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週刊こぐま通信
「室長のコラム」

教材作りに込めた想い

第632号 2018年7月6日(金)
こぐま会代表  久野 泰可

 書店でこぐまオリジナル教材の販売を開始してから、もう24年が経ちます。渋谷の大盛堂書店で最初に販売していただいて以降、現在では全国210の書店で扱っていただいています。取次店を通さないで直接書店と取引するやり方は、その当時は珍しい取引方法のようで、一時話題になりました。今でも主流は、取次店を通した販売ですが、私たちのように直接書店と取引をして、本の販売をしているケースも多いと聞きます。野菜や果物の産地直送のようなものです。また最近ではネット販売も盛んになりましたが、そのせいで「本屋」に足を運ぶ人たちが少なくなっているのが、本屋さんの悩みのようです。学参を積極的に前面に押し出し、親子連れの集客を図ろうとする本屋も目立ってきています。郊外に出店する大型書店からは、本以外の教具なども販売したいという依頼も多く、生き残りをかけた工夫をしているようです。


こぐま会のオリジナル教材は、具体物・カード教材・ペーパー教材に大別されます。その中にはもちろん受験対応の問題集もたくさんありますが、受験に関係ない「幼児期の基礎教育」としての教材が多数を占めています。本屋で本以外のものを売ることは今では珍しくありませんが、30年以上前は、問題集以外の教具やカード教材を販売するのにかなり高いハードルがありました。しかし、私たちは教具・カード・ペーパー教材をセットで使うことで意味のあるものとして、もっと言えば全体として「KUNOメソッド」を伝えるためには、どうしても紙以外の教具を置いてもらう必要がありました。それを学参担当の方にご理解いただき、本や問題集以外のものも最初から棚に並べさせていただきました。そのことが結果的に、教育に対する考え方を伝えるには一番良い方法だったようです。この「こぐまオリジナル教材」は、日本以外でも販売され、特に一人っ子政策が解除され、ベビーブームの感がある中国で大変注目を集めています。10社以上が海賊版を堂々とネットで販売している始末です。東アジア・東南アジアの国々でこの「こぐまオリジナル教材」を使った教室運営や幼稚園の正課での導入が進んでおり、韓国では幼稚園を通じ、12,000人近くの幼児が、このオリジナル教材で学習しています。いま幼児教育に関心の高まっている日本でも、入試問題を作成する私立小学校の先生方に「こぐまオリジナル教材」が幼児期の基礎学習にとって一番優れた教材として評価していただき、支持されています。特に「ひとりでとっくん365日」は、小学校受験を目指す皆さまの「教科書」代わりになっています。高い評価をいただいている「こぐまオリジナル教材」を作成するに当たって、われわれが一貫して守ってきた教材作りの原則があります。

  1. 教材の具体的中身を考える人間は、現場の指導を行う者であること
  2. 教材を実際に作る専門スタッフ(多くの場合美術系大学出身者)は、必ず私の授業の現場にサブ教師として入って1年間の研修を積み、子どもの取り組み方や考え方を肌で感じ取る
  3. 作った教具・教材は、販売する前に必ず教室の現場で使い、検証し、修正する
  4. 一つ一つの教具やカード教材・ペーパー教材には、すべて指導書を付けて、何を学ぶのか、どこで子どもは躓くのか、どう指導したらいいのかを伝える
  5. 小学校入試に関する問題集については、可能な限り実際に出された問題を分析し、そこで求められている能力をどう身につけるかを判断して問題を作る

このように私たちは、可能な限り子どものいる現場での教具・教材作りを目指してきました。幼児教育の専門家といわれる大学の教師が作った教材ではありません。問題集作りの編集者がよくやるような他社の製品を分析し、それをまねて作った教材ではありません。すべて子どものいる現場で考え、検証し、作り上げてきたオリジナルな教材です。その証拠に、どの問題集にも詳しい解説をつけ、「何のために学ぶのか」「どこで子どもが躓くのか」「どのように学んだらよいのか」を解説しています。常に教室での指導と連動させて指導書を作成してきました。このことは、他社の教材作りと一番大きな違いであり、われわれの教材作りの原点です。ベストセラーである「ひとりでとっくん365日」に付いている親向けの指導書が、この問題集が支持される最大の理由です。


これまで「知育」を敬遠してきた幼稚園や保育園で、この教材を使う動きが目立ってきました。小学校とのつながりを考えた教育活動が本格的に求められる2020年に向けて、各園での検討が始まり、現在アフタースクールや正課で導入する要請がたくさん来ています。また、こぐまオリジナル教材を理論的に支える「KUNOメソッド」の考え方を他社に提供し、新しい教材作りが始まっています。幻冬舎からは「100てんキッズ」シリーズが刊行され、子どもたちに人気のあるサンリオの「ハローキティ」を使った「ハローキティ・ゼミ」の通信教育にも使われています。昨年から販売が開始された「ひとりでとっくん365日」のタブレット版である「ひとりでがんばりマスター!」も大勢の子どもたちに使っていただいており、アニメを使った「親子でがんばりマスター」も来年4月から販売される予定です。また、高齢者認知症対策のための教材作りにもKUNOメソッドを提供し、今病院併設の介護施設において、実際の授業を積み重ねながら新しい教材作りが始まっています。

誕生以降、人間の認識能力はどのように育っていくか・・・それを子どものいる現場で考え続け完成させてきた「KUNOメソッド」の内容と方法が、さまざまなところで使われていくという事実は、大変興味のあることです。こうした教材作りの手法が、オリジナル教材として他社製品との差別化につながっているのだと思います。こぐまオリジナル教材を通して、日本のみならず海外の幼児教育の専門家と交流することができ、またそれがビジネスにもつながっています。出会いをもたらしてくれたその背景には、私たちの幼児教育に対する考え方が、教具・教材を通して伝わったからだと思います。この流れが加速され、日本においても幼児教育の改革につながっていくことを願っています。


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