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週刊こぐま通信
「室長のコラム」

幼小連携はどうあるべきか

第818号 2022年6月24日(金)
こぐま会代表  久野 泰可

 私は幼児期の基礎教育にかかわって以来、常に「幼小一貫教育」の考え方に基づいたカリキュラム開発と教室での指導を心がけてきました。幼児期に学ぶ内容が小学校以降の教科学習の基礎になるようにと「教科前基礎教育」の考え方を提案し、その内容と方法を確立してきました。最近、幼児期と小学校とのつながりを意識した教育をすべきだという考え方が一般化していますが、それまでは幼児期と小学校の教育内容をつなげていこうという考え方は日本の場合一切ありませんでした。その証拠に、日本では幼児期の知育に関する実践の積み上げがほとんどありません。幼児教育に携わる人間は、小学校で起きている問題にほとんど関心がなく、一方で小学校側も、幼稚園や保育園でどんな教育を受けてきたのかを知らないまま、6歳になって4月を迎えた子どもたちを受け入れてきました。幼児教育の無償化に関連して、幼児期と小学校のつながりを考えた保育・教育が必要だという機運が高まり、多くの自治体で幼小連携の動きが活発に行われてきました。しかし、その連携の内容といえば、小学校の先生が幼稚園を見学したり、保育園や幼稚園の園児を小学校に連れていって交流させるといった具合に、連携の内容が矮小化され、教育の中味としての連続性を持った「幼小一貫」教育の実践とは程遠い「視察」「交流」でその場をしのいできた感じがします。それどころか、小1プロブレムの解消のために取り組んでいる小学校1年生の「スタートカリキュラム」も、ほとんどが生活科の内容であり、学力の基本として「算数」「国語」につながっていく内容はほとんど取り上げられていません。スタートカリキュラムが、幼児にとって関心をもって学びに向かえる「生活科」の内容であることは、発達の観点からして至極当然なことです。しかし、保護者が一番関心を持つ「算数」や「国語」を避けて通れるはずはありません。国際的な学力到達度に関する調査(PISA)で数学的な思考や読解力が問われているのに、それに無関心でいられるはずはありません。日本でも全国一斉学力テストの評価の中心は「算数」「国語」であるにもかかわらず、その点についての「幼小連携」がないのは不自然です。昔から言われてきた「読み・書き・計算」の部分をどうするかは、単に文字が読めた、文字が書けた、計算ができたということではなく、数学的な思考法をどう身につけるか、読解力につながる「聞く力」をどう身につけるか・・・そこに真正面から取り組まなくてはなりません。「幼小一貫教育」とは、幼児期の学びが土台になって小学校以降の学びにつながっていくと考えるべきであり、幼小連携と称して内容が伴わない「視察」や「交流」で終わってしまってはいけません。文部科学省主導の「幼児教育と小学校教育の架け橋特別委員会」においても、そのことはきちんと報告されています。

小学校1年生の算数の教科書を開いてみてください。目次を見ると、1年生で何を学ぶのかがよくわかります。下に掲げた内容は、ある教科書会社の1年算数の目次です。

  1. なかまづくりとかず
  2. なんばんめ
  3. あわせていくつ ふえるといくつ
  4. のこりはいくつ ちがいはいくつ
  5. どちらがながい
  6. わかりやすくせいりしよう
  7. 10よりおおきいかず
  8. なんじなんじはん
  9. 3つのかずのけいさん
  10. どちらがおおい
  11. たしざん
  12. かたちあそび
  13. ひきざん
  14. おおきいかず
  15. どちらがひろい
  16. なんじなんぷん
  17. たしざんとひきざん
  18. かたちづくり

この教科書の場合、最初の単元に入る前に1時間だけ「幼児期に育った数や量への関心・感覚の想起」として、「くらべたことがあるかな」とか「おおいのはどちらかな」といった導入部分の学びが入っています。この表現は、おそらく「幼児期の終わりまでに育ってほしい姿」として掲げられている10項目のうちの8番目に「数量や図形、標識や文字などへの関心・感覚」という表現があるため、それに呼応して設けられたものだろうと思います。ただ私がいつも疑問に思っていることは、最初の単元である「なかまづくりとかず」の単元で、すぐに「1~5までの数字の唱え方・数え方」があり、続いて「1~5の数字の読み方・書き方・数の構成」が出てくる点です。つまり「算数=数字を扱う学び」という考え方を最初の段階から強く印象づけ、その数字の操作によって、すぐにたし算やひき算の学びに入っていくのです。これでは、算数嫌いになる子どもが出てきてしまうのは当然だと思います。数字を扱う前にすべきことはたくさんありますし、実際にこの教科書でも「なんばんめ」「どちらがながい」「どちらがおおい」「どちらがひろい」「かたちあそび」「かたちづくり」の単元も用意されています。私たちが指導している「未測量」や「図形」の領域で扱っている単元もあります。最初から数字の学習を導入し、その後の学習をすべて数字で処理していくようなカリキュラムでは、子どもが算数を好きになっていくチャンスをみすみすなくしてしまっています。数字は具体的でありながらきわめて抽象的な記号です。その数字を算数の学びの最初から入れていく発想は、幼児の教育に携わっている私から見ると、子どもの数学的な思考を育てていくことにはなっていないとつくづく思います。それであるならば、数字を使わなくても楽しく学べる「なんばんめ」「どちらがおおい」「どちらがながい」「かたちづくり」のような学びを算数のスタートカリキュラムとして導入したらどうでしょう。日本の算数教育の悪しき伝統である「計算主義」を取り除くためには、たった1時間だけ用意されている「幼児期の学びの想起」の時間を10時間ほど取り、子どもたちの数体験を想起させながら、算数教育につなげていくような「幼小一貫教育」を実践すべきです。

私たちが算数の基礎として「教科前基礎教育」で取り上げている、未測量・位置表象・数・図形の単元をここに掲げます。こうした「数字」を使わない学びをしっかりやって、小学校の学習につなげていくべきです。それが困難ならば、1年生で数字を使った学習に入る前に、ぜひすべき内容です。

未測量step1:大きさ・多さくらべ
step2:重さくらべ
step3:長さくらべ
step4:シーソー
step5:逆対応
step6:重さのつりあい
位置表象step1:前後・上下関係
step2:左右関係
step3:方眼上の位置と移動
step4:四方からの観察(1)
step5:四方からの観察(2)
step6:地図上の移動、飛び石移動
step1:計数、同数発見、5の構成
step2:一対一対応
step3:等分
step4:一対多対応
step5:10の構成、交換
step6:数の増減、数のやりとり
図形step1:基本図形とその構成
step2:立体構成
step3:同図形発見、点図形
step4:図形分割
step5:展開図、線対称
step6:重ね図形、回転図形
※全領域、step7は総合学習を行います
こうした内容をこそ、「幼小一貫教育」の内容に掲げるべきだと思います。


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