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週刊こぐま通信
「室長のコラム」

いよいよ入試本番です

第787号 2021年10月22日(金)
こぐま会代表  久野 泰可

 神奈川県の小学校では合格発表も出始め、いよいよ10日後に都内の入試が始まります。昨年と違ってコロナの感染状況が落ち着いていますので、このまま試験が行われることを願っています。急に寒くなった影響で体調を崩す子どもも増え始めていますので、ぜひ体調を万全に、目指す学校の試験でこれまでの頑張りを発揮してください。今年は東京都立立川国際中等教育学校附属小学校 が、都立小学校として初めての入試を行うことになり、東京西部地域では相当の盛り上がりを見せ、どんな入試を行うかが注目されています。いろいろな意味で小学校入試全体に与える影響は大きいと思います。私立よりも国立の入試に近い形で行われる可能性は高いようですが、出された問題の難易度、および合否判断がどのように行われたかはしっかり分析して、お伝えしたいと思います。

コロナ禍で行われる2年目の入試ですので、昨年の入試を振り返って、学校側も入試のやり方を相当工夫しているはずです。今年の入試予想と傾向をまとめると次のようになります。
  1. 学力試験は昨年より難しくなるでしょう。
  2. 行動観察は運動系以外にも出される可能性はあります。
  3. 学校側は、あらゆる手を尽くして第2志望か併願校かの見極めを厳しく行うと思います。
  4. 出願だけでなく、面談もオンラインで行う学校も出てきました。(画面を通して発言することが難しい子どもの立場に立つと、果たして良い方法なのかどうか疑問です)
  5. 試験の方法や合否判定についての考え方を前もって保護者に伝えたり、学力試験の内容を公表する学校も出てきており、今後の小学校入試が変わっていく芽が出始めたように思います。
  6. 中学校受験など、上級学校への試験を受けることを方針にしている学校は、かなり難しい問題を出し始めています。他校に波及することも今後考えられます。

都内の学校の試験が始まりましたら出題された問題を分析し、どのように変化したかをお伝えするつもりですが、合否判断を含めこれまでの動きを見ると、確実に小学校入試が変化しつつあることを実感します。この変化の背景はいろいろ考えられますが、今後は、幼児期から小学校へのつなぎを模索している文部科学省主導の「幼児教育と小学校教育の架け橋特別委員会」の動きも影響してくるはずです。

中央教育審議会初等中等教育分科会で行われている「幼児教育と小学校教育の架け橋特別委員会」の第4回オンライン会議が10月7日に行われました。その際配布された資料の一つである「論点整理のたたき台(案)」を見ると、これまでどんなことが議論されたかがわかりますし、今後の議論の方向性も予想できます。文科省のホームページを見ると議事録や資料が閲覧できますので、関心のある方はぜひご覧ください。

私が一番関心を持っているのは、どれだけ具体的なカリキュラムや実践方針が示されるかどうかですが、どうもそういう方向にはいかないのではないかと懸念される発言も見受けられます。私は、日本の幼児教育の在り方を一実践者の立場で見守ってきました。幼児教室の教師として50年間子どもたちの指導に当たってきました。その立場から見た時、どれだけ具体的な方針が出されるのかに関心を持ってきました。大阪市の特別参与を拝命し、大阪市保育・幼児教育センター の活動に関わらせていただき、現場の先生方との交流を通してたくさんのことを学ばせていただきました。保育・幼児教育センターが開設される前の2014年、ある会合に有識者として呼ばれ意見を述べさせていただいた後、自分の考え方を明らかにするために、1年半にわたりホームページに「知育を軽視する日本の幼児教育が危ない」と題したコラムを書いてきました。その中で日本の幼児教育の在り方に関して私見を述べさせていただきました。それは今この状況になっても生きています。日本の幼児教育関係者が長い間幼児期の知育を軽視してきたこと、「幼児期の終わりまでに育ってほしい10の姿」に象徴されるように、出される方針が具体的でないことが現場の教育改革につながっていかないことを、私は常に主張してきましたが、いま改めて議事録や出される資料読んでみても、やはりそれが正しかったと再確認しています。

例えば今回紹介した論点整理のたたき台(案)を見ても、『世界的に幼児教育への関心も高まる中、我が国の幼児教育は、先生方の研修意欲の高さ、社会的・情動的な発達を重視する実践などで国際的にも高い評価を受けている。』とする一方で、『幼児教育の質に関する認識が社会的に共有されているとは言い難く、いわゆる早期教育や小学校教育の前倒しと誤解されることがあるほか、遊びを通じて学ぶという幼児期の特性を踏まえた教育がその後の教育の基礎を培っていることや、発達の連続性の重要性に関する理解が必ずしも十分ではないのが現状。』と述べています。しかし、『幼児教育の質に関する認識が社会的に共有されているとは言い難く』とは誰に向かって言っているのでしょうか。私は30年以上も前から、幼稚園や保育園の関係者に幼児期における正しい知育を実践すべきだと訴えてきましたが、賛同する方は誰もいませんでした。社会的に共有されていなかったのではなく、文科省をはじめ幼児教育関係者がそもそも幼児教育の重要性を認識していなかったからにほかなりません。社会の責任にする前に、当事者としての反省が必要です。だからこそ、別のところで『「幼児期の終わりまでに育ってほしい姿」等についても、学校種等を越えた連携・接続の手がかりとして活用が始まっている一方で、その理解や普及・活用にはまだまだ課題。』といわざるを得ないのです。

これから始まる議論の前提に、日本の幼児教育は何が問題だったのか、また、小学校で今何が問題になっているのかの総括がないまま、この議論が進んでいくとしたら、これまでと同じように現場に根付かない「学者・研究者」主導の答申に終わってしまう危険を感じます。

意図的な幼児教育がすべて受験のためだと考えられていた時代に、私は、日本の幼児教育に学ぶべき遺産がなければ、小学校受験の問題を参考に話し合ってみたら・・・とある雑誌のインタビューで話したことを覚えています。当事者でない人たちからは批判の対象になっている受験ですが、そこで出題される問題は、学校側が工夫し考えた「5歳~6歳児に求める考える力」として振り向く価値はあったはずです。早期教育や、小学校の前倒しと批判する前に、受験で求められている「考える力」がなんであるのかを一度議論してみたらどうでしょうか。残念ながらそれくらいしか日本の知的教育の蓄積はないのです。現在の受験教育のやり方がいいとは思っていません。なぜなら教え込みの教育がはびこる受験対策は、いろいろな弊害を生み出しているからです。しかし、知育の目指すべき課題は明確に提示されていると思います。受験問題を素材に、「幼児期の知的教育を考える会」などが立ち上がったら率先して参加したいと思います。

 こぐま会代表 久野泰可 オンライン講演会のご案内
「皆さまからいただいた ご質問にお答えします」
2021年10月23日(土) 10:00~11:15 配信!(無料)
【講演内容】
今年の5月より3回にわたり、オンライン講演会を開催してまいりましたが、時間の都合上、視聴者の皆さまからの多くのご質問に回答できておりませんでした。
本講演会では、これまでのご質問をテーマ毎に分類し、一挙にお答えいたします。
お子さまの教育に関する様々なご質問にお答えすることで、久野が一貫して主張してまいりました「事物教育・対話教育の大切さ」や「正しい受験対策」についても、より分かりやすくお伝えできると思います。

※ご視聴にはお申し込みが必要です
※後日録画配信はありません
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