第1回 全国幼児発達診断テストの結果分析
こぐま会代表 久野 泰可

5月15日に行った「全国幼児発達診断テスト」 の結果が出ましたので、そこから何を読み取ったらよいのかを、問題作成者の立場から総括してみたいと思います。問題の意図は前回のコラムで簡単に説明しましたのでそちらをご覧ください。
まず全体の得点状況をお伝えします。
※解答入力までしていただいた参加者・・・1,425名
平均得点率
全体の平均得点率 | 67.5% |
---|---|
年中児の得点率 | 57.0% |
年長児の得点率 | 72.4% |
幼児教室に通っている子どもの得点率 | 71.1% |
---|---|
幼児教室に通っていない子どもの得点率 | 63.7% |
領域別得点率
年中 | 年長 | 全体 | |
未測量 | 53% | 66% | 62% |
---|---|---|---|
位置表象 | 44% | 66% | 59% |
数 | 54% | 69% | 64% |
図形 | 62% | 77% | 72% |
言語 | 59% | 79% | 72% |
生活 他 | 75% | 81% | 79% |
問題別得点率
テスト問題 | 正解率 | 年中児と年長児の差 | ||
全体 | 年中児 | 年長児 | ||
1. 大きさの系列化 | 49% | 38% | 54% | 16% |
---|---|---|---|---|
2. 方眼上の位置の対応 | 62% | 47% | 70% | 23% |
3. 方眼を使った5の構成 | 41% | 29% | 47% | 18% |
4. 同数発見 | 65% | 52% | 72% | 20% |
5. 竹ひごを使った基本図形の構成 | 71% | 63% | 75% | 12% |
6. 長方形の構成 | 80% | 72% | 84% | 12% |
7. 一音一文字 | 75% | 61% | 82% | 21% |
8. しりとり | 80% | 68% | 85% | 17% |
9. 生活用品の用途 | 96% | 95% | 97% | 3% |
10. 仲間はずれ | 85% | 81% | 87% | 6% |
11. シーソーの原理 | 92% | 91% | 93% | 2% |
12. シーソーの三者関係 | 52% | 40% | 58% | 18% |
13. 右手 - 左手 | 56% | 40% | 63% | 23% |
14. 交差点の曲がり方 | 58% | 47% | 64% | 17% |
15. 数の多少(きれいに並んだもの) | 83% | 78% | 85% | 7% |
16. 数の多少(ばらばらに配置されたもの) | 54% | 43% | 60% | 17% |
17. つみ木の移動 | 57% | 40% | 65% | 25% |
18. 時系列 | 63% | 49% | 70% | 21% |
19. 鏡映像 | 36% | 27% | 40% | 13% |
20. 野菜の切断面 | 98% | 96% | 98% | 2% |
(1) 難易度について
今回のテストは、小学校入試のためのチェックテストではありません。遊びや生活の中で身についた考える力を小学校の教科学習にどうつなげていくかを念頭に置いて問題を選択しました。今回のテストは、KUNOメソッド 「セブンステップスカリキュラム」におけるステップ1~2の内容です。「ひとりでとっくん365日」の学習範囲でいえば01~04の内容に即しており、はじめて取り組む子どももいるという前提で、120問の中から選びました。その結果、全体の平均点は67.5点で、年中は57点、年長は72.4点でした。普段どこかの教室に通って学習している子どもだけではありませんので、訓練によって身につく問題はできるだけ出さないようにしました。そうした結果、年中で57%、年長で72.4%の得点率が挙げられたということは、今回のテスト内容はちょうどよい難易度だったと思います。特に年中児が57%の得点率だったことは予想以上にがんばったと思います。年長児の3月生まれと年中児の4月生まれではほとんど月齢差がないとはいえ、年長向けに作った診断テストでしたので、年中児がどれだけ得点できるのか、難しすぎるのではないかと心配しましたが、結果を見る限りよくできています。
(2) 年長児の課題
今回出題した問題の中で、年長児の得点率が50%以下だったものが2つありました。ひとつは「方眼を使った5の構成」、もうひとつは「鏡映像」です。「5の構成」自体は難しいわけではありませんが、縦軸と横軸の3つの数を合わせて5にするという、数の構成というより方眼の縦軸・横軸の関係をよく理解していないとできない問題です。問題の意図そのものがわかりにくかったということもありますが、縦軸・横軸でものを見る見方は、観点を変えてものを見るという課題として重要です。「鏡映像」は理科的常識の問題であることには変わりないのですが、鏡への映り方は左右関係の理解だけでなく、2つ以上のものになると前後の重なりも出てきますので、それが今回の問題の難しさにつながったのではないかと思います。
