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週刊こぐま通信
「室長のコラム」

第1回 全国幼児発達診断テストの出題意図

第813号 2022年5月20日(金)
こぐま会代表  久野 泰可

 5月15日に行われた「全国幼児発達診断テスト」 には、1,569名の5~6歳児が参加し、1,425名の方に回答入力していただきました。その1,425名の平均点は67.5点ですが、年齢別にみると年中57点、年長72.4点で約15点の差が見られました。これはテスト前から予想できたことでしたが、年中の皆さんもよくがんばったと思います。今回のテストは、小学校受験のための模擬テストではなく、小学校入学後に始まる教科学習の基礎がどれだけ身についているか、「知育」に関する発達度を見るテストです。内容が小学校受験の問題に類似しているというご指摘もいただきましたが、今回行ったテストは、過去の入試で出されたいわゆる過去問を並べたものではありません。小学校から始まる教科学習を支える基本的な「考える力」がどこまで身についているかを見る問題で、すべてオリジナルな内容です。こぐま会で行っているセブンステップスカリキュラムの考え方に従い、未測量・位置表象・数・図形・言語・生活 他の6領域について作成しています。「なぜ入学前にこの問題を理解することが必要なのか」というご質問が多くありましたので、ここでは出題意図を明確にしておきます。

今回は、領域別に次のような問題を出しました。

未測量大きさの系列化/重さくらべ(シーソー)/三者関係の理解
位置表象方眼を使った位置の対応/右手-左手/交差点の曲がり方
方眼を使った5の構成/同数発見/数の比較 数の多少
図形竹ひごを使った形の構成/図形構成/つみ木の移動
言語一音一文字/しりとり
生活 他分類/仲間はずれ/時系列/鏡映像/切断面

どれも小学校で学ぶ内容に関連しており、未測量では量の系列化を通して順序数の考え方の基礎を問いかけています。また、位置表象では図形の基礎となる左右関係の理解を取り上げ、数では小学校1年生で学ぶ、たし算・ひき算の基礎を問いかけています。図形では、図形的なセンスがどれだけ身についているかを「図形構成」の問題を通してみようとしています。言語領域では、日本語の基礎としての一音一文字の理解を求め、生活 他の領域では、分類と理科的常識を出題しました。

それぞれの問題でどんな能力を見ているのか、またなぜ幼児期に理解しておくべきかの理由を簡単にまとめましたので、家庭学習の参考にしてください。

5月15日実施 発達診断テスト出題意図


今回行った20問の課題が、なぜ小学校入学前の子どもたちに必要な能力なのかを、実施した問題に即して解説いたします。生活や遊びの中で学ぶチャンスがたくさんありますので、こうした観点を生かしてお子さまに接してあげてください。

