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週刊こぐま通信
「室長のコラム」

「子どもはどこでつまずくか」
- 夏季講習会で見られた学力の現状(1) -

第730号 2020年7月24日(金)
こぐま会代表  久野 泰可

 こぐま会では7月13日より夏季講習会が始まりました。朝9時から夕方5時までさまざまな講座が組まれています。今年は新型コロナ感染症対策による2カ月間の休校措置はありましたが、オンライン授業で教育を止めない努力をしてきた結果、授業計画のほうは例年通り進んでおり、夏季講習会が始まる前までに6領域の学習はすべて終了しています。これからは入試に向けた実践的な対策をとっていきます。「実践的な」というのは、入試問題はいくつかの単元が複合され総合問題として出されているからです。一つの単元が理解できたからといって入試問題にすぐに対応できるわけではありません。一つ一つの単元の学習をしっかり身につけてから、総合問題に取り組む必要があります。過去問を手当たり次第にやるのではなく、基礎と応用とをはっきり分け、どこでつまづくかをしっかりと把握した指導が必要です。今年の入試は基本的な問題が重視されるはずですから、基礎をしっかり身につけるようにしてください。

5日間連続のお弁当持ち講習会は、午前中は学力を高める学習、お弁当を挟んだ午後は行動観察に関するさまざまな活動を行っています。今年は、ステップ4の半分とステップ5の学習をオンライン授業で行ったために、例年に比べて理解が不十分ではないかと考え、学習内容を大幅に変更して実施しています。授業再開後の子どもたちを見ていると、答えは出せるのに答えの根拠を説明できない子が例年以上に多いように思います。対話教育の欠如が影響しているのかもしれません。どこまで分かっていてどこから分からなくなるか・・・この点について、夏季講習会の学習部分で見られた子どもの様子を「どこで差がつくか」という観点で分析し、報告したいと思います。今回は1日目と2日目の内容について報告いたします。

1日目の内容で、理解度に差がついたものは以下の通りです。
  1. 折り紙を切ったとき、どんな形ができるかを選択肢の中から選ぶ過去問はかなりできているが、実際に折り紙を与えて指定の形を切り抜く問題になるとできない子が目立つ。
  2. 真四角や長四角から切り抜く問題はすぐにできても、三角から切り抜く問題になると、理解できる子とできない子がはっきりと分かれる。
  3. ペーパー問題では、四方からの観察と鏡映像がセットになった問題になると、鏡の理解が不十分な子が多い。
  4. しりとり問題で真ん中の言葉を探したり、真ん中が分かっていて最初と最後が何かを求める問題、そして、最後が分かっていて前に戻る(逆しりとり)問題になると差が目立つ。

少し詳しく解説をしましょう。

線対称の問題は最近よく出されます。たとえば、早稲田実業学校初等部(2014年度入試)や広島大学附属小学校(2019年度入試 女子)の問題などです。

おり紙を使った線対称(2014年度入試 早稲田実業学校初等部)
  • 左の絵のように、おり紙を折ってから黒いところを切りました。開いたらどんな模様ができますか。右のお部屋から選んで赤いをつけてください。

おり紙の線対称(2019年度入試 広島大学附属小学校 女子)
上の絵を見てください。おり紙を点線のところで2回半分に折りました。
  • 左のお部屋のように、折ったおり紙を黒いところで切って開くとどのようになりますか。右から選んでをつけてください。

入試問題はこのタイプが多いので、線を引いて考えたりする方法はよく身についています。この2問では、広島大学附属小学校の問題のほうが間違いが目立ちます。4つ折りの三角を切る問題をあまりやっておらず、難しかったのではないかと思います。しかし出来が悪かったのは、折り紙を与えて実際に切らせる問題です。特に間違いが目立ったのは次の2つです。


特に後者の方は、1回でできた子は半分以下です。ペーパーはできても実際に切れないということでは、本当に分かったことになりません。過去の入試では、折り紙を実際に切らせた学校もありましたので要注意です。

四方からの観察と鏡映像がセットになった問題は、こんな問題もあるかもしれないと思って私が考えた「ひとりでとっくん」シリーズの問題です。それは、実際に授業の場で、四方からの観察と鏡の問題を区別できずに混乱を起こす子が多いということが分かったからです。同じものを反対から見た場合と鏡に映った場合とではどう違うかが分かっているかどうかを問う問題ですが、それ以降入試でも採用されています。

四方からの観察・鏡映像
鏡の前で男の子がポーズをとっています。
  • 鏡の向こう側にいる男の子から見るとどう見えるでしょうか。右から選んで青いをつけてください。
  • 鏡にはどのように映るでしょうか。右から選んで青いをつけてください。

この場合、やはり間違いの多くは鏡の映り方の方です。単純に鏡だけの問題であればできるものが、反対から見たらどう見えるかという設問が最初にあった関係で、その区別がつけられなくなってしまうのかもしれません。鏡への映り方と反対からの見え方をしっかり区別できるように、特に鏡への映り方をしっかり練習してください。

