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週刊こぐま通信
「室長のコラム」

小1プロブレムと行動観察

第223号 2009/11/27(Fri)
こぐま会代表  久野 泰可

 今年も私立小学校の入試において、工夫された行動観察が多くの学校で行われました。以下に掲げる内容はその一部です。

<2010年度入試 行動観察課題出題例>
聖心女子学院初等科
  • 指示行動
    歌を全員で歌い、先生の言う人数で手をつなぎ、その場で体操座りをする。
    ※「動物園に行こう!」だが、「猛獣狩りに行こうよ」の替え歌
  • 自由遊び
    遊び道具のある場所で自由に遊ぶ。
    風船・おままごとセット・積木・ボーリング・大縄・長い紐・布・大きなスカーフ
田園調布雙葉小学校
  • ジャンケン列車
    音楽に合わせて、汽車を作る。ジャンケンをして、音楽の合図でつなげていく。
    「貨物列車シュッシュッシュッ・・・ガッシャン」の曲
  • 魔法使いごっこ
    先生が魔法使いになり、「になれ」と言う。みんなはその動物のまねをする。(鳴き声や身体模倣)
    「アブラカダブラ ぞうになれ」「アブラカダブラ 木になれ」 等
  • 創作ダンス
    お面をかぶり、曲に合った踊りをそれぞれのグループで相談してから、全員で曲に合わせて踊る。
東京女学館小学校(一般入試)
  • 劇遊び(母子活動)
    (1) 母親がお話のCDを2回聞く。 ※書かれた台詞は用意されている。
    (2) 子どもが入室 → 母親が話を読み聞かせ、母子でお芝居の練習をする。
    (3) 個々に練習した後、CDに合わせて一斉に1回の練習を行う。
    (4) 7~8人のグループごとにみんなの前に出て演じる。
東洋英和女学院小学部
  • 自由遊び
    遊び道具のある場所で自由に遊ぶ。
    ままごとセット・ 積み木・フラフープ・輪投げ 等
雙葉小学校
  • 自由遊び
    好きな道具のある場所で、自由に遊んでよい。
    積木・フープ・お手玉・ペットボトルボーリング・的当て
    ※一定時間が過ぎると合図があり、みんなで後片づけをする。

最近の小学校入試では、学力以外に行動観察や面接が重視されているといわれています。実際の合否を分析してみても確かに学力だけで決まっていない現実がはっきりと見え、行動観察での評価が合否の決め手になっていることは確かです。なぜ行動観察が重視されるのか。私は以前から、この背景のひとつに「小1プロブレム」があると指摘してきましたが、11月13日の朝刊に掲載された「小1プロブレム東京の公立で24%」という記事を読むと、ますますその想いを強くします。

報道によれば、都の教育委員会が11月12日「小学1年の児童が、教室で立ち歩いたり、勝手に出ていったりして授業が進まない状態が、昨年度東京都の公立小の4分の1で起きていた」という調査結果を明らかにしました。公立小学校の校長約1,300人を対象にした調査であり、以前から問題になっていた「小1プロブレム」の進行が今も続き、深刻な問題のひとつになっていることが改めて浮き彫りにされました。

「授業中に立ち歩いたり、教室を出ていったりする」(69%)、「担任の指示通り行動しない」(62%)等が目立ち、その対策として「他の教諭に学級に入ってもらった」「非常勤講師などの派遣を受けた」としています。

小学校に入学したての児童が落ち着かず、授業が成立しない状況を「小1プロブレム」と呼び、1990年代半ば頃から話題になっていましたが、それ以降解決のためにさまざまな試みがなされてきました。最近では「幼小一貫教育」の考え方に基づき、保育園・幼稚園と小学校が連携し、入学前に集団生活のルールを身につける取り組みを始める自治体も増えてきました。問題行動を起こす背景はいろいろ考えられますが、遊ぶ機会が減り、友だち関係が希薄になったことや、家庭での子育ての方法に問題があるのではないかと思います。また、幼稚園や保育園での集団活動の積み上げにも工夫が必要なのではないかと思います。

この問題は、公立小学校だけでなく、私立小学校にとっても切実なはずです。学内での行動だけでなく、課外活動での様子、公営交通機関を使った登下校における行動など、私立小における独特な問題も絡んでいます。問題行動を起こせば、それが即学校の評価にもつながるという意味では、公立小学校よりも敏感にならざるを得ない問題のはずです。そこに行動観察重視のひとつの要因があると私は考えています。ただ、行動観察はそうした「問題行動」を見抜くという意味での消極的な理由だけでなく、積極的な理由もあるはずです。それは、小学校入学後にどんな成長を遂げていくのか、また、さまざまな能力が開花していくためのレディネスがどれくらい身についているかという点をどう評価するかということです。物事に取り組む態度、集中力、自分の考えを相手にしっかり伝えるコミュニケーション能力、相手のことを理解し行動できる協調性など、入学後の学校生活で欠かせない基本的な生活態度を積極的に評価しようという観点も、行動観察の評価に当然加えられているはずです。

行動観察と称される課題が小学校入試においてどのような意味を持ち、合否判定にどのように絡むのか。また、どのような態度がプラスの評価になるのかは、課題に即して考える必要はあります。また、「なぜ最近、自由遊びが増えてきたのか」その背景をしっかり分析し、「教え込み」の対策が実際の入試においてはマイナス評価につながるかもしれない、ということを指導者はしっかり把握しておくべきです。「遊び方」を教えてもそれは何の解決にもつながりません。それよりも「遊びの経験」をどう積み上げていくのかが大事です。遊びの中で起こるさまざまな衝突を通して、相手の存在に気づいたり、がまんしたり、自分の気持ちをコントロールする経験を積むことが少なくなった今の子どもたちに、どんな経験をさせればよいのか。家庭と教室とが連携し、生活の中で育てるという意味で、家庭の役割・責任を明確にしなければなりません。「行動観察」の対策は、教室任せにできない家庭教育の大切な課題であるということをしっかり認識する必要があります。

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