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週刊こぐま通信
「室長のコラム」

まともな幼児教育で受験に臨む

第764号 2021年4月16日(金)
こぐま会代表  久野 泰可

 こぐま会は、今年4月で創立38周年を迎えました。恵比寿の小さな1教室から始まった教育活動でしたが、大勢の皆さまのご理解とご支援によって今日まで活動を継続することができました。厚く御礼申し上げます。

こぐま会は「考える力を育てる」幼児期の基礎教育を確立するために、「事物教育」「対話教育」を指導理念として教室での実践を積み重ねてきました。決して受験指導を目的に教室運営をやってきたわけではありません。こぐま会を設立した当時、受験塾はどこも知能検査のテストを含め大量のペーパーを使った指導を行っていました。「受験準備はペーパーを徹底してやること」と思われてきたのです。そんな中、事物教育と対話教育を指導の中心にしてきたこぐま会の指導に対し、「そんなやり方で受験に合格できるのか」といった質問をたくさん受けてきました。受験塾としてはあり得ない指導をする教室だったからでしょう。しかし、そうした指導で多くの合格者を送り出し、実績をつくってきたのです。また、ペーパー主義の指導を行っていた多くの受験塾が、ある時から「事物体験を通してペーパートレーニングを・・・」という方針に変わってきたのです。しかも実際の入試も、大量のペーパーを使った試験から、ペーパーの数を減らし、少ない数のペーパー試験と行動観察・面談を組み合わせた試験に変化してきたのです。その意味で、こぐま会の方法が入試対策の在り方を変えるきっかけをつくったともいえます。それだけではありません。幼児期の基礎教育を実践するために、教室での実践活動を踏まえて20年間かけてつくり上げた「ひとりでとっくん」100冊の問題集は、今や小学校受験の教科書として全国の皆さまにお使いいただいております。この問題集をご覧になればおわかりいただけると思いますが、入試には出題されない問題も多く入っています。しかし私たちは入試に出ようと出まいと、幼児期の学習に必要なものを100冊の問題集にまとめたのです。その問題集を今や試験問題をつくる学校の先生方にもお使いいただき、また受験を目指す多くの子どもたちが必ず取り組む問題集として活用されているのです。受験のためにつくったものではない問題集が受験のために使われているという現実は、何を意味するのでしょうか。問題を作成する学校側は、幼児期の基礎教育をしっかり踏まえた問題づくりを行っているという何よりの証拠です。その意味でも、こぐま会の基礎教育が小学校受験に与えてきた影響は大きいものだといえます。

私自身は、こぐま会設立の前に11年間他の教育機関で幼児の指導に当たってきましたので、来年4月で教師生活50年を迎えます。この50年間、幼児教室の教師として小学校に入学する子どもたちを送り出してきましたが、いま大きなうねりとして誰もが認める「幼児教育ブーム」の在り方にある種の危惧を覚えています。それは、早ければいいことだという間違った早期教育がもてはやされ、ペーパー教育の低年齢化が起こり始めているからです。2歳頃から幼稚園・小学校受験のためと称して、「ペーパー学習」が始まっているという現実です。教育事業と全く関係のない企業が受験ビジネスに参入し、その結果として形だけの教育が横行し始めているのです。ペーパーを大量にこなすことが受験指導だと謳われ、毎日50枚以上のペーパーをこなすことが受験準備だと保護者を煽り立てているのは、どう見ても異常です。その結果行きつくところは、子どもの学ぶ意欲を奪ってしまっているという現実です。しかも、そうしたトレーニングで合格した子どもたちの小学校に入ってからの学力に大きな問題が生じていることを、いま小学校の先生方は嘆いているのです。

まともな幼児教育で受験に臨む・・・私が38年間心がけてきたことは、自分で考え、自分で判断し、行動できる子どもをどう育てるかということでした。そのために大事なことは、試行錯誤する時間を最大限保障してあげることです。知識を詰め込む教育は、これからの時代に通用しません。それは幼児でも同じことです。自らの体を通して物事にかかわり、手の操作で試行錯誤しながら物事の関係性を学び、最後にペーパートレーニングを行うという「3段階学習法」が、多くの指導者から評価されています。子どものいる現場から発想した指導法であるからこそ、具体的であり子どもの成長に見合った方法であるのです。

現場指導を踏まえて最近まとめ上げた「幼児期に大切な10の思考法」は、領域の枠を越えて、子どもたちが生活や遊びを通して成長していく中にこそ学びのチャンスがあることを具体的に示したものです。これからの実践活動は、この10の思考法の視点から、もう一度教育内容や方法を見直し、新しい視点に立った教育内容の再構築を実現していきたいと考えています。

大学入試改革が進行し、学校で学ぶ内容や方法が変わっていくはずです。これからの時代をたくましく生き抜く力を身につけるために、主体的な学びが要求されてきます。非認知能力の重要性や、アクティブ・ラーニングの大切さが学校教育に持ち込まれた時、大きな変革が起こることは間違いありません。AI社会の到来で、無くなっていく職業のことを心配するのではなく、AIを駆使して社会問題を解決していくための「付加価値の創造」にどれだけ能力を発揮できるかどうかが問われていくはずです。そうした時代を生き抜く力の根っこを幼児期から育てていくことが大事です。受験をひとつの動機づけとして、幼児期の基礎教育に多くの皆さまが関心を持てば、そのことが幼児教育の在り方を変える原動力になっていくはずだと確信しています。まともな幼児教育で受験に臨む・・・ぜひ将来の学びの基礎づくりだと考えて取り組んでください。

 こぐま会代表 久野泰可 オンライン講演会のご案内
「 幼児期に大切な10の思考法 」
2021年5月8日(土) 10:00~11:00 LIVE配信!(無料)
【講演内容】
1. 今なぜ幼児教育に関心が集まるのか
2. 幼児教育に新しい風を - こぐま会の実践 -
3. 生活や遊びを通して「考える力」を育てるために
※ご視聴にはお申し込みが必要です
※後日録画配信はありません

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