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週刊こぐま通信
「室長のコラム」

四方からの観察

第665号 2019年3月15日(金)
こぐま会代表  久野 泰可

 「ステップ4」の2回目は、位置表象領域の「四方からの観察」の学習を行いました。あるものを4つの方向から見た場合の見え方を、その場に行かないで推理するという課題です。視点を変えてものを見ることができるかという典型的な課題で、ピアジェの実験では、大きさの違う3つの山の見え方を問いかけています。3つのものの見え方を考える場合、左右関係・前後関係が同時に問われますが、やはりポイントは左右関係の理解です。向かい合ったお友だちの右手が自分とは逆になるという学習を「左右関係の理解」で行いましたが、その点の理解が重要です。1時間半の授業は以下のような内容で行いました。

step4-2 位置表象「四方からの観察(1)」
1つのものが場所を変えて見ると違って見えることを経験する
(1) ヤカンの写生
  1. 真ん中に置かれたヤカンを子どもたちが4方向から観察する。自分の座っているところからヤカンがどう見えるか、見えた通りに写生する。
  2. 子どもたちの作品をもとに、どこから見た絵かを話しあう。
(2) 場所探し
  1. 4方向から見たヤカンの絵カードのうち、教師が指定した1枚を持ち、どの場所から見たヤカンなのかを考えてその椅子に座る。
  2. 教師の座った場所からヤカンがどのように見えるかを考えて、4方向から見たヤカンの絵カードから該当するものを選ぶ。
  3. 反対側から見たらクマのぬいぐるみがどのように見えるかを考えて、4方向から見たぬいぐるみの絵カードから該当するものを選ぶ。同じように、じょうろや花びんにさした花などでも練習する。
(3) ペーパートレーニング

最初に、場所が違うと違って見えるということを実感してもらうために、12名の子どもたちを4つのグループに分け、ヤカンが置いてある机を四方から囲み、「このヤカンを見えたとおりに描いてください」と指示します。見えたとおりに描くという写生の方法は、幼児では難しい面もありますが、年長になるころには少しずつできるようになりますので、この方法でやってみました。横から見た子は、ヤカンの持つところ・お湯が出る口・蓋のすべてが見えますので問題ありませんが、前や後ろから見た子は、「見えたとおりに描く」ことは相当難しい課題になりますが、子どもなりに工夫して表現できていました。


全員が描き終わった後、子どもたちの描いた絵を黒板に貼り、「これから展覧会をします」と言って注目させます。子どもたちの描いた作品を一つ一つ評価しながら、最後に「同じヤカンを描いたのに、どうしてこんなに違ってしまったの?誰か間違えていませんか?」とやや挑戦的に問いかけると、「それでいい」「誰も間違えていない」「座った場所が違うから違って見える」などと口々に言い始めます。これが大事なのです。「座る場所が違えば、違って見える」ことが、この課題の最初の認識ですから、ここがふらついていたら何も始まりません。本来ならば、1人の子が4つの方向すべてを描くのがよいので、保護者の皆さまにはそれを家庭学習の課題としてお勧めしました。

場所が違えば同じものでも違って見えることを確認した後、理解を定着させるために、少しゲーム化して行いました。4枚のヤカンカードを1人ずつ持たせます。ヤカンの載った机とそれを囲んでおかれた4色の椅子を、向かい合う形で2つの方向から見ながら、
「1番のカードのように見えるためには、どの椅子に座ればいいですか?」「3番はどうですか?」といったように、どの椅子に座れば自分が見ている絵カードと同じように見えるのかを、その場に行かないで考えさせます。それを何回か繰り返した後、「今度は先生が椅子の周りを行進するので、4番の絵カードのように見える椅子の後ろに来たら「ストップ」をかけてね」と言って歩き出します。子どもたちは、「ストップ」をだれよりも早くかけたいと、一生懸命考えます。ここが大事なポイントです。主体的に学習するためには学習の動機付けが必要で、ゲーム化はその一つの方法です。

