週刊こぐま通信
「室長のコラム」基礎学習がなぜ大事か
第786号 2021年10月15日(金)
こぐま会代表 久野 泰可
こぐま会代表 久野 泰可

首都圏の入試はすでにスタートし、合格発表も出始めています。神奈川県の入試ももうすぐです。都内の学校は11月の学力試験に先駆けて面接試験が始まりました。心配されたコロナの感染状況も落ち着き、昨年に比べると少し好転した状況下で試験が行われる可能性も出てきました。特に学校側が苦慮している「行動観察」は、コロナ以前のやり方に少し戻るかもしれません。ただし、宣言が解除されて2週間以上経過する今月後半の感染状況がどうなるかが心配です。また今年は、インフルエンザが大流行するのではないかという報道もありますので気が抜けません。
さて一方で、来年秋の受験に向けた学習も始まりました。現在ゆりクラスに在籍している皆さまは、この9月から「セブンステップスカリキュラム」の学習が始まり、10月でステップ1が終わります。10月最後の週より1つ上の学年、ばらクラスに進級し、ステップ2の学習が始まります。冬休み前までにステップ2も終わる予定です。
こぐま会の「セブンステップスカリキュラム」では、1年間の学習を7つのステップに分け、基礎段階→応用段階→総まとめと進みます。4月までに「基礎段階の学習」を終える予定ですが、ここまでをどれだけしっかりと身につけるかが、過去問を含めた応用段階の学習を支えるために大事です。では、入試対策における「基礎」とは何なのでしょうか。易しいから基礎で、難しいから応用なのではありません。子どもたちが物事をどのように理解していくのか、また、なぜある段階になると問題が解けなくなってしまうのか。そうした子どもの実際から「基礎」は何かを考える必要があります。その意味で、できない問題の根拠を分析することが一番わかりやすいと思います。私たちが学習の順序を守り、それぞれの領域の課題の系統性を重んじた学習を実践しているのは、「基礎」をしっかり身につけなければならないと考えているからです。
抽象的な話にならないよう、実際の入試問題を使って「基礎学習の大切さ」をお伝えしたいと思います。今回は3つの課題を取り上げます。まずはじめは、最近の入試でよく出される言語領域の「言葉づくり」という課題です。
- 1. 一音一文字・言葉づくり
- 左のものの名前の真ん中の音を使うとどんな言葉ができますか。それぞれ右から選んでをつけてください。

それぞれの言葉の指定の音を使って新しい言葉をつくるという問題です。一番はじめの音を使って言葉をつくる場合は易しいはずですが、真ん中や下から2番目の音を使ってつくるとなると結構難しくなります。こうした入試問題の基礎は、「一音一文字」という考え方に根拠があります。日本語は、いくつかの音が組み合わさって言葉が形成されているという考え方です。例えば「リンゴ」であれば3つの音でできていて、最初は「り」、2番目は「ん」、最後は「ご」の音がつくという考え方です。この一音一文字の考え方「どこに何の音がつくのか」は、ステップ1の言語領域で学習しますが、その考え方が応用されて、「しりとり」や「同頭音」や「同尾音」の学習につながり、その後「言葉つなぎ」や「言葉づくり」に発展していくのです。一音一文字やしりとりは、絵カードを使った学習が有効です。基礎を身につけるためには試行錯誤する時間が必要ですので、基礎段階からペーパー中心の学習ではなく、今回の場合はまず絵カードを使った練習を行ってください。
では次の問題を見てみましょう。これは「四方からの観察」という課題で、一つのものの見え方が、見る場所によって変わるというものですが、最近の入試では、具体物でありながらやや抽象的なつみ木を使った四方からの観察がよく出されています。昨年、ある学校の入試で出された以下の問題は、私たち大人にとっても難しい問題です。
- 四方からの観察を含んだつみ木の数当て
- 上の絵を見てください。テーブルの上のつみ木をまわりから動物が見ています。前から見ているウサギはつみ木の黄色いところ、右から見ているクマからはつみ木の青いところが見えます。木の上から見ているサルからはつみ木の赤いところが見えています。
- 下の絵を見てください。下の机の上のつみ木をまわりから動物たちが見ると、それぞれ右のように見えました。机の上の形はいくつのつみ木でできていますか。その数だけ下のお部屋に青いをかいてください。

