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週刊こぐま通信
「室長のコラム」

来年秋の受験を目指す方へのメッセージ

第631号 2018年6月29日(金)
こぐま会代表  久野 泰可

 来年秋の小学校受験を目指す年中児の保護者さまを対象とした「合格のための室長特別セミナー」が、今年も始まりました。11月までに全5回を予定していますが、今回はその1回目として「受験で必要な「考える力」10の課題」と題したセミナーを行いました。定員は40名でしたが、その枠に対して倍近い参加希望があり、物理的な事情とはいえやむなくお断りせざるをえない方もたくさんいらっしゃいました。今回は、このセミナーと同時進行で「子どもの今の学力」をチェックするテストも行いました。その結果をお一人ずつ返却し、今何が問題か、今後の家庭学習の課題は何かをお伝えする予定で、すでに面談も始まっています。

毎年1回目は、どんな考え方で受験対策をすれば良いのかといったテーマでお話ししてきましたが、今回はできるだけ「具体的に」お伝えしたいということと、ペーパートレーニングだけの学習ではなぜ今の入試に適応できないのかをお伝えしたかったために、「考える力10の課題」と題したテーマになりました。

ペーパー主義のトレーニングは、そのペーパーで全問正解することを目標とします。ですから、間違えたら解き方を教えこみ、解決させます。自分で考え、答えを導き出すといった時間的ゆとりもありません。そのペーパーを通してどんな考え方を身につけるかなど振り向きもしません。ともかくそのペーパーができることが目的ですから・・・だからこそ、応用も利かないその場しのぎの解き方を教え込むのです。しかし、冷静に考えてみてください。同じ問題など入試では1問も出ません。同じ考え方を求める問題は出題されますが、全く同じ問題は出ません。学校側も、解き方を教え込んでできてしまう問題を出すことを極端に嫌い、毎年多くの時間を割いてオリジナルな問題づくりに力を注いでいます。

今年の5月3日に行ったセミナーで、ある学校の教頭先生がお話しされたように、今の入試で大事なことは「聴く力」「考える力」「作業する力」の3つです。その中の「考える力」とは一体何を指すのでしょうか。私は、45年間の受験指導の中で、何千枚という入試問題を分析してきました。その結果、そこで求められている重要な考え方を10の柱にまとめ、それをしっかり身につければ、初めての問題にも対処できると考えています。つまり、日々の学習では量の問題があり、空間認識の問題があり、数があり、図形があり、言語があり、推理があり・・・とさまざまな領域がありますが、それは極めて便宜的なもので、そうした領域を貫く大事な観点があるはずです。それを身につけることが目的であるならば、今目の前にあるペーパーに正解することだけが目的なのではなく、その1枚のペーパーを解くために必要な考える力を身につけることが大事なのです。そう考えれば、間違えたときこそ学びの最大のチャンスなのです。できたら、できなかったら×をつけ、間違えたところは家でお母さんと練習してきなさい・・・の指導では駄目なのです。なぜ間違えたのか、その間違いにこだわり、そこから解決に向けた試行錯誤が始まれば、その過程で確実に考える力は身につきます。その考える力を支える10の課題を明確にすることによって、ペーパーだけでなく、遊びや生活そのものの中で、育てなくてはならない課題がたくさん見えてくるのです。今回初めてこのテーマでセミナーを行いましたが、その意図は、ペーパーを毎日何十枚とやらなければならないと考え、プレッシャーを感じているお母さま方に、ペーパーだけが入試に向けた勉強ではないということをお伝えしたかったからにほかなりません。

ではその10の課題とは何か。KUNOメソッドの真髄でもあるし、同業者にコピーされる危険がありますので、ここに詳細は書けませんが(事実、こぐま会の問題集や教材は多くの教室・企業でコピーし使われ、相当の知的財産の侵害を受けています)、この10の課題を専門家の方々に提案し、そこで深い議論をしてから、いずれ公表することにしたいと思います。もしこの方針が正しく、また具体的な内容が伴っていけば、今の領域別指導を超えた、新しい観点でのカリキュラムづくりができるはずです。また、2歳から6歳までの年齢を貫く太い柱が明確になるのではないかと期待しています。

今回10の課題を提示したのは、もうひとつ大事な理由があります。以前、私立小学校の校長や入試担当の先生方が大勢集まる会で、私が「今のようなペーパー主義の受験対策で合格しても、入学してから学校の先生が困るのではないか。自分で考える習慣がない子どもたちに、考える力を求めても無理です。だから今幼児教室でどんな指導が行われているか一度みていただきたい」といった発言をさせていただいたことを記憶しています。その後の懇親会の席で、何人かの先生から「全くそのとおりで困っています」といったお話を伺いました。今現実はどうなっているのでしょうか。何人かの私立小学校の先生から、今私立小学校の低学年の学力が相当落ちているという話を聞きました。受験の取り組み方だけの問題ではないと思いますが、私は指導の現場にいてやはりペーパーだけのトレーニングを強要され、自分で考えることをしない子どもたちの行く末は、容易に想像できます。子どもを送り出す塾側と迎える学校側がこの問題に真剣に取り組まないと、合格はしたけれどその後伸びない子どもを大量に生み出す結果になりかねません。多くの学校で、入試に関わるさまざまな改革を実行していますが、この問題に対しては有効な対策が何もなされていないのが現状です。

話は少し飛びますが、高校・大学入試に関し、今私立学校に深刻な事態が進行しています。公立校の復活です。受験結果だけが教育の成果ではありませんが、私立中・高等学校の学力が低下すれば、当然小学校の学力が問題視されるはずです。高学年で起こる問題の原因は、すでに低学年から始まっています。また、小学校低学年で起こる問題は、幼児教育の課題です。今のようなペーパー主義の教育が続く限り、私立小学校の低学年の学力は、深刻な状況に陥っていくに違いありません。幼児期の基礎教育にとって入学試験という最大の動機付けがあるならば、まともな教育でその目標に向かっていってほしいと願っています。

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