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週刊こぐま通信
「代表のコラム」

架け橋期の教育を考える(6)
数の教育を考える

第954号 2026年9月25日(金)
こぐま会代表  久野 泰可
 幼児期の遊びや活動と小学校の教科学習をつなぐ「架け橋期」の教育研究は、大学を卒業して幼児教育の世界に飛び込んだ私のライフワークのようなものでした。この課題に取り組むきっかけは、大学卒業時の1972年ごろ、小学校に入ってから学校の勉強についていけない子どもたちが大量に生みだされ、「落ちこぼれ」「落ちこぼし」として社会問題になっていたことでした。その当時の幼児教育は意図的な「知育」を避ける傾向にありました。幼児に意図的な知育はなじまないということだったのでしょうか。しかし、幼稚園や保育園を卒園すれば小学校に進級し、教科学習が始まります。その準備を何もしないまま(今でも多くの幼稚園、保育園で同様だと思います)小学校へと送り出してきました。その結果が「落ちこぼれ」の子どもたちを大量に生む結果になったのです。そうであるならば、幼児期にすべての子どもに教科学習の基礎となる学びをさせなければならないのではないか。学習についていけない子どもが大量に生まれる原因は、基本的には幼稚園・保育園に責任があります。ひとりの子どもの成長を考えれば、誰もが教科学習の世界に入っていくのは確かなのに、何の準備も行わない・・・私がお会いした香港の幼稚園の園長は、日本の幼稚園をよく視察に来られていたようで、「なぜ日本は、幼児期に意図的な教育をしないのか。こんな国どこにもありません」と話してくださいました。私は東南アジアの国々の幼児教育を見てきましたが、3歳頃からはきちんとしたカリキュラムで学習しています。日本の遊び保育を知って、どの国の方もとても理解できないとおっしゃっていました。文科省の保育政策を調べてきたわけではありませんが、少なくとも通わせている側の保護者の目には、意図的な教育を何もしないのが日本の幼児教育だと映ります。お茶の水女子大学附属幼稚園から始まった日本の幼児教育では、遊び保育の伝統が続いていますが、その重要性を認めつつ、この架け橋期の議論をきっかけに、まともな「知育」を幼児期にしっかりやるべきだという考えが広まれば・・・と期待しています。私の長年の願いであった「幼小一貫教育」がこの架け橋期の教育で実現できるのなら、私の50年におよぶ実践活動が無駄ではなかったと感じます。

日本では遊び保育が中心でしたので、幼児期の意図的な知育は避けられてきました。唯一幼児期の知育が存在したのは、小学校受験や幼稚園受験のための対策においてでした。しかし、かつては多くの場合、その中身が「知能検査」の内容でしたので、学習というより訓練のようなものでした。単純な問題を時間内にどれだけこなせるかが求められていましたから、ペーパーによるパターン学習で済んでいました。その後、テストの内容もいろいろ改善されてきましたが、さて今の受験対策はどうでしょう。内容は知能検査のテストから大きく変化しましたが、学び方はやはり同じように、ペーパーによる指導で解き方を叩き込んでいるだけです。このような方法で「考える力」が育つはずはありません。今でも昔と変わらない「受験対策」は、架け橋期の教育とは無縁です。教科書のない受験対策で何を手掛かりに教育内容を考えているのでしょうか。入試対策といわれる学びのほとんどが、入試で出された過去問をひたすら解いていくだけのパターン練習であり、しかも試行錯誤する時間さえ与えないで、解き方を指導しているにすぎません。架け橋期の教育は事物教育と対話教育を中心に、子ども自らが答えに到達できるように、試行錯誤する時間を保証してあげなくてはなりません。知育=受験教育という従来の発想から抜け出て、幼小一貫教育をデザインしなくてはなりません。
そのとき必要なのは、教科学習でどんな「学び」が行われるのか、また、どこで子どもたちは躓くのか・・・そうした将来を見据えたが議論が必要です。
ところで日本の小学1年生の算数教科書は、次のような内容構成になっています。
学校図書株式会社 しょうがっこう さんすう 1ねん
110までのかず
2いくつといくつ
3なんばんめかな
4あわせていくつ ふえるといくつ
5のこりはいくつ ちがいはいくつ
6いくつあるかな
710よりおおきいかずをかぞえよう
8なんじ なんじはん
9かたちあそび
10たしたりひいたりしてみよう
11たしざん
12ひきざん
13くらべてみよう
14かたちをつくろう
15大きいかずをかぞえよう
16なんじなんぷん
17たすのかな ひくのかな ずにかいてかんがえよう
18かずしらべ
191年のまとめをしよう
小学1年生で学ぶ算数科の内容に、幼児期の経験がどのように生かされているのか。この学習内容にスムーズに入っていける基礎力は果たして身についているのかどうか。遊びの中で数の経験を積み重ねるだけで、この小1の内容を理解することができるのかどうか。
私は疑問を持っています。小1になったとたん、教科書とノートを使った机上の学習になじむことができるのかどうか。もし、授業形態についていけない子どもが出るとすれば、やはり就学前に、学びのスタイルに慣れておく必要があると思います。以前「小1プロブレム」ということで、授業中に立ち歩いたり教室を出て行ってしまったり・・・学びのスタイルになじめない子がたくさんいるという報告がありましたが、今は解決しているのでしょうか。公開授業を見ると、やはり今でも、授業後半になると自分の席を離れて立ち歩く子がいるようです。そう考えると、年長の段階で小学校に入ってからの学びのスタイルに慣れておく必要があります。もちろんそれだけではありません。学ぶ内容が子どもたちにとっても魅力的で、物事に働きかける試行錯誤ができるチャンスが必要です。その意味で、架け橋期の数の教育は、前回のコラムで述べた「3段階学習法」が必要です。それは年長児のみならず、小1の一学期はそうすべきだと思います。ところで、KUNOメソッドによる年長の数の学習は年6回、図形の学習も年6回行います。つまり、将来の算数科につながる内容は、12回の学習で行っていることになります。その12回の内容は以下のとおりです。
数図形
ステップ1計数、同数発見、5と7の構成基本図形とその構成
ステップ2一対一対応立体構成
ステップ3等分同図形発見、点図形
ステップ4一対多対応図形分割
ステップ510の構成、交換展開図、線対称
ステップ6数の増減、数のやりとり重ね図形、回転図形
具体的な内容については、コラム951号・952号で紹介しましたが、数の内容について、もう一つカリキュラムを紹介いたします。
step4-3 数「一対多対応」
かけ算の考え方の基礎となる1あたり量の考え方を身につける
(1) お客さんごっこ
  1. 5人のお客さんに1人1個ずつコップを配ったり、1人に2個ずつキャラメルを配ったり、1人に3枚ずつおり紙を配ったりする。
  2. 用意したものがお客さん全員に行き渡るかどうか確認する。余ったり足りなかったりした場合は、その数について答える。
(2) 車づくり
  1. タイヤのない自転車カードを見ながら、5台の自転車を作るには全部で何個のタイヤが必要なのかを考えて、その数だけおはじきを出す。また、台数を変えた場合についても考える。
  2. タイヤのない三輪車カードを見ながら、4台の三輪車を作るには全部で何個のタイヤが必要なのかを考えて、その数だけおはじきを出す。また、台数を変えた場合についても考える。
  3. タイヤのない自動車カードを見ながら、3台の自動車を作るには全部で何個のタイヤが必要なのかを考えて、その数だけおはじきを出す。また、台数を変えた場合についても考える。
(3) 袋づくり
  1. 3つの袋に3本ずつ鉛筆を入れるには、全部で何本の鉛筆が必要かを考える。
  2. 12本の鉛筆を3本ずつ袋に入れるには、袋がいくつあればいいかを考える。(包含除の考え方)
  3. 全部の鉛筆の数や1袋に入れる鉛筆の数を変えて考える。
(4) ペーパートレーニング
この「一対多対応」は、将来のかけ算の考え方の基礎になります。1当たり量×いくつ分というかけ算の数式の意味が十分理解できないと、九九さえできればいいとなってしまい、文章題の立式ができないのです。

