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週刊こぐま通信
「室長のコラム」

一対多対応

第666号 2019年3月22日(金)
こぐま会代表  久野 泰可

 「ステップ4」の3回目の授業は、「数領域」の学習です。将来学ぶかけ算の基礎となる「一対多対応」の授業です。一対多対応という表現は、一対一対応を元に私が作った造語ですから、辞書などを見ても載っていないはずです。1に対して2以上の数が対応するというもので、かけ算の考え方につながるものです。現在、学校ではかけ算は(一あたり量×いくつ分)として指導されます。九九を暗算する前に、そうしたかけ算の式の意味をしっかり理解しなくてはなりませんし、そうした数体験は、幼児でもいろいろ経験のあるところです。子どもたちの生活や遊びを再現しながら、1に対して2以上の数が対応するということを学びます。今回の授業では、お客さんごっこからはじめました。

step4-3 数「一対多対応」
かけ算の考え方の基礎となる1あたり量の考え方を身につける
(1) お客さんごっこ
  1. 5人のお客さんに1人1個ずつコップを配ったり、1人に2個ずつキャラメルを配ったり、1人に3枚ずつおり紙を配ったりする。
  2. 用意したものがお客さん全員に行き渡るかどうか確認する。余ったり足りなかったりした場合は、その数について答える。
(2) 車づくり
  1. タイヤのない自転車カードを見ながら、5台の自転車を作るには全部で何個のタイヤが必要なのかを考えて、その数だけおはじきを出す。また、台数を変えた場合についても考える。
  2. タイヤのない三輪車カードを見ながら、4台の三輪車を作るには全部で何個のタイヤが必要なのかを考えて、その数だけおはじきを出す。また、台数を変えた場合についても考える。
  3. タイヤのない自動車カードを見ながら、3台の自動車を作るには全部で何個のタイヤが必要なのかを考えて、その数だけおはじきを出す。また、台数を変えた場合についても考える。
(3) 袋づくり
  1. 3つの袋に3本ずつ鉛筆を入れるには、全部で何本の鉛筆が必要かを考える。
  2. 12本の鉛筆を3本ずつ袋に入れるには、袋がいくつあればいいかを考える。(包含除の考え方)
  3. 全部の鉛筆の数や1袋に入れる鉛筆の数を変えて考える。
(4) ペーパートレーニング

12名のクラスの子どもたちを半分に分け、お客さんになるグループと、お菓子や飲み物などを配る人になるグループに分けます。「お客さんがみえたのでパーティーをします」という設定で、配る人になった子どもたちに手伝ってもらいます。「あめ玉を1人2個ずつ配りたいけど、いくつ用意すればいいですか?」「1人に3枚ずつおせんべいをあげたいんだけど、全部でいくつあればいいですか?」・・・など、1人に配る数をいろいろ変えて配ってもらいます。そのあとで役を交代し、先ほどお客さんになった子どもたちが、今度は配る側になって、同じようにお客さんごっこを楽しみます。

次に、子どもたちには穴の開いたドーナツ状のおはじきを用意し、パンクの修理屋さんになってもらいます。タイヤのない、自転車や三輪車や車の絵を掲示し、例えば「ここにある自転車は4台ともタイヤがパンクし、直さなければなりません。タイヤはいくつ用意すればいいですか?」と問いかけ、その数のおはじきをお皿の上に載せてもらいます。1台分・2台分・・・というように、1台当たり2個ずつおはじきをお皿に載せていけば、4台分のところで出す作業をやめて8個となります。このように一対多対応の学習は、お客さんごっことタイヤの問題を中心に、子どもたちの生活や遊びの中にある場面を使って学ぶのが効果的です。

次に学習した内容は、将来のわり算につながる包含除の考え方です。12本の鉛筆を3本ずつ袋に入れるには、袋はいくつあればいいかというような考え方です。12の中に3の塊がいくつあるかを考える問題で、一対多対応で学習した、(一当たり量×いくつ分)のうち、全体の数と一当たり量が分かっていて「いくつ分」を求めるものです。かけ算の逆算としてのわり算の考え方につながる内容ですが、わり算には、もうひとつ「等分除」というものがあります。これは、かけ算で言えば、「一当たり量」を求める問題で、等分の課題です。

このように、一対多対応はかけ算・わり算の基礎となる大事な考え方で、入試でもよく出されます。例えば次のような問題です。

1. 一対多対応
このポットは、黒いボタンを1回押すとカップ2杯分のお湯が出ます。白いボタンを1回押すとカップ3杯分のお湯が出ます。
  • 黒いボタンを2回押すと、カップ何杯分のお湯が出ますか。1番上のお部屋にその数だけおはじきを置いてください。
  • 白いボタンを2回と、黒いボタンを3回押すと、何倍分のお湯が出ますか。真ん中のお部屋にその数だけおはじきを置いてください。
  • 白いボタンが壊れています。白いボタン2回分のお湯を黒いボタンで出すには、黒いボタンを何回押せばよいですか。その数だけ1番下のお部屋におはじきを置いてください。

