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週刊こぐま通信
「室長のコラム」

10の思考法による初めてのテスト

第840号 2022年12月23日(金)
こぐま会代表  久野 泰可

 こぐま会では、年間の指導内容を「未測量」「位置表象」「数」「図形」「言語」「生活 他」の6つの領域で内容を考え、指導してきました。しかし、年齢が下がるほど領域は未分化であるということと、考える力を育てるためには、領域ごとに分断してしまうより領域を貫く思考法で考えた方が実体験に近いし、カリキュラムが立てやすいということもあり、「考える力を育てる10の思考法」の観点を大事にしてきました。一つずつの中身は、これまで6領域で学習してきたことと同じですが、違う領域の学習内容を同じ思考法の観点で結びつけることによって、生活や遊びの実体験がいかに大事であるかということがよくわかります。

12月11日に行った「2023年度入試結果報告会」と同じ時間帯で、4月から年中になる子どもたちを対象に、2年後の入試に向けてこれから積み上げていく学習のレディネスを確認する「学力チェックテスト」を実施しました。今回のテストではすべて具体物やカードを使いました。これまでどれだけ勉強してきたかをペーパーで確認する形式ではなく、仮に机に向かうペーパー学習を行っていなくても、生活や遊びの中で考え、問題解決をしてきた経験があればできると判断し、問題を作成しました。むしろその方が、ペーパー問題をたくさんこなして身につけてきた薄っぺらな学力よりも応用力のある問題解決能力として身につき、伸びしろのある学力の育成に役立つはずです。「10の思考法」でテスト問題を作成したのは初めてですが、実際に行ってみて、3~4歳の子どもたちには有効な内容であるという確信を持ちました。実際に行ったテストは以下のようなものです。

1. ものごとの特徴をつかむ
私は誰でしょう(生活用品のカードを使った分類)
2. いくつかのものを比較する
重さくらべ(2つの箱・3つの箱)
数の比較(どちらが多いか・どちらがいくつ多いか)
3. ある視点に沿ってものごとを順序づける
3つの場面の時系列(絵カードを使って)
大きさの系列化(6枚の円形カードを使って)
4. 全体と部分の関係を考える
欠所補完(全体の絵と部分の絵の照合)
5. 観点を変えてものごとを捉える
水量の保存(ジュースの移し替えによる変化)
6. ものごとを相対化して捉える
大きさの相対化(より大きくて、より小さい)
数の相対化(より多くて、より少ない)
7. 逆に考える
逆対応(飲んだジュースの量・食べたホットケーキの量)
8. あるものをひとまとまりとして捉える
包含除(12個のリンゴを3個ずつお皿に入れると)
一対多対応(4頭のウマに2本ずつニンジンをあげると)
9. ものごとの法則性を発見する
並び方の法則性(並んだおはじきの法則性を発見する)
10. AとB、BとCの関係からAとCの関係を考える
言葉による三者関係(3本の色鉛筆の長さを推理する)

具体的な問題を紹介しましょう。

1. ものごとの特徴をつかむ
「私は誰でしょう」
これからするお話に合うカードを探してください。
  • 私は料理をする時に使います。手に持って使います。私はスープをすくったり、火にかけたりしません。私のカードを取ってください。
  • 私は食事をする時に使います。手に持って使います。入れ物ですが、ご飯は入れません。私のカードを取ってください。

2. いくつかのものを比較する
「重さくらべ(2つの箱・3つの箱)」
これからいろいろな箱の重さを手に持ってくらべてもらいます。
  • まず、2つのアイスクリームのカップを手に持ってくらべてみてください。どちらが重いですか。では、重い方のカップを持ち上げてください。
  • 次に、3つの箱を手に持ってくらべてみてください。重い順番を考えて机に並べてください。

「数の比較」
今度は数をくらべましょう。
  • イチゴの絵を出してください。2つのお皿のイチゴは、どちらが多いですか。多い方におはじきを置いてください。
  • 紙をひっくり返してミカンの絵を出してください。多い方のミカンの数はいくつ多いですか。その数だけ多い方のお皿の下におはじきを出してください。

3. ある視点に沿ってものごとを順序づける
「3つの場面の時系列」
  • 3枚の絵を見て、お話の順番を考えて並べてください。
  • どんなお話だと思いますか。お話してください。

「大きさの系列化」
  • 大きさの違う丸いカードがあります。この中で1番目に大きいカードはどれですか。
  • では、4番目に大きいカードはどれですか。
  • カードを大きい順になるように並べてください。

