週刊こぐま通信
「室長のコラム」都立一貫校 立川国際附属小の取り組みに期待すること
第808号 2022年4月8日(金)
こぐま会代表 久野 泰可
こぐま会代表 久野 泰可

先日あるメディアの取材を受けました。その内容は、「東京都立立川国際中等教育学校附属小学校(以下、立川国際附属小) にはどんな子どもが合格したのか」というものでした。開校初年度の入試で約31倍という倍率だった学校です。取材の冒頭に私のほうから、「なぜ立川国際附属小だけを取り上げるのですか?」と尋ねたところ、やはり倍率が世間で話題になっているからだということでした。しかし私は、「国立の 筑波大学附属小学校 では30倍前後、お茶の水女子大学附属小学校 では50倍前後もあるので、そんなに驚くことはありません」と伝えました。合格した子どもも他の小学校入試で合格している子どもと比べて特に変わったところはありません。子どもらしく元気な子が多く、親が普段の生活や遊びの中で主体性を育てる子育てをしてきた結果、「自分で考え、自分で判断し、主体的に行動できる子どもたち」だとお伝えしました。そのうえで、受験されたご家庭はいったい何を受験の動機にしたのだろうかと思いを巡らしてみました。私立と国立の合間に試験日があって、併願しやすかったことはあるとしても、都心からだと1時間はかかる学校まで通学するメリットはいったい何なのでしょう。こぐま会で国立受験対策をしている「こぐま なでしこ教室」からは29名が1次抽選を通過し、2次の適性検査では11名が通過したうえで、最後の3次抽選で7名の合格をいただきました。この数字には私自身が驚きました。1つ目は受験されるご家庭の立川国際附属小に寄せる期待の高さ、2つ目は高い倍率にもかかわらず、多くの合格をいただけたことです。
最近は、小学校受験をされるご家庭の考え方が多様化しています。かつては大学までの一貫校としての魅力や、宗教教育による心の教育に魅力を感じ、そうした環境で子どもを育てたいと願うご家庭が多かったように思います。しかし最近は、そうした大学までの一貫「ブランド校」ではなく、将来の受験にどれほど有利かを考え、中学校受験を目標とした学校や、大学への進学状況をみて学校を選ぶ保護者が増えてきました。また、これから世界で活躍する人材育成のための「英語教育」にどれほど力を入れているかという観点で学校選びをする保護者が確実に増えてきています。2019年に開校した 東京農業大学稲花小学校 や、今年開校した立川国際附属小は、英語教育にあてる時間が平均よりかなり多く、立川国際附属小では小1で週4日英語の授業があり、義務教育が終わるまでには、通常の学校に比べて約1,000時間も授業時間が多くなるようです。こうした取り組みが評価されていることは間違いありません。幼児期からインターナショナルスクールに通わせるご家庭が多いのも、英語教育に対する期待が一番の理由だと思います。
立川国際附属小に7名合格したという報告を受けて以降、同校のホームページや校長先生のインタビュー記事などを拝見しました。教育の現場にいる人間として、この学校の教育がどのように発展していくのか、それを知っておきたかったからです。
コラム第789号では、入試に関する情報公開を他校に先駆けて行ったことの素晴らしさを述べましたが、それだけではありません。まず驚いたのは受験する子どもたちに向けて、校長先生をはじめとする担任の先生方のメッセージ動画をホームページ上に掲載していることです。塾の指導者でもなく保護者の方でもなく、子どもたちに向けてメッセージを送る姿に、学校運営の前向きな姿勢を感じました。また、「幼児教室が入試情報を独占し、教室に通わなければ情報は得られない」という間違った現状を打ち破り、入試情報を可能な限り公開したことも評価すべきことです。子ども本人や、子育てをする保護者に向かって無理のない受験にしようとする姿勢は、必ずや教育内容や教育方法に反映されるはずです。そのことは、校長に着任した市村裕子氏のインタビュー記事を読むとよくわかり、新しい学校づくりを目指す意気込みが伝わってきます。その中で、立川国際附属小の教育の大きな柱に次の2つを掲げています。
※参照:「東洋経済オンライン」(2021年10月7日掲載)、「朝日小学生新聞」(2021年11月特別号)
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読み・書き・計算はまだ早い!
家庭でできる教育法を一挙公開
子どもを机に向かわせる前に実際の物に触れ、考えることで差がつく。- 食事の支度を手伝いながら「数」を学ぶ
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