「お客さんが5人います。1人に2個ずつサクランボをあげるには、サクランボはいくつ用意すればいいですか?」という問いかけに、「10個」という答えはすぐ出るとしても、さて5×2と2×5のどちらが正しいのか・・・意外に5×2としてしまう子がみられます。最初に5の数字が出てきたから・・・ということでしょうか。しかし、全体の量を求めるには、1人当たりにあげる数×人数分がかけ算の考え方です。この違いが判らないと、文章題になった時、答えは出ても立式で間違えてしまう・・・という例がたくさん見られるのです。そのため、具体的な場面での活動をイメージして「1人当たり×人数分」の考え方を実際のお客さんごっこを通して学んでいく授業です。かけ算は小学2年生で学ぶことになっていますが、生活場面や遊びの場面を考えれば、すでに幼児期にかけ算の考え方を体験しているわけで、等分の課題を考えれば、わり算の考え方も幼児の段階から体験しているわけです。日本では、小1でたし算・ひき算、小2でかけ算、小3でわり算というように、3年間かけて四則演算を学習しますが、私はなぜ3年間もかける必要があるのか疑問を持っています。それは、例えばわり算は、かけ算九九がわからなければ答えは出せないと考えているからです。確かに計算上ではそうですが、実際の生活場面では幼児の時期から四則演算の数体験はしているのです。なぜ3年もかけるのか、それは算数を計算主義と考えているからです。私がシンガポールの算数の教科書を見た時、驚いたことに、小1でかけ算もわり算も考え方を生活場面に即して学ばせているのです。生活に密着した文章題を重視するシンガポールの算数と、計算主義の日本の算数の違いがはっきりと指導法に表れているのです。

一方で、幼児期の終わりまでに育ってほしい10の姿の中で、数に関する学習は次のように表現されています。
数量や図形、標識や文字などへの関心・感覚

遊びや生活の中で、数量や図形、標識や文字などに親しむ体験を重ねたり、標識や文字の役割に気付いたりし、自らの必要感に基づきこれらを活用し、興味や関心、感覚を持つようになる。

保育所保育指針解説(厚生労働省・平成30年2月)
https://www.cfa.go.jp/assets/contents/node/basic_page/field_ref_resources/eb316dce-fa78-48b4-90cc-da85228387c2/f4758db1/20231013-policies-hoiku-shishin-h30-bunkatsu-1_24.pdf

これでは具体的に何をやっていいのか現場の教師にはわからないし、少なくとも諸外国の幼児教育と比較するとあまりにも漠然としていて、これではシンガポールの算数に追いつくことはできません。もっと幼児期の数の学習の課題を明確にしないと、「読み・書き・計算」をやればいいということになり、ここから計算主義の日本の数教育が始まってしまうのです。生活に根差した数の教育は、シンガポールのように計算ではなく文章題を重視した算数教育にすべきです。そのために、こぐま会では文章題につながるように、お話を聞いて具体的な場面をイメージし、数の変化を考える授業を徹底して行っています。読んで解く文章題の前に、お話を聞いて解く文章題をたくさんやる必要があります。場面をイメージできれば、読んだ文章から数字だけを拾って式を立てることにはならないはずです。
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