(3) 年中児の課題
年中児は上の2問に加え、得点率が50%以下の問題が他にもいくつかあります。
- 1. 大きさの系列化
- 2. 方眼上の位置の対応
- 12. シーソーの三者関係
- 13. 右手・左手
- 14. 交差点の曲がり方
- 16. 数の多少(ばらばらに配置されたもの)
- 17. つみ木の移動
- 18. 時系列
これから1年間かけて理解できればいいわけですが、この差こそ「教育の力」で埋めていかなければなりません。そこに年中児から年長児にかけての課題が見えてくるのです。逆に年中児でも7割以上得点できた問題は、
- 6. 長方形の構成
- 9. 生活用品の用途
- 10. 仲間はずれ
- 11. シーソーの原理
- 15. 数の多少(きれいに並んだもの)
- 20. 野菜の切断面
生活に密着した課題や、自分自身が遊びとして経験しているものはよく理解できています。それらは、年長児との出来具合にあまり差が見られませんので、そうした生活課題から学習を開始するのが無理のない方法だと思います。現在、小学校1年生の学習の始まりを「スタートカリキュラム」として各小学校で模索されていますが、多くの場合、理科・社会につながる生活科の内容を行おうという動きになっています。今回の結果を見ても生活科(理科・社会)につながっていく内容は子どもたちの生活に密着しており、無理なく学習の課題にできるといえます。そこで、幼児期とは違った学び方を経験し、スムーズに小学校の学びの体制に持っていくということは理にかなっています。逆に差の開いている課題は「論理性」が求められており、そうした「考える力」を身につけるための基本を年中からしっかりとしたプログラムとして組んでいく必要があります。自然成長を待つのではなく、教育の力によって引き上げていかなければなりません。そのために、どんなカリキュラムとどんな教材を用意すべきかは、私たちが実践してきた「KUNOメソッド」に明確に示されています。
ちなみに年中児と年長児の得点率に20%以上差のついた問題は以下のとおりです。この課題こそ、教育の力によって解決しなければなりません。
- 2. 方眼上の位置の対応
- 4. 同数発見
- 7. 一音一文字
- 13. 右手 - 左手
- 17. つみ木の移動
- 18. 時系列
ただ、できなかった理由が慣れの問題なのか、理解の問題なのかはしっかり見ていく必要があります。練習によって慣れればできる問題と、考える力が伴わないとできない問題があるはずです。「4. 同数発見」「7. 一音一文字」はある程度練習によって解決できますが、その他は繰り返しの練習によってではなく「理解」しなければできない問題です。その理解度を高めるためには、まず「事物教育」によってものに働きかける試行錯誤の時間を保障し、自らの力によって解決していく経験が必要です。今、文部科学省において幼児期から小学1年生への繋ぎの教育課題をどうするかという議論が始まっています。具体的な内容の積み上げがほとんどない日本の場合、具体的な教育課題を考える資料がないため抽象的な議論に終始しています。今回のテストで取り上げたような内容を解決するために、生活や遊びの中でどんな経験をさせるか・・・そうした議論が必要だと思います。
今回のテストで明らかになった年中児と年長児の「考える力」の発達度を踏まえ、日々の学習内容や教材づくりに生かしていくつもりです。その意味で、今回のテスト結果は指導者にとっても大変意味のあるテストだったと思います。今年はあと2回実施いたします。今回参加された皆さまも参加されなかった皆さまも、お子さまの「考える力の発達度」を確かめるためにぜひご参加ください。- 【第2回(7月中旬~下旬)】
- KUNOメソッド セブンステップスカリキュラム:ステップ3~4
ひとりでとっくん365日:05~08対応 - 【第3回(9月中旬~下旬)】
- KUNOメソッド セブンステップスカリキュラム:ステップ5~6
ひとりでとっくん365日:09~12対応
- 重版決定!! こぐま会代表 久野泰可 著「子どもが賢くなる75の方法」(幻冬舎)
読み・書き・計算はまだ早い!
家庭でできる教育法を一挙公開
子どもを机に向かわせる前に実際の物に触れ、考えることで差がつく。- 食事の支度を手伝いながら「数」を学ぶ
- 飲みかけのジュースから「量」を学ぶ
- 折り紙で遊びながら「図形」を学ぶ
- 読み聞かせや対話から「言語」を学ぶ