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週刊こぐま通信
「室長のコラム」

「子どもはどこでつまずくか」
- 夏季講習会で見られた学力の現状(2) -

第731号 2020年7月31日(金)
こぐま会代表  久野 泰可

 前回に引き続き、夏季講習会で見られた子どもたちの取り組みを見て、どこで差がついていくのか報告いたします。3日目に学習した「重ね図形」は、最近の入試でよく出題される課題です。難しさの原因は重ね方に2通りあることで、特に半分に折って重ねる方が難しい課題です。ペーパーで行う前に実際に透き通ったシートに描き込んだ形を重ねた場合、どんな模様ができるかを自分で描き表し、それが正しいかどうかを実際に確かめてみる経験が必要です。入試問題の多くはペーパー上で質問されますが、本当に理解できたかどうかは選択肢から選ぶのではなく、実際に自分で描き表すことができるかどうかで判断しなければなりません。ですから、授業では以下のような実物経験をさせてからペーパー問題に取り組ませます。

1. 重ね図形
  • 上の2つの形をそのまま重ねるとどんな形ができますか。下のお部屋にかいてください。

2. 重ね図形
  • 上の形を真ん中の点線で、矢印の方に折って重ねるとどんな形ができますか。下のお部屋にかいてください。

特に間違えやすいのは、2. の半分折りでできる模様を描く課題です。最後の課題は正解者が半分ぐらいですから、ここで差がつくようです。これを踏まえて4日目に行ったペーパートレーニングの3. の問題も、同じように理解度に差が出ました。こうした問題に自信を持って取り組めるよう実際に描く練習をしてください。

3. 重ね図形
  • 上の形を見てください。この形はそれぞれ透明な紙にかかれています。これを点線で矢印の方に折って重ねると、真四角ができます。このとき線やはどうなりますか。下から選んで鉛筆で線結びしてください。

4日目に行った交換をテーマとする「銀行ゲーム」や「動物村のパン屋さん」の課題は、この間いろいろな形で練習してきていますので基本的な理解は十分できているようです。

4. 一対多対応の応用(銀行ゲーム)
【交換の約束】
クマのコイン1枚でウサギのコイン2枚と交換できる。
ウサギのコイン1枚でカメのコイン3枚と交換できる。
  • 上記の約束をふまえた後で、いろいろな交換をする。
    (1)クマのコイン3枚でウサギのコイン何枚と交換できるか。
    (2)カメのコイン9枚でウサギのコイン何枚と交換できるか。
    (3)クマのコイン2枚でカメのコイン何枚と交換できるか。

この中で問題となる (3)「クマのコイン2枚でカメのコイン何枚と交換できるか」については、クマのコインをウサギのコインに変え、そのコインをカメのコインと交換するという、ウサギのコインを仲立ちとしてクマとカメの関係を考える課題ですが、ほとんどの子が解決しています。この置き換えを伴う交換ができれば、交換の基本は理解できたと考えていいかと思いますが、動物村のパン屋さんの問題はかなり高度な思考力を要求されます。

5. 置き換えの応用問題
【交換の約束】
動物村のパン屋さんは次のお約束でパンを取り替えてくれます。
メロンパン1個はドーナツ2個と交換できる。
食パン1斤はメロンパン2個と交換できる。
ハンバーガー1個はメロンパン1個とドーナツ1個と交換できる。
  • 上記の約束をふまえた後で、いろいろな交換をする。
    (1)ドーナツ4個はメロンパン何個と交換できるか。
    (2)食パン2斤はドーナツ何個と交換できるか。
    (3)ハンバーガー4個は食パン何斤と交換できるか。

この中で (3)「ハンバーガー4個は、食パン何斤と交換できますか」という問題を解決できるのは、現時点でクラス全体の半分以下です。正解は「3斤」ですが、間違いの多くが「4斤」であったり「2斤」であったりするのです。なぜ「4斤」であったり「2斤」であったりするのかには原因がありますが、1種類のものと2種類のものが交換できるという約束そのものが難しいからです。1種類のものと1種類のものが交換できるという約束ならば数が違っても問題なくできるはずです。しかし、1種類のものと2種類のものが交換できるという約束は交換を繰り返す必要があり、その過程で間違ってしまうのです。「4斤」と答えた子も「2斤」と答えた子も、最初に「ハンバーガー4個はメロンパン4個とドーナツ4個と交換できる」と分かっていて、そのあとの処理の仕方で間違えてしまうのです。交換した場合、何に変わったのかをしっかり把握することが大事です。そのため授業では、おはじきに4種類のパンのシールを貼り、何に変わったかを意識した学習をさせると間違いなく3斤に到達できるのです。このパン屋の問題が、これまで出された交換の中で一番難しい課題だったと思っています。思考力が求められるこうした問題は、答えが出たら間違っていても合っていても必ず答えの根拠を言葉で説明させてください。その説明の過程で、自分の誤りに気付いていく子がたくさんいます。その意味でも「対話教育」における言語化はとても大事な経験です。