この問題を自分の力で解くために必要な「基礎学力」と何なのでしょうか。
- 場所が変わると同じつみ木も違って見えるということが理解できているか
- 左右関係の理解がどこまで身についているか
- 立方体を表現する場合、奥行きのない表現(つまり真四角)で理解できるか
- 3つの方向からの見え方を総合して、後ろに隠れているつみ木の存在が理解できるか
- 四方からの観察
- 真ん中のつみ木を生き物たちが見ています。
- カエルから見た形に、カタツムリから見た形に、上を飛んでいる鳥から見た形に×を右の絵につけてください。

もう一つ入試問題を題材に考えてみましょう。以下の問題は「交換」と呼んでいる問題で、将来学ぶ「かけ算」や「わり算」の考え方が基本にある問題です。
- 5. 交換
- 上のお部屋を見てください。メロンパン1個は、ドーナツ2個と換えてもらえます。食パン1斤は、メロンパン2個と換えてもらえます。ハンバーガー1個は、メロンパン1個とドーナツ1個と換えてもらえます。
- メロンパン4個は、食パンいくつと換えてもらえますか。その数だけリンゴのお部屋にをかいてください。
- 食パン2斤は、ドーナツいくつと換えてもらえますか。その数だけブドウのお部屋にをかいてください。
- ハンバーガー4個は、食パンいくつと換えてもらえますか。その数だけバナナのお部屋にをかいてください。

コラムでも何回か取り上げた問題ですが、考える力を求めるとてもいい問題だということで、授業でも扱っています。この問題を解く基礎的な学力とは何なのでしょうか。
- メロンパンから食パンの数を求めるには、わり算の包含除の考え方が必要です
- 食パンからドーナツを求める問題は、かけ算の考え方に加え、置き換えの考え方も必要です
- ハンバーガーから食パンを求める問題も、包含除だけでなく置き換えの考え方が必要です
実際に出された3つの入試問題を紹介して、「基礎学力とは何か」をお伝えしました。難しい過去問として取り上げられる、以上のような問題を解決するために、多くの場合、繰り返しの練習で身につけていくという方法がとられます。極端な言い方をすれば、過去問を繰り返し、徹底して訓練すれば合格できるといったとんでもない発想で対策をとる場合もあります。これからの時代の入試問題は、自分で考え、考えのプロセスを説明できなくては対応できません。それぞれの課題を解くための基礎が何であるかをしっかりと押さえ、それを徹底して学ぶことが、私たちが重視する「転移する学力」へとつながります。
ステップ1からステップ4までの学習は、そうした「基礎」を学ぶための学習を徹底して行います。そのためこの時期には、ほとんど過去問を使った授業はしません。具体物を徹底して使い、考え方の基礎をしっかり身につけていただきます。そうしたやり方に対し、早く難しい過去問トレーニングをやってほしいという要望も出てきますし、そのようなご家庭では先取りして難しい過去問トレーニングをやり始めます。こうした学びの系統性を無視した対策では、結局合格につながりません。そうした先走りの対策で成功した例はほとんど見たことはありません。基礎をしっかり固めることが、遠回りのようでも最後は合格につながるのです。
9月からセブンステップスカリキュラムで学習を始めた皆さま、まもなく新学年(ばらクラス)がスタートしますが、焦らず着実に「基礎」をしっかり身につけてください。
- こぐま会代表 久野泰可 オンライン講演会のご案内
「皆さまからいただいた ご質問にお答えします」 - 2021年10月23日(土) 10:00~11:15 配信!(無料)
【講演内容】
今年の5月より3回にわたり、オンライン講演会を開催してまいりましたが、時間の都合上、視聴者の皆さまからの多くのご質問に回答できておりませんでした。
本講演会では、これまでのご質問をテーマ毎に分類し、一挙にお答えいたします。
お子さまの教育に関する様々なご質問にお答えすることで、久野が一貫して主張してまいりました「事物教育・対話教育の大切さ」や「正しい受験対策」についても、より分かりやすくお伝えできると思います。
※ご視聴にはお申し込みが必要です
※後日録画配信はありません
- 重版決定!! こぐま会代表 久野泰可 著「子どもが賢くなる75の方法」(幻冬舎)
読み・書き・計算はまだ早い!
家庭でできる教育法を一挙公開
子どもを机に向かわせる前に実際の物に触れ、考えることで差がつく。- 食事の支度を手伝いながら「数」を学ぶ
- 飲みかけのジュースから「量」を学ぶ
- 折り紙で遊びながら「図形」を学ぶ
- 読み聞かせや対話から「言語」を学ぶ