小学校入試でよく出されるしりとりの問題は、最近ではいろいろ工夫されて問題が難しくなっています。後ろにつなげるだけであれば簡単にできるものが、3つの言葉のうち真ん中が抜けていたり、真ん中が分かっていて前と後ろを探したり、最後が分かっていて前に2つ戻ったり、最初も最後も分からず、できるだけ長くつながるように線を引いたり・・・といろいろです。今回は、途中が抜けていたり前に戻ったりする以下のような問題を行いましたが、やはり出来具合には差があります。一番いい練習は、カードを10枚ほど使って前に戻る(逆しりとり・頭取り)練習を繰り返すことによって、しりとりのルールを違った視点から考えられるようにすることです。

しりとり
  • しりとりカードを並べました。空いているところに入るものは何ですか。下から当てはまるものを選んで、エンピツで同じ印をかいてください。

2日目はペーパートレーニングの前に「魔法の箱」の練習をしました。魔法の箱と呼んでいる問題は、小学校以降に学ぶブラックボックスのようなものですが、自分で変化の法則性を発見する問題と、決められた変化の約束を当てはめる問題と2つのタイプがありますが、後者は数の変化が多いので、数の増減の問題を魔法の箱を使って行っていると考えられます。自分で変化の法則性を発見するのは以下のような問題です。

魔法の箱
  • が箱の中を通ると、数が変わって出てきます。上の2つの変わり方を見て、1番下の「?」のお部屋に出てくる数だけをかいてください。

また、あらかじめ決められた約束を当てはめるのは以下のような問題です。

魔法の箱
上のお部屋を見てください。の箱を通ると数が1個増えます。の箱を通ると2個減ります。の箱を通ると2個増えます。
  • このお約束で、下のように左のものが箱を通ると、いくつになって出てきますか。その数だけあいているお部屋にをかいてください。右下の問題は空いているお部屋に形をかいてください。

魔法の箱の問題は、一般的には最後に出てくるものを考えるものですが、問題によっては出てくるものではなく入れたものが何であるかを考えなくてはなりません。魔法の箱の「逆思考」とでも言えるかもしれません。問題の意図が分からないと逆に戻ることはできません。

ペーパーで行った次のような問題も個人差が表れました。

数のやりとり
左のお部屋を見てください。太郎君と花子さんは、アメを5個ずつ持っています。ジャンケンに勝つと負けた人から1個アメをもらえます。
  • 花子さんが2回続けて勝ちました。2人のアメの数の違いはいくつになりましたか。その数だけ下のお部屋に青いをかいてください。
右のお部屋を見てください。オセロのコマは、表と裏が白と黒になっていて、ひっくり返すと色が変わります。真ん中の、バラバラに置かれたオセロを見てください。
  • 黒は白よりもいくつ少ないですか。その数だけ黒いコマのお部屋に青いをかいてください。
  • 白を1つずつひっくり返します。いくつひっくり返すと、黒が白より多くなりますか。その数だけ白いコマのお部屋に青いをかいてください。

現段階で、同じ数からスタートしてやり取りした結果の違いを間違える子は多くありませんが、2個あげたら4個になることをもう一度確認してください。また右の問題のように、白をひっくり返して黒にしていく場合、何個目で黒が白より多くなるかを考える問題は、答えを「3」としてしまう子が多く見られました。6と3の違いが3なので、3個と答えてしまったのかもしれませんが、この問題は、実際に1個ずつひっくり返していったとき数の違いはどうなるかをイメージしながら解かなければなりません。1個ひっくり返したら黒が4で白が5、2個ひっくり返したら黒が5で白が4・・・ここで白と黒の数が逆転するということをつかめば、正解は「2個」になります。計算で解くのではなく作業を通して解いていく典型的な問題ですが、その作業ができないと数の違いにとらわれて「3」という答えになってしまうのでしょう。実際に行うイメージをどう持てるか・・・そのためには実体験がどうしても必要です。

もう一つ、2日目のペーパーで気付いたことがあります。

図形分割
  • 上のように真四角を切ってパズルを作りました。下の形はこの3枚のパズルを使って作ったものです。どのように作ったのでしょうか。それぞれの形の中に分ける線をエンピツでかいてください。

出来上がった形を、大きな三角1枚と小さな三角2枚に分ける問題です。三角パズルの応用問題ですが、上の段の右から2番目と3番目の形と、下の段の真ん中の形が難しかったようです。図形構成にしても今回のような図形分割の問題にしても、大小の三角パズルを使う場合、まず大きな三角がどこに隠れているかを発見することが大事です。また、大きな三角は小さな三角2枚でできているという理解もどこかで役立ちます。

以上、夏季講習会の1日目と2日目で見られた子どもたちの理解度の差を分析しましたが、この2日間で再確認したことは、「逆思考」ができるかどうかが学力差を生むということと、実際にものに触れて試行錯誤した経験があるかないかによってイメージする力に差が出るということです。間違えた問題はペーパー上で解決するのではなく、実際にものに触れ、作業して答えを導き出す経験をたくさん持たせ、解決するようにしてください。


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