5日目に行った回転推理の課題は、回転テーブルと回転位置移動の課題です。回転テーブルは観覧車の応用ですから、ほとんど問題なくできました。問題は、回転位置移動の場合の位置の変化に関する課題です。入試では次のような問題が出題されています。

6. 回転推理
  • 左の形が回転して右のようになったら、中のはどうなりますか。右の形の中にをかいてください。

今回はその基礎となる3×3方眼を使っての練習です。

7. 回転位置移動
  • 左のお家の形が回転して右のようになったら、中の形はどうなりますか。右のお家の中に鉛筆で形をかいてください。

回転の要素を取り入れた問題が、最近とても多いのに気づきます。やはり、視点を変えてものを見るということを大事にしていることがよくわかります。四方からの観察も同じです。

ところで、5日間を通じて暗算能力のチェックとトレーニングを行いました。

1日目:7の構成
2日目:数が1回変化するもの
3日目:10の構成
4日目:数が2回変化する数の増減
5日目:数の複合問題(かけ算・わり算の考え方も含む)

小学校受験において数の内面化は必須です。指を使ったり、紙に丸を描いたりして解くのではなく、話を聞きながら場面をイメージし、話の展開によって頭の中で数の操作ができるようにしておくことが必要です。特に最近は「話の内容理解」の中で数の操作をしなければならないことが多く、暗算能力が問われます。10までの数の操作と、等分でよく出される「12」に関しては、暗算で答えが出せるようにしておいてください。入試対策としてのみならず、数の内面化は小学校に入学してからとても役立ちます。10の構成は、繰り上がり・繰り下がりの際にとても役立ち、計算スピードを上げるきっかけになるはずです。指を使って答えを出す癖がついている子どもは、いったん指から離れるためにおはじきなどの具体物を与え、それを使って答えが出せるようにしてください。理解できるようになったらおはじきを取り去り、「今度はおはじきを触ってやっていたことを頭で考えてごらん」と言えば、おはじきの操作をイメージして頭で考えようとします。イメージするための体験をしっかりやっておけば、指など使わなくてもできるはずです。もし分からなかったらまたおはじきに戻し・・・この繰り返しが大事です。5日目に行った複合問題は次のようなものでした。

8. 暗算練習(数の複合問題)
次のお話を聞いて答えの数を考えてください。
  1. 公園に自転車が1台とまっています。そこにまた2台きました。今ある自転車のタイヤの数は何個ですか。
  2. 公園に三輪車が4台とまっています。2台出ていきました。今ある三輪車のタイヤの数は何個ですか。
  3. 公園で子どもが4人遊んでいます。そこに別の子ども3人きましたが2人帰りました。今いる子たちに1人2個ずつアメをあげるにはアメは何個必要ですか。
  4. 筆箱があります。筆箱の外にはエンピツが4本あります。筆箱の中には外にあるエンピツよりも2本少なく入っています。エンピツは全部で何本ありますか。
  5. 家の中におともだちが2人います。家の外には中にいるおともだちより1人多いおともだちがいます。おともだちは全部で何人いますか。
  6. リンゴが4個ありました。太郎君が2個食べましたが、お母さんが1個買ってきました。今あるリンゴを1人半分ずつ食べると何人の人が食べられますか。
  7. 12個のアメを太郎君、花子さん、次郎君、美子さんの4人の子どもでけんかしないように分けました。太郎君は別の子どもからアメを2個もらいました。太郎君は今何個のアメを持っていますか。
  8. 10個のアメを太郎君、花子さんの2人でけんかしないように分けました。太郎君は花子さんにアメを2個あげました。2人のアメの数の違いは何個ですか。

さて、2回にわたり夏季講習会の午前中に行った学習の中で、現在もまだ理解度に差が出る問題を取り上げ、難しさの原因を分析しました。なぜ間違えてしまうのか、それを分析することを通してその対策をどうしたらよいかが明らかになってきます。個人差はあるにしても、子どもたちのつまずく原因ははっきりしています。それを解決してあげるのが教師の役目です。間違えた問題を言葉だけで解説しても、その時はうなずいてくれても分かったことにはなりません。ペーパーのみの解説では、つまずいた子どもはいつまでたっても理解できません。その結果、解き方を教え込む指導が横行します。自分で試行錯誤して解き、なぜそうなったのかを説明できなければ分かったことにはならないのです。事物や対話を通して理解させることが「自分で考える」力を育てることになるのです。現在の入試では、その「考える力」を求めています。パターン化したトレーニングでは、自分で考えようとする芽を摘み取ってしまうことになりかねません。私立小学校の低学年の学力が落ちてきているのは、そうした幼児期の指導が関係しているのかもしれません。

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