1. 大きさくらべ
大きさの違うリンゴ7個を大きい順・小さい順に並べる課題です。量の系列化の代表的な問題です。数の概念の形成に深くかかわっているため、「系列」思考は大事です。数は、集合数の考え方と順序数の考え方によって支えられています。例えば5という数は、モノが5個あるという意味と、5番目という順序を表しています。順序数の考え方を支えるものが系列化です。量の系列化だけでなく、位置の系列化も大事です
2. 位置の対応
方眼を使って、同じ模様(形)を描く問題です。方眼の同じ位置に形を描き込むことで全体が完成しますが、斜めの線を使った形の部分が描けているかが問題です。方眼上のひとつの位置を「下から~番目の右から~番目」と言語化できなくても、対応させていけばできる問題ですので、方眼上の位置の言語化の前に「位置の対応づけ」としてわかっているかどうかを問う内容です
3. 方眼を使った数の構成
数の構成に関しては、入学前に10までの数の構成に関して暗算できるようにしておけば、小学校1年生のたし算・ひき算にスムーズに入っていけます。今回は、5という数がいくつの数で構成できているかを、方眼の特性を使って行うものです。縦の3つの数を合わせても、横の3つの数を合わせてもどこも5になるように空欄を埋める問題です。2つの数を合わせて残りあといくつで5になるかを考える、暗算練習には最適の課題です
4. 同数発見
同じ数のものを探す課題です。正確に数を数えられるかを見る「計数」の問題ですが、視覚的に判断できる場合はそれで構いません。数が6以上になるとしっかりと数えなければなりません。限られた時間の中で処理できるかどうかも大事です
5. 図形構成
基本図形の特徴に関する問題です。各図形の辺の数と長さに着目し、その理解を問う内容です。小学校で学ぶ図形学習は知識から入っていますが、幼児期の図形学習は具体的なものを使ってパズル風に取り組むのが好ましいやり方です。そうした活動によって「図形感覚」が身につきます
6. 図形構成
2つの形を合わせて見本と同じ長四角を構成する問題です。図形構成ではありますが、見方を変えれば図形分割にもなります。どこで切ったのか、どれとどれが合わせて長四角になるかを考えながら対応するものを探さなければなりません。パズルの延長の問題ですが、こうした問題を通して、将来学習のする図形学習の基本を身につけておくことが大切です。図形の知識というより図形感覚を育てることが大事です
7. 一音一文字
日本語はひとつの音がひとつの文字を表し、それが組み合わさって言葉を形成しています。この一音一文字の理解が日本語理解の最初にあるべきで、私たちは繰り返し練習しています。この課題が小学校の入試問題に取り上げられるようになったのは20年ほど前からですが、こぐま会では、40年以上前から幼児期の基礎教育の中味として大事であると考え、取り組んできました。いくつの音でできているか、どこに何の音がついているかを素早く発見できるようにしてください
8. しりとり遊び
しりとり遊びをテーマとした問題です。しりとり遊びは、前の言葉の最後の音を次の言葉の最初に持ってくる言葉遊びですが、そのしりとりのルールに従って、空欄を埋める問題です。次へのつながりを考えながら探さなければなりません。このしりとり遊びの基本は、一音一文字の課題にありますので、いくつの音でできているか、どこに何の音がつくかを素早く探す練習をしてください
9. 分類
生活用品について、その用途や材質などモノの属性に関する理解を深めておくことは大事です。そのうえで、物事の共通性の理解に進むと、それが「仲間あつめ」や「仲間はずれ」の課題になります。今回の問題は、用途について質問し、答える内容です
10. 分類 仲間あつめ・仲間はずれ
仲間はずれや仲間あつめは、物事の共通性をどう発見するかという問題でもあります。仲間はずれを探す問題では、残ったものにどんな共通点があるかを説明できなければなりません。物事の共通性を探す課題は、分類思考だけでなく、あらゆる学習課題において大事な観点です
11. シーソーの重さくらべ
重さという量は体で感じ取る量で、目で見ることはできません。その見えない量を視覚化するためのひとつの方法として「シーソー」が使われます。重いほうが下がるという原理原則を踏まえ、どちらが下がるかを判断する問題です。数の多い少ない、量の多い少ないで下がるほうを判断します
12. シーソーによる三者関係の推理
シーソーを使った三者関係の理解に関する問題です。2つの場面から3つのものの関係を理解しなければなりません。の箱より重かったの箱が、なぜ×の箱より軽くなってしまったのか。そこをどう理解するかがポイントです。よりは重いけれど、そのよりもっと重い×があるという関係をどう理解するかです。また、重い順ではなく、軽い順に記すという質問もしっかり聞き取れているかどうかを確認してください
13. 右手 - 左手
位置表象の学習の中で一番難しいのは、左右関係の理解です。まず自分の右手・左手の理解から始まり、そのうえで自分以外の右手・左手の理解に進んでいきます。今回の問題は、自分の手をイメージしたり、それが難しければ実際に右手・左手で同じ形を作ってみて答えを見つけ出しても結構です
14. 交差点の曲がり方
左右関係の理解の発展問題に、「交差点の曲がり方」「地図上の移動」があります。歩いているこぐま忍者のハルの立場にたって、右・左が理解できるかどうかが問われます。視点を変えてものを見ることの典型的な問題のひとつです
15. 一対一対応
対応することに必然性のある2つのものの数の比較です。一対一対応の学習は、「鍋と蓋」「コーヒーカップとお皿」のように、対応することに必然性のあるものの比較から始めるのがよいと思います。数えてわかる場合はそれで構いませんが、一対一に対応することを線むずびの方法で考えても結構です。並べた長さで判断してしまわないように、しっかり対応させて比べるようにしてください
16. 数の多少
一対一対応を利用した、数の多少の問題です。「どちらが少ないか」だけでなく、「どちらがいくつ少ないか」というように「差」を求めています。これはひき算における「求差」の考え方につながる内容です。数えてみてわからなければ、線結びの方法でやってみてください
17. つみ木の数
下4個、上4個に積んだ8個のつみ木のうち、何個のつみ木をどこに動かせば指定の形ができるかを考える問題です。変化している部分と変化していない部分をしっかり観察できるかどうかが問われます。1個動かした形はわかりやすいのですが、2個以上動かすと全体の形が相当変化しますのでかなり難しい問題です
18. 時系列
4枚の絵を見て、時間の系列を考える問題です。生活の場面をイメージしたり、原因と結果を考えることで順序を捉える問題です。4枚の絵のそれぞれの場面をしっかり観察し、合理的な判断ができるかどうかが問われます。今回は行っていませんが、これを使ってお話づくりの課題に発展することができます
19. 鏡映像
鏡への映り方を判断する問題です。特に今回のように2つのものが重なっている場合の見え方は、1つのものの映り方を判断するよりも相当難しくなります。鏡への映り方と反対から見た場合の見え方をしっかり区別できるようにしてください。実際の鏡に自分を映していろいろなポーズをとり、その映り方を観察させてください
20. 理科的常識 切断面
野菜を包丁で横に切った場合の切断面を判断する問題です。生活に密着した課題ですので、子どもたちも関心を持って取り組んでくれます。普段の生活の中で見聞きするこうした課題を通して理科的課題に関心を持ってくれれば、1年から始まる「生活科」の授業に興味をもって参加できるはずです

以上、今回の20問についてなぜこうした問題を今やっておくべきかを、将来の学習へのつながりを踏まえてお伝えしました。この中のいくつかは入試問題として取り上げられる場合もありますが、入試の有無に関係なく、幼児期の基礎教育として取り組むべき学習課題として受け止めてください。そのために、今回は基本問題だけを取り上げました。はじめて経験されたお子さまにとってはやや難しい面もあったかと思いますが、ぜひ今回の学びをきっかけに、小学校へのつながりの学習として今後も取り組んでください。今年はあと2回実施する予定で、問題の中味はだんだん難しくなっていきます。3回のテストを通じて、小学校入学前にやっておくべき基礎教育の中味を示していくつもりですので、あと2回実施するテストにもぜひご参加ください。問題ごとの細かな得点分析は、受験者の皆さまに詳しくお伝えする予定です。

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