週刊こぐま通信
「室長のコラム」受験期の学習を教科学習にどう生かすか
第224号 2009/12/4(Fri)
こぐま会代表 久野 泰可
こぐま会代表 久野 泰可

学芸大附属小の合格発表も終わり、残すところお茶の水大附属小と筑波大附属小の試験だけとなりました。先日、私立小学校の入試を終えた保護者の方々を対象に「入試を終えた後の学習」と題したセミナーを行いました。受験期に学習したことを小学校入学後の学習に活かすためにはどうしたらよいのか。せっかく身に付いた学習習慣を持続させるためにはどうしたらよいのかなどについて、私たちの考え方を伝えました。
小学校入試で出題される内容は、将来の学習を支える基礎学力がどのくらい身に付いているかを見るもので振り落すための難問奇問ではありません。入試問題の変遷を振り返ってみれば、知能テストの問題から始まって、ペーパーを多く使った時期、個別テストが重視された時期、そして行動観察が重視されている最近の傾向と、小学校入試はこの30年間変化し続けてきました。最近はペーパーの枚数も6~7枚程度が基本となり、よく練られた問題が出題されています。35年ほど前の知能テストの問題から考えると、小学校入試も工夫され、その結果入学後に学習する教科学習とのつながりを意識した問題が増えています。
たとえば数の問題の場合、将来の算数科における四則演算の基礎が、すべて生活課題と関連付けて出題されています。すなわち、たし算・ひき算につながる内容だけでなく、かけ算・わり算につながる基本的な考え方が問われています。ですから、「受験のため」と考えられた教育プログラムの内容の多くが幼児期の基礎教育の内容と合致し、将来の教科学習の基礎になっています。また、難問とされる多くの問題で、小学校高学年で学ぶ文章題で求められる思考力が必要とされています。
つまり、現在の小学校入試の学力試験の内容は入試のために特別に考えられたものではなく、「教科前基礎教育」としてとても重要な学習内容であり、出題根拠のあるまともな問題ばかりだということです。37年間も幼児期の基礎教育に携わってきた私にとって、小学校受験の対策が幼児期の基礎教育の内容とこれほど矛盾なくやれるという意味で、とても良い時代になったと思っています。「受験向け」と「基礎教育向け」があるのではなく、すべて基礎教育の中身として考えて矛盾なく学習していくことができ、その結果として「合格」に近付けるという意味でよき時代になったと思っています。
だからこそ、受験が終わってすべて終わりでなく、新たな目標に向かって学習を続けていただきたいと思います。私はこの1年間をかけて、小学校受験のための学習をしてきた子であるからこそ可能な「算数教育プログラム」があるのではないかと考え、教室での実践を通してその内容を開発してきました。下に掲げる内容がこの1年間(年長1月~小学校1年12月)ひまわりクラブとして指導してきた内容です。
<ひまわりクラブ 年間40週 学習法>
第1週 | 「足し算・引き算って何?」 数の構成と足し算・引き算 一対一対応・数の構成・数の増減復習/3つの部屋の数の構成/足だし式の練習/話を聞いて式を立てる |
第2週 | 「声を出して読み・文を書こう」 音読と聞き取り 文章題の基礎としての読み・書きの練習/詩や絵本を音読する/聞いた単語を書く/読み上げられた文章を書く |
第3週 | 「足し算・引き算の計算法」 数の増減と足し算・引き算 数の増減・足だし式・3つの部屋の数の構成復習/暗算練習/プラス・マイナスの記号の理解とその計算法 |
第4週 | 「隠れた数を探せ」 ブラックボックス・逆思考 逆思考の問題復習/10の構成/3×3方眼による数の構成(数字で行う)/魔法の箱を数字で行う/を使った式(空欄を埋める) |
第5週 | 「掛け算って何?」 1対多対応と掛け算 一対多対応の復習/絵を使ってまとまりを作る練習/掛け算の式の立て方(一あたり量×いくつ分)/立式練習 |
第6週 | 「割り算って何?」 等分や包含除による割り算 等分除・方眼除の復習/割り算の式の立て方/立式練習 |
第7週 | 「掛け算って答えをどう出すの?」 掛け算の計算法 ×式の意味/掛け算九九表/一対多対応暗算と掛け算/簡単な掛け算 5の段・2の段 |
第8週 | 「割り算って答えをどう出すの?」 割り算の計算法 ÷式の意味/等分除・包含除の意味/暗算練習と割り算の答えかた |
第9週 | 「話を聞いて式を立て、解いてみよう」 文章題の基礎 短文を聞いて式を立てる/長文を聞いて式を立てる/立てた式を解いて答える |
第10週 | 「文を読んで式を立て、解いてみよう」 文章題の基礎 短文を読んで、式を立てる/長文を読んで、いくつかの質問に答える/文章題解決のコツ |
第11週 | 「3つの数の計算はどうするの?」 立式練習/3つの数の計算/10の構成暗算練習 |
第12週 | 「繰り上がりの計算はどうするか」 立式練習/10の構成及び繰り上がりの計算 |
第13週 | 「繰り下がりの計算はどうするか」 立式練習/10の構成及び繰り下がりの計算 |
第14週 | 「逆思考の問題をどう解くか」 立式練習/数の逆思考/を使った計算 |
第15週 | 「いろいろなタイプの文章題に挑戦しよう」 立式練習/文章題/図形の論理(1) |
