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週刊こぐま通信
「室長のコラム」

幼児にわり算をどう教えるか 幼小一貫思考力育成クラス 実践報告(2)

第189号 2009/3/6(Fri)
こぐま会代表  久野 泰可

 わり算は小学校3年生で学習します。2年生で学習したかけ算の考え方、すなわち
  一あたり量×いくつ分=全体の数
と関連付けながら、「全体の数」と「いくつ分」がわかっていて「一あたり量」を求める等分除と、「全体の数」と「一あたり量」がわかっていて「いくつ分」を求める包含除の2つを学びます。その考え方が本当に理解できているかどうかをチェックするため、小学校3年生の学習では式に単位をつけて立式させます。例えば、全体の鉛筆の数から分ける人数や一人分の数を求める場合、

1. 12本÷4=3本 (等分除)
2. 12本÷4本=3 (包含除)

という2つの式が考えられますが、1.は、12本の鉛筆を4人で同じように分けると1人分は何本ですかという問題であり、2.は、12本の鉛筆をひとり4本ずつ分けると何人の人に分けられますかという問題です。12÷4=3という計算ができても、その式の意味することがわからなければ、わり算が本当に分かったことにはなりません。

等分除と包含除の2つをしっかり理解し、この2つの計算の意味の違いをお話しできるようになるには、これまで学習してきた内容と関連付けて指導することが大事です。そこが指導のポイントです。そこで、下記のようなオリジナルペーパーを何枚かつくりました。

1. 第6回-1「等分除の復習」
2. 第6回-4「わり算の考え方(等分除)」
3. 第6回-6「わり算の考え方(包含除)」
4. 第6回-8「絵を見て式を立てる(等分除)」

等分除のほうが比較的わかりやすいと思いますが、包含除のほうも、受験前にいろいろ学習してきましたから、そこにつなげていく方法をとりました。少しペーパーの内容を解説しましょう。

1.は、これまで学習してきた同じ数に分ける等分除の問題の復習です。を書いて答えさせます。

2.は、同じ場面を使って、等分除のわり算の式の意味を伝えます。

3.は、包含除の考え方を、式を使って理解させます。

4.は、等分除の考え方を、すべて数字であらわすように学習します

こうして、これまで行ってきた学習につなげながらわり算の意味を伝えました。最初は場面を見せ、次に同じ場面の話を絵を見せないで行い、最後は場面を限定しないでいろいろなお話を聞かせて立式の練習をさせる方法をとりました。この段階では、わり算はかけ算の逆算という意味のことは伝えず、ひたすら現実に起こる具体的な場面とのつながりでわり算がどんな計算かを指導します。

さて、問題はわり算の計算の仕方をどう学ばせるかです。例えば「14÷2」の計算の答えを見つける場合、かけ算をマスターしてきた小学校3年生の子どもたちには、たぶん2の段で14になる答えを探す方法をとると思います。すなわち「にしちじゅうし」ということから答えを「7」とします。それで良いのですが、九九の計算がまだ十分身についていない幼児にはその方法は使えません。そうではなく、わり算の意味を具体的にとらえさせながら、答えを見つけます。すなわちこの場合は「14個のイチゴを2人で分けたらひとりいくつもらえるか」というように式を読み取り、14の半分を答えとすれば良いのです。もちろんこの方法では限界があります。年長児に暗算で答えさせるにはせいぜい12から20ぐらいまでの数で、割る数も、÷2・÷3・÷4ぐらいまででしょう。しかし、九九の範囲のどんな計算にも答えられるようにすることが今の段階の目標ではありません。わり算がどんな計算なのかを事実と結びつけて考え、立式できればよいのです。計算の範囲を拡大するには当然九九の理解が前提になりますが、計算が速くできるようになっても式の意味がわからなかったり、自分で立式できなければ何の意味もありません。

計算式に表現された数の変化を現実の場面に即して理解できなければ、計算が一人歩きし、文章題はお手上げということにもなりかねません。わり算の意味を常に考えながら計算の答えを見つけることは確かに不合理かもしれませんが、わり算の意味の理解は定着するはずです。ですから次のようなペーパーを用意し学習しました。

第8回-1「6の等分」
第8回-5「12をいくつかずつにまとめる」
第8回-8「÷(わる)3の計算」
第8回-11「わり算のお話づくり」

前週「かけ算」の答えの出し方を学んだ際に、「2の段と5の段の九九をがんばって覚えてきて、来週発表してね」と約束しました。多分発表したくて家で一生懸命練習してきたのでしょう。わり算の学習の前に発表してもらったところ、10名のうち5秒以内で2の段を言えた子は3名、ほかの7名もみんな7秒以内で暗唱できました。5の段になると6秒以内が2名、多くの子が15秒ほどかかりました。しかし、1週間のうちに2の段も5の段も暗唱できたのは何故でしょう。それは、かけ算九九は興味さえ持てば簡単に覚えられると言うことです。それ以上に、かけ算は九九を暗唱させることに難しさがあるのではなく、かけ算の考え方をどう理解させるかに難しさがあるということを知っておく必要があります。その意味で、九九の暗算からかけ算の指導に入るのではなく、小学校受験向けに行ってきた「一対多対応」の発展としてかけ算指導に入るほうが、「考える力を育てるかけ算指導」としては有効だと思います。

同じように、わり算の指導も計算練習から入るのではなく、等分除や包含除の実際の場面を計算式に表す練習から始めたほうがわかりやすいのではないかと思います。それが私たちの目指す幼小一貫教育の方法論だと思います。

ものを等しく分けたり、まとまりを作って袋詰めにしたりする行為の意味を計算式にくっつけていくことが、幼児にわり算を教える有効な方法であるし、指導可能な方法だと思います。

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