながる問題ともいえます。逆からの問いかけによって「本当にわかっているか」を確かめようとしています。このタイプの問題が最近いろいろな領域で見られます。

次の問題です。

2. 推理(B校)
左のお部屋を見てください。
マスの中の同じ形が線でつないであります。まっすぐに縦や横に進んでつなぎますが、他の印とつなぐ線と重なったり、斜めに進んではいけません。
  • 同じように右のお部屋の形を線でつないでください。

方眼上に描かれた同じ形を線で結ぶ問題ですが、約束があります。
「線は縦か横にしか描けず、斜めには描けない。また、他のしるしをつなぐ線とぶつかってならない」
この条件を満たして同じ形を結ぶことができるかどうか。ここにある問題に沿って考えると、十字と星の形をどう結ぶかが問題になります。近いので、どうしても星を結びたくなるものですが、そうすると十字やハートを結ぶ線と交差してしまいます。星同士を結ぶのに、遠回りの発想ができるかどうかがポイントです。条件に合わせて動き方を工夫することが求められているわけですが、こうした発想はどんな経験の上に成り立っていくのでしょうか。少なくとも結論に行き着くまでに、失敗を繰り返す試行錯誤の時間を保障することが必要だと思います。

また、こんな問題も見られました。

3. 図形構成(C校)
動物が道を通って果物のところに行きます。でも行けるところと行けないところがあるようです。お話をよく聞いてください。
  • 左の問題です。ウサギはリンゴとバナナに行けますが、カキには行けません。空いている所に入る道の絵を下から選んでをつけてください。
  • 右の問題です。クマはイチゴとサクランボに行けますが、スイカとリンゴには行けません。空いている所に入る道の絵を下から選んでをつけてください。

動物が道を通って果物のところに行くという前提で、条件に合う道を作るにはどの絵を入れたらいいかという問題です。何かこんなゲームがあったように記憶していますが、ここでは図形構成の観点で問題が出されているわけです。「行ける」「行けない」条件を満たすために、「つながる」「つながらない」という道づくりとして生かせるかどうかがが問われています。ゲームとしての道づくりは楽しいものですが、そうした「遊び」の中で培われていく発想が入試でも問われているという事実は、押さえておく必要があります。

私が20年間の現場での実践を踏まえて作り上げた「ひとりでとっくん100冊シリーズ」の中に、「ゲームブック」というものが2冊あります。これを作らなければならないと考えたのは、今回ご紹介したものに類似した問題が入試で数多く出された時期があったからです。それを踏まえて作ったのがこの2冊です。その巻頭言には次のように書きました。

「ゲームブックは与えられた約束を素早く理解し、そのルールに従って素早く問題を処理する能力を育てるための問題集です。1つ1つの問題で求められている思考力は、すでに各領域で学習している内容ですが、「その場の指示・約束」を正確に、素早く処理できることがポイントです。入試問題は、出題する小学校側も相当問題を研究しているため、問題を見ただけでは、どんな問題かわからないものが増えています。この問題集に掲載している問題のようなゲーム感覚のタイプの問題も練習してください・・・」

一時期なくなったこうした問題がまた復活するのかもしれませんが、復活するかしないかに関係なく、「与えられた約束を素早く理解し、そのルールに沿って問題を素早く解く練習」はぜひ実行してください。今回紹介した3つの問題は、これまで入試総括をする際に紹介してきた「思考力が要求される問題」とは異質の問題ですが、今年はこうした問題の出来具合が合否に関係したことは間違いありません。生活や遊びの中で培われていく問題解決力が求められる、こうした問題が今後増えるかもしれません。その意味でも、入試対策はペーパー学習だけでなく、豊かな生活体験や遊びを通して身につけていく「伸びしろのある学力」を育成することが必要です。



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