4. 全体と部分の関係を把握する
「欠所補完(全体の絵と部分の絵の照合)」
  • この絵の空いているところに入る絵を選んでカードを置いてください。

5. 観点を変えてものごとを捉える
「水量の保存」
(先生が実際に保存の容器を使って、水の変化の様子を見せてくれる)
同じ大きさの2つのコップに同じ量のジュースを入れました。
それから片方のジュースを背の高いコップに移しました。
するとジュースはこのようになりました。
太郎君は最初のコップのジュースを全部飲みました。
花子さんは背の高いコップのジュースを全部飲みました。
  • 2人が飲んだジュースはどちらが多いですか。多いと思う方におはじきを置いてください。両方とも同じだと思ったら両方におはじきを置いてください。
  • どうしてそう思ったかお話してください。

6. ものごとを相対化して捉える
「大きさの相対化」
  • 青い丸より大きくて、赤い丸より小さい丸を鉛筆で真ん中にかいてください。
「数の相対化」
  • 3個より多くて、5個より少ない数はいくつですか。その数のおはじきを真ん中に置いてください。

7. 逆に考える
「逆対応」
  • 3匹の動物にジュースをあげました。今残っているのは飲み終わった後のジュースです。この中で1番ジュースをたくさん飲んだのは誰ですか。その動物におはじきを置いてください。
  • 今度は4人のお友だちにホットケーキをあげました。ホットケーキは、はじめ上のように真ん丸でした。今残っているのは食べ終わった後のホットケーキです。この中で1番少なく食べた人におはじきを置いてください。

8. あるものごとをひとまとまりにして捉える
「包含除」
(リンゴの消しゴムが12個、紙皿が5枚ある)
  • ここにあるリンゴを3個ずつお皿に入れてください。お皿はいくつできましたか。
「一対多対応」
  • ここにいるウマに2本ずつニンジンをあげます。ニンジンは何本いりますか。その数だけニンジンのお部屋におはじきを置いてください。

9. ものごとを法則性を発見する
「並び方の法則性」
  • 色の並び方のお約束を考えて、空いているところに入るおはじきを置いてください。

10.AとB、BとCの関係からAとCの関係を考える
「言葉による三者関係」
  • 赤と青と黄色の色鉛筆があります。黄色は赤よりも長いです。赤は青よりも長いです。では、黄色と青の鉛筆はどちらが長いですか。長いと思う方のお部屋におはじきを置いてください。

この中で、違う領域の課題を同じ思考法でテストしたのは、2、3、6の課題です。

「2. いくつかのものを比較する」では、「重さくらべ」と「数の比較」を行いました。「比べる」行為はすべての学習のもとですから大事です。「3. ある視点に沿ってものごとを順序づける」では、3枚の絵を使った「時系列」の問題と6枚の円形カードを使った「大きさの系列化」を行いました。また「6. ものごとを相対化して捉える」では、「大きさの相対化」と「数の相対化」の2つを行いました。このように同じ思考法が求められる内容が異なる領域にあるということを知ることは、指導する教師にとっても必要な理解ですし、領域別の学習でどんな思考を育てるのかを理解するには大変意味のあることです。2年後の入試を目指す子どもたちに、今からペーパーのみを使った学習を行っても本当の考える力は身につきません。学力診断をするにも、ペーパーではなく具体物やカードを使って試行錯誤させることが大事ですし、答えを出すプロセスを見てあげることが大事です。そんな考え方で行った今回のテストですが、子どもたちの理解の現状をつかむことができ、私たちにとっても大変勉強になりました。

小学校入試を考えるご家庭が増え、受験者は毎年微増しています。情報がほとんど開示されず、受験を希望する子どもたちがどんな学びをしたらよいのかがわからない状況下で、塾主導の受験教育が間違った方向に動き始めています。開始時期の低年齢化、スパルタ教育の台頭、できない子どもを容赦なく切り捨てていく非教育的な対応、合格さえすれば何でも許されるという危険な思想が生まれてきています。これまで理念を掲げて真面目に幼児教育に取り組み、その結果として受験に取り組んできた多くの指導者は、なりふり構わぬ新興勢力の台頭に心を痛めています。教師や親が子どもに厳しい対応をする権威主義的教育では、学力を支える非認知能力を育てることはできません。

※次回の更新は1月13日(金)です

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