2. 一対多対応
  • 一輪車3台と自動車2台では、タイヤの数は全部でいくつですか。その数だけリンゴのお部屋にをかいてください。
  • 一輪車4台と自動車1台、自転車2台では、タイヤの数は全部でいくつですか。その数だけミカンのお部屋にをかいてください。
  • 一輪車2台と自動車3台、自転車1台では、タイヤの数は全部でいくつですか。その数だけバナナのお部屋にをかいてください。

3. 一対多対応
バスケットの中の10本のニンジンを3軒のお家に配ります。大きいウサギには2本、小さいウサギには1本ずつ配るお約束です。
  • 3軒のお家に配ると、10本あったニンジンは1本になりました。真ん中のお家に住んでいるウサギを下から選んで青いをつけてください。

4. 交換(一対多対応・包含除)
上のお部屋を見てください。
おはじき2個でリンゴを1個、おはじき3個でミカンを1個、おはじき4個でブドウを1個、買うことができます。
  • おはじきが10個あると、リンゴはいくつ買えますか。その数だけ上のお部屋にをかいてください。
  • おはじきが10個あると、ミカンはいくつ買えますか。その数だけ真ん中のお部屋にをかいてください。
  • リンゴを2個とブドウを2個買うには、おはじきはいくついりますか。その数だけ下のお部屋にをかいてください。

少し解説をしましょう。
1. の問題は、押すボタンによってポットから1回に出てくるお湯の量が違います。黒いボタンは1回で2杯分、白いボタンは1回で3杯分出ます。その約束に基づいて、ボタンを押すと何杯分出ますかと聞いた上で、最後の「白いボタンが壊れています。白いボタン2回分のお湯を黒いボタンで出すには、黒いボタンを何回押せばいいですか?」という問題は、かけ算とわり算の考え方が同時に求められる問題です。白いボタン2回で6杯分出ます。その6杯分を黒いボタンで出すとすれば何回押せばよいかということですから、6の中に2の塊がいくつあるかという問題で、包含除の考え方が必要です。こうした問題こそ、「考える力」が求められる問題です。2. の問題は、種類の違う乗り物のタイヤの数を合わせる問題です。3. の問題は、ニンジンの配り方からその家に住んでいる大きいウサギと小さいウサギの数を考える「逆思考」の問題です。
4. の問題は、一対多対応の応用問題として最近よく出題される「交換」の問題です。おはじきをお金と考えれば分かりやすくなりますが、おはじきの数から買えるものの数を考える問題と、買ったものからおはじきの数を考える問題です。「置き換え」を伴う交換の問題もありますが、基礎段階としては、基本的な今回のような問題がよくできるようにしておいてください。交換の問題は、まだ先の課題でかまいませんが、先日学校別対策クラスで一番基本となる問題をやってみました。まだ無理だろうなと思いながら、子どもたちは現段階でどんな風に考えるのだろうかと、子どもの思考法を見たかったのです。問題は以下の通りです。

・リンゴ1個はミカン2個と換えてもらえる
・ミカン1個はイチゴ3個と換えてもらえる
という約束です

子どもたちを果物屋さん役にして、私が買いに行くという設定です。
「すいません。りんご2個持ってきたのですが、みかんに換えてもらえますか。」
すると子どもたちから「駄目ですよ」「いいですよ」の返事が返ってきます。
「どうして駄目なの?」「だって約束していないから・・・」
すると他の子が「できるよ」というので、「じゃあ何個と換えてもらえますか?」
と全員に聞き返します。すると、3個という子がほとんどで、4個という子はごく少数でした。私は「3個」と答えた子に、「どうして?」とたずねます。
すると、「だって、りんごが1個増えたからみかんも1個増やすの」という子と
「みかんはりんごより1個多くもらえるのだから、りんごが2個ならみかんは3個」
と答えてくれる子がいます。子どもらしい見方で、まだまだ交換ということの意味が十分わからないからだと思います。そうした中で、「だってりんご1個はみかん2個だから、りんごが1個増えたらみかんは2個増えるの」と答えられる子が出てきます。それを聴いたほかの子どもたちもうなずいて、じゃありんご3個だったらどう?と聞くと、ほとんどの子が6個と答えてくれました。
このように入試問題は発展していきますので、まず「1あたり2」という考え方がしっかり身につくように練習してください。

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