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週刊こぐま通信
「室長のコラム」

空間認識をどう育てるか

第816号 2022年6月10日(金)
こぐま会代表  久野 泰可

 5月15日に実施した「第1回 全国幼児発達診断テスト」の結果を見ると、位置表象に関する問題の得点率が年長・年中ともに低いのが目立ちます。KUNOメソッド6領域の中の一つである「位置表象」は、図形教育の基礎としての空間認識を育てる大事な学習です。ステップ1~7までの学習課題を次のように定め、教室での指導にあたっています。

step1「前後・上下関係」
・前後関係の相対化・系列化
・上下関係の相対化・系列化
・方眼上の位置の対応
・位置の記憶(つみ木・方眼)
step2「左右関係」
・右手・左手の理解
・交差点の曲がり方
・生活空間での位置関係
step3「方眼上の位置と移動」
・右手・左手の理解(復習)
・方眼上の位置の理解
・方眼上の位置の言語化
・方眼上の位置の移動
step4「四方からの観察(1)」
・四方からの具体物の写生
・カードを使った場所さがし
・いろいろなものの四方からの観察
step5「四方からの観察(2)」
・四方からの観察(二者)
・反対から見たときの位置関係
・反対から見たときの写生
step6「地図上の移動、飛び石移動」
・地図上の移動
・すごろく移動
・飛び石移動
step7「総合」
・総まとめ

子どもたちは、生まれて以降自分を取り巻く周りの環境への働きかけによって空間認識を育てています。教室で行う学習課題は、上下関係・前後関係・左右関係を基本とし、あとはその組み合わせで、上下 - 左右関係(方眼上の位置)、前後 - 左右関係(四方からの観察)へと発展していきます。基本となる3つの関係で一番難しいのは「左右関係」です。自分の右手 - 左手の理解から始まり、自分以外の右手 - 左手の理解へと発展していきます。向かい合った友だちの右手は、自分の左手の側にあるという関係を理解するまでには少し時間がかかります。相手の立場に立って右・左を考えることの難しさは、視点を変えてものを見ることの難しさにつながっています。このことは、一つのものの見え方をその場に行かないで推理する「四方からの観察」や、歩く人の立場に立って交差点を曲がる「地図上の移動」の難しさにつながっています。

今回出題した位置表象の課題は、(1)「方眼上の位置の対応」、(2)「右手 - 左手」、(3)「交差点の曲がり方」の3つでしたが、全体の正解率は、(1)62%、(2)56%、(3)58%と低く、年中児に限って言えば、(1)47%、(2)40%、(3)47%とさらに低くなり、子どもたちにとっての位置表象の難しさがわかります。大人でもよく「方向音痴」ということが言われます。地図が読めない、一度行った場所にもう一度行けない、道順を説明できない・・・こうした大人の状況も、空間認識と深くかかわっています。もしかしたら幼児期の体験に何か欠けていたものがあったのかもしれません。「表象」は、以前の行為を想起することですから、自分自身の行為を思い出しイメージ化するということです。例えば、自分が歩いてきた道を絵で表現できるかどうか、一度行ったところを地図で確認し、その地図を読み取ってナビに頼らずその場所に行けるかどうか・・・こんな大人の日常的な経験の中に、もしマイナス面があるとすれば、その原因は意外と幼児期にあったかもしれません。そう考えると、以下のような経験が意味を持つかもしれません。
  1. 自分の家の周りにある建物などの模型を作って、箱庭のように再現できるか
  2. 自分がある場所に行きたい時、その道順を絵に描いたり言葉で説明したりできるかどうか
  3. 自分が今歩いてきた道順を再現できるかどうか
私がこんな難しい提案をするのは、以前小学校の入試で、校門から試験会場まで歩いてきた道順を、その学校の模型を使って説明させる問題が出たことがあるからです。私はこの問題に少し驚き、「表象」ということの意味を考えました。自分が歩いてきた道順を、模型を使って説明させる・・・これこそ「位置表象」の学習には最適ではないかと考えたからです。

私には小さな孫がいて電車を見るのが好きなのですが、その場所への行き方を分かっているようなので、1歳半頃のある日、家の玄関を出てわざと逆の方向に歩き始めてみました。すると、そちらではないと自分の行きたい方に私の手を引っ張るのです。そちらに行っては電車を見ることができないと考えたのです。そして、2歳を過ぎたある日、信号待ちの交差点に立つと、こっちに行くと駅だね、こっちはこぐま会、こっちは公園(があって電車が見られる)と言い出したのです。方向がちゃんと分かるのです。きっと空間認識はこうした生活の経験が土台になって身についていくのでしょう。自分が実際に歩いてその場所に行った経験があるからこそ、頭の中にイメージ化できたのでしょう。私はよく交差点の曲がり方の学習をした後、保護者の皆さまに「車に乗って家に帰ることがあれば、次の交差点をどう曲がるか大きな声で言わせてみてください」とお話しします。ペーパー上の限られた空間で右・左の学習を行うのではなく、自分の体を通して経験することがないと、「表象」は無理ではないかと思うのです。「お母さんの右手はあなたの左手の方よ」と教える前に、実際に向き合い、自分で確かめる時間を保障することが大事です。左右関係を言葉で教える前に、身の回りの環境に働きかけ、自分自身の体を使って試行錯誤する・・・遠回りのようでも、そうした経験が位置表象の学習にとって大事なことのように思います。


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お申し込み受付中!(無料)
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【実施日】
7月14日(木)・15日(金)・16日(土)
【時間帯】
9:00~17:00
【受付方法】
https://fudemaru.jp/
「ふでまる道場」公式ホームページよりお申し込みください。
【実施締切】
7月7日(木)まで

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