次に、両サイドの子どもたちとは違って見える場所に私が座り、机の上のヤカンの位置を変えながら、「先生のところからは、どのように見えますか?そのカードを取ってください」と促します。この時、自分のところから見たカードを取ってしまうことがよくありますが、その際は間違えたカードを持って来てもらい、実際に見せて修正させるようにします。こうしたことを何回か繰り返すうちに、子ども自身は動かなくても私のところに来たつもりになって考えはじめ、次第に正確にカードを取れるようになってきます。

ヤカンの学習が終わったら、今度は素材を変えて、反対からの見え方を中心に学習します。「四方からの観察」は、反対からの見え方が学習のポイントになります。そのために、子どもと私が向き合った状態で、机の上にクマのぬいぐるみ、じょうろ、花瓶に入った花などを置いて見せ、最初は「みんなから見たらどう見えますか?」、次に「先生から見たらどう見えますか?」と質問を変え、ヤカンの時と同じように4枚の絵カードの中から正しいカードを選ばせました。今度は自分からの見え方を聞かずに、最初から「先生から見たらどう見えますか?」と質問します。自分からの見え方を聞かれた後に先生(反対側)からの見え方を聞かれた場合は間違いなくできても、最初から反対からの見え方を問いかけると、やはり自分から見えるカードをとってしまうことも少なくありません。反対からの見え方を最初から問われると、問題が難しくなるということです。

このような学習をした後、最後にペーパーでのトレーニングを行います。実際の場面で経験を積むと、ペーパーに描かれた場面の意味がよく分かり、どんな聞かれ方をしても十分対応できるようになっていきます。事物経験を持たずに、最初からペーパーで行うことがないよう気を付けてください。

では、実際の入試ではどのような問題となって出題されているのでしょうか。問題の難易度を考えて入試問題を整理すると、次のように分析できます。

  1. 使う素材が具体物かつみ木か
  2. 選択肢から選ぶのか、自分で描いて表すか
  3. 選択肢から選ぶ場合、4方向すべてを問うか、そのうちの一つを聞くか
  4. 見るものの数が1つか2つか3つか・・・

このように、出題のされ方によっても難易度が変わってきますので、十分対応できるようにいろいろな問題にあたってください。3つほど典型的な問題をご紹介します。

四方からの観察 (1)
  • 煙突のある家と木をまわりから動物たちが見ています。イヌから見たらどう見えますか。右から選んでにをつけてください。また、ネコから見るとどう見えますか。×をつけてください。

四方からの観察 (2)
  • 真ん中にあるつみ木をまわりから動物たちが見ています。ウサギとブタから見るとどのように見えますか。それぞれ下から選んでをつけてください。

四方からの観察 (3)
動物たちがまわりから印のかかれたお部屋を見ています。それぞれからはどのように見えるでしょうか。考えてください。
  • 真ん中の星1つの問題を見てください。これはどの動物から見たものですか。それぞれ下から選んでをつけてください。
  • 星2つの問題を見てください。ネコからお部屋を見ると、中の印はどう見えますか。マスの中に形をかいてください。

少し解説しましょう。
(1)は、具体物(といっても風景)の見え方を聞いています。家と木と煙突などの見え方を、それぞれの動物のいる場所から考える典型的な問題です。(2)は、最近はやりのつみ木の見え方の問題です。選択肢が平面的に描かれており、奥行きなどが表現されていないため、やや難しくなります。(3)は、方眼上に描かれた形の見え方を、それぞれの動物の立場になって考えられるかどうかが問われています。見え方を提示されてそのように見える動物を探す問題や、その逆に見え方を自分で記す問題などがあって、工夫されたいい問題だと思います。

空間認識に関する問題は、最近よく入試でも出されていますが、その中でもこの「四方からの観察」が一番よく出されます。左右関係の理解が一番よく問われる問題だからでしょうか。

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