第16週 | 「繰り上がり・繰り下がりの計算と図形問題」 繰り上がり/繰り下がりの計算 図形の論理 (2) |
第17週 | 「2段階複合問題の解き方」 繰り上がり/繰り下がりの計算 2段階複合問題 |
第18週 | 「計算オリンピック 誰よりも早く計算できるように挑戦しよう」 計算オリンピック(スピードトレーニング)/2段階複合問題 |
第19週 | 「Xを使った式を立ててみよう」 Xを使った計算/文章題 |
第20週 | 「第2期授業の総まとめ」 第2期授業の総まとめ |
第21週 | 「二桁・三桁の計算に挑戦しよう」 くり上がり・くり下がりのない二桁・三桁の計算 |
第22週 | 「繰り上がりのある2~3ケタの計算はどうするの」 くり上がりのある二桁・三桁の計算法 |
第23週 | 「繰り下がりのある2~3ケタの計算はどうするの」 くり下がりのある二桁・三桁の計算法 |
第24週 | 「大きな数を使った文章題に挑戦」 二桁・三桁の計算を必要とする文章題 |
第25週 | 「時計が理解できるといいね」 時間と時刻・時計に関する問題の解き方 |
第26週 | 「表とグラフって何をするんだろう」 表のつけ方・表を見ながらグラフにする・グラフの見方 |
第27週 | 「割り算の計算が早くできるために」 掛け算と割り算の関係を理解し、計算に生かす |
第28週 | 「いろいろな計算が混ざった文章題に強くなろう」 四則演算が混ざった文章題・2段階思考を必要とする文章題の練習 |
第29週 | 「長さをはかる単位を学ぶ」 長さの単位の4段階・ものさしを使って長さをはかる・単位換算 |
第30週 | 「もう三年生になっても大丈夫だね」 第3期の総まとめ |
第31週 | 「掛け算と足し算・引き算の複合問題」 掛け算九九の練習・掛け算の虫食い算・掛け算の絡んだ複合文章題 |
第32週 | 「数の大きさを線で表す・2つの数からわからない数を求める」 線の長さで数を表す・わかっている数からわかない数を探す・線図を使って文章題を解く |
第33週 | 「図形課題 これまでの学習の復習と基本図形の理解」 図形模写・展開図・三角形と四角形・直角・長方形・正方形・直角三角形 |
第34週 | 「逆思考の問題・を使った式・を求める式」 を使った式を立てる・を使った式の答えを求める・逆思考の文章題 |
第35週 | 「割り算と足し算・引き算の複合問題」 割り算の計算練習・割り算の虫食い算・掛算の逆算としての割り算・割り算の計算が絡んだ複合文章題 |
第36週 | 「10000までの数」 大きな数の位取り・4ケタの足し算―引き算、大きな数の文章題 |
第37週 | 「あまりのある割り算(1)」 掛け算トレーニング・割り算トレーニング・割り算の答えの見つけ方・あまりのある割り算の計算・あまりのある割り算の文章題 |
第38週 | 「時計に関する問題に再挑戦」 時計を読む・時間と時刻の違い・単位換算・時間を求める計算 |
第39週 | 「あまりのある割り算(2)」 掛け算と足し算・引き算の混合算・あまりのある割り算・混合文章題 |
第40週 | 「第4期総まとめ」 四則演算混合文章題・あまりのある割り算・時間の計算ほか |
小学校1年生から3年生までに学ぶ算数の基礎を、受験期の学習に関連付けて学習することが可能なのではないかと考え、開発したプログラムです。その結果、従来と違う発想で小学校1年から3年までの内容を、1年間で指導することが可能であることがわかりました。この授業の実践報告は、その都度このコラムでも紹介させていただきましたのでぜひお読みください。(コラム 第188号・第189号・第202号 ・第218号)決して教え込みや計算至上主義にならず、例えば「3×4」と「4×3」の意味の違いを作問させたり、また、文章題を多く取り入れながら、何段階にも式を書かなくてはならない「複合問題」がしっかり解けるような学力を完成させることができたと思っています。
早いことだけが良いわけではありません。しかし、幼児期にあれだけの学習を積み上げてきたからこそできる学習は必ずあるはずです。伸びようとする芽を摘む必要はありません。何ができるかを知ることも大事ですが、同時に何ができないかを知ることも指導者には必要です。毎回の授業の反省に基づいて次回の教材を作るという、離れ業を1年間やってきましたが、そこで得られた経験を新しい指導法の開発や教材づくりに活かし、受験を終えた後の学習プログラムとして完成させていきたいと思います。
1月から始まる「就学準備クラス」では、参加される皆さまの多様な教育要求に応えるべく、さまざまなプログラムを用意しました。小学校から始まる英語教育も視野に入れ、これまでの「教科前基礎教育」を引き継ぎながら、真の意味での「幼小一貫教育」をめざします。莫大な投資をした受験期の学習を活かすためにもここで学習を終えてしまわないで、あと1~2年、お母さんも頑張ってください。「幼 - 小のつなぎ」がうまくいけば、あとは子どもの頑張りで、高い学力・論理的思考力が身についていくはずです。国立の入試がすべて終わった段階で、再び「入試を終えた後の学習 受験期の学習を教科学習にどうつなげるか」と題したセミナーを行う予定ですので、ぜひご参加ください。