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週刊こぐま通信
「室長のコラム」

今年の入試はどのように行われたか (2)
- 行動観察はどのように変化してきたか -

第836号 2022年11月18日(金)
こぐま会代表  久野 泰可

 コロナ禍の中で3回目となる2023年度の入試は、学力試験も行動観察も変化しました。前回のコラムで書いたように学力試験はやや難しくなり、行動観察も命令指示行動からやや変化が見られました。特に、行動観察がどのように行われるかが注目されていましたので、具体的な問題を紹介しながら分析してみたいと思います。行動観察を重視してきた2つの学校について簡単にまとめました。コロナ禍前年の2020年度入試(2019年秋実施)から今年行われた2023年度入試までの4年間の内容をまとめてみると、明らかにコロナの影響で変化したことがわかり、また今年の入試でコロナ前のやり方に戻りつつあることがわかります。

A校


 2020年度2021年度2022年度2023年度
運動指示 見本の先生を見て、音楽に合わせて動く。 「身体を使ったジャンケン」
テレビの映像を見ながら、身体を使ったジャンケンをする。
普通のジャンケン、後出しで勝つジャンケン、後出しで負けるジャンケン
「指示行動ジャンケン」
あいこにならないように、自分の両手でジャンケンをする。
「テレビを見ながら同じ動きをする」
『街に出かけよう』
行進・スキップ・ビル・橋・池・遊園地などを眺めるポーズを指示通りに行う。
スカイツリー・ハートタワー・観覧車タワー・ヘリコプター・飛行機・最後に好きなポーズでタワーを作る。
共同活動 「集団絵画」
グループで相談して模造紙の枠の中に好きな料理を描き、パーティーのテーブルの場面を作る。

絵を描いている合間に先生に「何を描いているの」「どうしてこれを描いているの」などを質問される。
(共同活動なし、代わりに)
手先の巧緻性(ぬり絵)
ぬり絵の合間に口頭試問
数の一対多対応の問題
「模倣体操」
テレビの映像と音楽に合わせて体操をする。
体操(1):肩たたき
体操(2):腕振り/膝たたき/背伸び/手を振る/キラキラ
体操(3):グーパー

「紙コップタワーづくり」
2~3人で協力してタワーを作り、初めは自分で作り、その後3人で話し合って一緒にタワーを作る。

<A校の分析>
コロナ前の2020年度入試では、グループで相談して模造紙にパーティーのテーブル場面の絵を描く「集団絵画」が行われましたが、コロナ禍の2021年と2022年には、体を使ったジャンケンや模倣体操が行われました。密を避けるためにテレビの映像を見せて行っています。2021年度は、これに加えて手先の巧緻性や数の問題などの個別テストを行っています。そうした工夫がありましたが、今年は運動系の問題をやった後に、紙コップを使ったタワーづくりを3人で行っています。すべてがコロナ前に戻ったわけではありませんが、グループで相談したり、話し合ったりする要素が取り入れられてきています。

では、B校の場合を見てみましょう。

B校


 2020年度2021年度2022年度2023年度
運動 ケンパー 「準備運動」
輪になって歩いたり走ったり、ケンケンやスキップをする。
宇宙(身体を使った)ジャンケン
共同活動 おみこしづくり 「指示行動」
3つの島を動物模倣をしながら移動する。
言葉遊び島/しりとり/折り紙島/折り紙制作/書いて作る島/形を使った制作
「集団制作」
天の川づくり
宇宙の基地づくり

「風船運び」
用意された道具を使って風船を箱から箱へ運ぶ。
テーマ:キャンプ
(5~6人のグループで行う)

「テント張りゾーン」
置いてあるものを使って、グループで協力してテントを張る。

「紙コップタワーゾーン」
紙コップを積んでいく。

「魚釣りゾーン」
磁石タイプの魚釣り、竿は人数分はない。
段ボールでできた魚、風船でできた魚がビニールシートの中にいた。
釣った魚を料理する場所があった。
自由遊び ボールすくい・輪投げ・ボウリングの3種類の場所の好きなところで遊ぶ。

<B校の分析>
私立女子校における行動観察の典型的な活動をいつも行っているB校ですが、コロナ禍1年目の2021年度入試では、さすがにそれまでの共同活動の形式はなくなり、運動や指示行動に代わり、個別作業が増えました。コロナ禍2年目の2022年度では、早くも集団活動が少し取り入れられ変化しました。そして今年の行動観察は、キャンプをテーマにそれぞれのゾーンで共同活動が組み入れられ、コロナ禍以前の方法に戻っています。

以上2校の行動観察を見てきました。2021年度入試の行動観察は「命令指示行動」がほとんどでしたが、翌2022年度の入試で多少変化しました。今年はコロナ前の方法にすべてが戻ったわけではありませんが、集団活動を何とかやり遂げたいという学校側の工夫が伝わってきます。

長い目で行動観察の変遷を見てみると、女子校で自由遊びをさせて子どもたちの様子を観察したのが始まりです。一方、命令指示行動は、運動課題を使いながら集団活動における指示がしっかり聞けるかどうかを見たいという視点で、昔から行われてきました。この自由遊びと命令指示行動に新しく加わったのが、非認知能力を見る「課題を与えてそれをみんなで解決する」活動でした。密を作って相談することに意味のある活動をさせ、その様子を観察する集団活動でしたが、コロナ禍で「三密」を避ける対策が徹底し、それが出来なくなって運動主体の指示行動に変化したのがコロナ禍の行動観察でした。今後感染状況がどうなるかなど予測もつきませんが、そうした状況を見極めながら、学校側は「非認知能力」を見る方法をいろいろ工夫してくると思います。集団活動の基礎を見る課題ですから、どんなやり方で行われようとその対策に変化はありません。聞く力・話す力・他者への思いやり・最後まで頑張りぬく気力など、さまざまな視点で求められるそうした力は、訓練によって覚え込んで身につくわけではありません。普段の家庭生活や園での生活を見直しながら、経験知を積み上げていくしか有効な対策はありません。型にはまった受け答えは、すぐに見抜かれてしまいます。何が起こるかわからない行動観察の場でとっさに判断する力は、自らの経験を通して身につけた本物の力です。学校側が一番嫌がる「教え込まれた対応」では、高い評価を得ることはできません。商品化された「型を身につける対策」を行えば行うほど、マイナス要素に繋がることを知っておくべきです。子どもの判断力を養うためにどうするか・・・それはまず普段の生活の中で行うことが基本であるということを肝に銘じてください。


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