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週刊こぐま通信
「室長のコラム」

サピックスキッズのセミナーでお伝えしたかったこと

第763号 2021年4月9日(金)
こぐま会代表  久野 泰可

 4月4日の午前中、代々木にある代ゼミタワーの大教室で行われたサピックスキッズ主催の「小学校受験を検討されている方のための説明会」で、1時間ほどお話しさせていただきました。
オンラインセミナーに慣れてしまった私にとって、PCに向かって話すのとは違った緊張感もありましたが、1年半ぶりの対面形式のセミナーはお伝えしたいことがしっかり伝わるとあらためて感じました。聴講される皆さまの表情もわかり、話しやすく新鮮なものでした。

サピックスキッズにKUNOメソッドを提供してから、はや7年が経ちました。小学校受験を目指す子どもたちの多い「こぐま会」と違って、非受験の教室である「サピックスキッズ」ですが、幼児教育の重要性を感じている多くの皆さまに支えられて、毎年多くの子どもたちが楽しく学んでいます。今回のセミナーも普段教室に通うお子さまの保護者の方が大勢参加されていましたが、学習が進んでいくと小学校受験をしてみたいという方も増えてくるということで、こうした小学校受験に関する情報を提供するセミナーを毎年4月に行っています。私立と国立について最低限の情報を提供するという趣旨のセミナーですが、その中で私立小学校の部分を私が担当し「入試の現状と正しい家庭学習法」として、以下の点についてお伝えしました。

入試の現状
  1. コロナ禍以前の小学校受験では何が問題になっていたか
    • 学校側の対応の変化
    • 保護者の意識の変化
  2. 試験はどのように行われるのか
  3. 首都圏の入試日程について
  4. どんな問題が出題されるのか
    • ペーパ―試験:
      コロナ以前は毎年問題が難しくなっていた
      コロナ禍で行われた2021年度の入試は基本に戻った
    • 行動観察はどのように行われるのか:
      A校における2020年度と2021年度の出題比較
小学校受験のための正しい家庭学習法
  1. 具体物やカードを使って試行錯誤し、自ら答えを導き出す
  2. 答えの理由を説明させる
  3. 結論や解き方を教え込まない
  4. ペーパーは量(枚数)より質の問題・・・1枚のペーパーを深く学ぶ

中学校受験をする子どもたちの多いサピックスキッズに通われているご家庭向けのセミナーでしたから、わたしは大学受験まで見通した現在の日本の教育改革の流れの中で、小学校受験が置かれた現状と今後の動きについて、多くの時間を割いてお話しさせていただきました。

最近、幼児教育に対する関心が高まり、いろいろな提案が行われたり出版物も増えたり、さまざまな立場の異なる人達からの発言も増えています。今は「幼児教育ブーム」の時代といっても過言ではありません。なぜこんなに関心が集まるのでしょうか。そのきっかけを作ったのは、ジェームズ・ヘックマン氏の「5歳までの教育が人間の一生を左右するかもしれない」「認知能力だけでなく、非認知能力も大切にされなくてはならない」という提言だったと思います。それだけではありません。東大の入試方法も大きく変わるといった大学入試改革も大きく影響しています。大学の入試方法が変われば高校が変わり、高校が変われば中学が、中学が変われば小学校が・・・というように、日本の教育改革はまず大学入試も含めた大学が変わるところから始まり、それが下の学校に影響を及ぼすのです。特に偏差値教育に象徴される「知識偏重主義」の教育が変わらなければならないという認識は誰もが抱いており、新しい学力観に基づいた教育改革が必要だという流れの中で、幼児教育の重要さが再認識され始めているからだと思います。

学者や有識者から「幼児教育の重要性」に関する発言が多くなされ、さまざまな提案がされています。しかし、いつまでたっても教育内容に関する議論は一向に進んでいないように思います。幼児教育の重要性が叫ばれても、具体性がないのです。ここが日本の幼児教育が他の国に一番遅れをとっているところです。ヘックマン氏の考え方がOECDの教育政策の理論的根拠になり、多くの国で幼児教育改革が進んでいるにもかかわらず、先進国の中で日本の幼児教育にかける国家予算が極めて少ないのもその一つの表れです。しかも、勧告に従って行った「幼児教育の無償化」だけで安心してしまう国家政策の在り方を見ると、余りにも発想が貧弱な国だと言われても仕方ありません。幼児教育の無償化だけで教育の質が深まるはずはありません。教育環境の整備、特に働く人たちの待遇改善が必要です。それだけではありません。カリキュラムの研究や指導者の人材育成など、教育の質を向上させるために必要な施策が何も進んでいないのが現状です。それにもかかわらず、幼児教育の重要性のみが叫ばれる結果、子どもの発達を無視した「形」だけの教育がはびこってくるのです。
最近はやりの言葉でいえば、「エビデンスのない」幼児教育改革が先行してしまう危険が大変ありうるということです。

今幼児期にある子どもたちが社会に出ていく頃、どんな世の中になっているのでしょうか。AI社会の到来で、現在ある職業の半分近くがなくなるという議論が盛んにおこなわれていました。しかし一方で、AIの力を借りて社会問題を解決していくような新しく生まれる職業もあるはずです。その新たな仕事の可能性を横において、今の職業がなくなることばかりがクローズアップされているのはおかしな議論です。AI社会を生きる力、新しい価値を創造できる力・・・そうした能力が人間に求められてくるはずです。そのために学校教育は何をなすべきか、何ができるのか・・・その中で、一番の基礎となる幼児期の教育をどうすべきかを議論すべきです。それは、極めて具体性を持った議論でなくてはいけません。英語やロボット教育だけでなく「考える力」を育てるメソッドが必要なのに、その議論がどこからも聞こえてきません。5歳までの教育が将来を左右するかもしれないといわれても、何をどうすべきかの議論がなければ「読み・書き・計算」といった形ばかりの教育がはびこっていくだけです。

こうした状況の中で、KUNOメソッドの教育がどのように意味を持つのか、その具体的な課題を、小学校の入試問題を例にとってお話しさせていただきました。「考える力」を育てる幼児期の基礎教育が、なぜ事物教育でなければならないのか、なぜ対話教育でなければならないのか・・・そこをしっかりと理解してもらうために、実際の指導の現場の様子や、テスト結果から見た今の子どもたちの弱点について具体例を示してお伝えしました。小学校受験のためだけに、幼児期の意図的な教育があるのではありません。受験のあるなしに関係なく、幼児期の教育に新しい風を吹き込まなければなりません。そして、まともな幼児教育の結果として「受験」に挑戦できるよう、そしてそこでの学びが将来の教科学習の基礎としてしっかり根付いていくような教育を、私たちが責任をもって実践していきたいと思います。

 こぐま会代表 久野泰可 オンライン講演会のご案内
「 幼児期に大切な10の思考法 」
2021年5月8日(土) 10:00~11:00 LIVE配信!(無料)
【講演内容】
1. 今なぜ幼児教育に関心が集まるのか
2. 幼児教育に新しい風を - こぐま会の実践 -
3. 生活や遊びを通して「考える力」を育てるために
※ご視聴にはお申し込みが必要です
※後日録画配信はありません

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