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週刊こぐま通信
「室長のコラム」

幼児教育に脳科学の成果を

第593号 2017年9月22日(金)
こぐま会代表  久野 泰可

 9月16日(土)の夕方、公益社団法人 子どもの発達科学研究所 主席研究員の和久田学氏をお招きし、「学びと脳の発達」というテーマでお話をしていただきました。職員研修の一環として行ったものですが、私の知り合いの学校の先生方や、KUNOメソッドを提供させていただいている他企業の皆さまにもお集まりいただき、2時間の講義を受けました。和久田氏は、特別支援学校教諭として20年以上現場に勤め、その後、科学的根拠のある支援方法や発達障がい、問題行動に関する研究をするために連合大学院で学び、小児発達学の博士学位を取得された方です。アメリカを中心とした研究成果に基づき、「子育てを科学でサポートする」ために多くの分野で活躍され、エビデンスのあるカリキュラムや教材を作らないといけないと主張されています。

私はある研究会で和久田氏にお会いし、その後代官山にある「KUNOメソッド ライブラリー」でいろいろ意見交換をさせていただきました。その際、こぐま会で作成した多くの教具・教材に興味を持たれ、質の高い教具・教材が一番必要な障がい者教育の現場で、これらの教材は使えるのではないかと評価していただきました。そのために、これから共同で実証研究をしていこうということになりました。今回のセミナーは、その話の流れの中で、日々幼児に接し指導をしている現場の先生にぜひ話を聞いてほしいという氏のお考えもあって実現したものです。

幼児教育に脳科学の成果を取り入れなければ・・・と、ずっと考えてきた私ですが、どうもつかみどころのない「脳」の話は、避けて通ってきたように感じます。しかし、和久田氏のお話を伺って、やはり幼児教育の現場にいる人間は、こうした研究の成果を取り入れて、日々のカリキュラムや教具・教材を作り、また、授業方法も工夫していかなければ・・・という想いを強く持ちました。ジェームズ・ヘックマン氏の主張の根拠となる考え方やOECDの保育政策にも、アメリカの研究成果が深くかかわっており、特に「ペリー幼児教育計画」による、40年以上の追跡調査の結果を見ると、なるほど「幼児期の学びは一生を左右する」という主張が理解でき、また非認知スキルの大切さも十分理解できます。そして和久田氏のお話を伺い、これまでこぐま会で行ってきた「KUNOメソッド」が、その内容と方法において間違っていなかったということを確信しました。今後細かな点での修正作業は必要になってきますが、これまで実践してきた「教科前基礎教育」 「事物教育」 「対話教育」の3つの指導理念に基づく指導を、より深めていかなくてはなりません。特に、言語発達の大切さを強調され、言語発達を促すことが脳機能(実行機能)の発達を促すことと等価であるというお話から、対話教育を実践し、さまざまな領域で概念化を大事にしてきたKUNOメソッドが大変意味のある教育活動であるということを改めて思いました。しかも、人は「言語」で感情のコントロールもでき、inner voiceによって情動をコントロールしているため、そのinner voiceを育てる必要があるというお話は、これからの教育活動に生かしていく大変貴重なアドバイスであったと思います。

また、「授業は複合的になされるべきだ」というお話は、われわれがこれまで主張してきた「機械的な教え込みのトレーニングをやっても意味がない」ということとまさしく同じことであり、次のようにもお話しされていました。

「・子どもは機械ではないので、トレーニングのように1つのことばかりをやるのは意味がない。記憶にしろ実行機能にしろ、結局は応用できるようにしなければならない。
・授業は、授業者と子ども、もしくは子ども同士の相互作用を用いている。よって授業者の働きかけによって、同じ教材でも様々な目標で指導が可能になる」 (和久田氏レジュメより)

ペーパー学習での教え込みがいかに意味のないことか、こうした専門家の方のお話を伺うと、これまでのこぐま会の授業の取り組みに間違いはなかったということが分かります。今回の講義を通して、学びにかかわる脳機能の発達をもう少し専門的に学べば、これまで積み上げてきた実践により深い科学的根拠を持たせることができるはずだと思います。「教育に科学を」という想いは、私も大学を出るときから持ち続けてきたことであり、そのために、発達心理学・認識心理学の成果を取り入れて「KUNOメソッド」を構築してきましたが、今後「脳科学」などの成果をどれだけ取り入れることができるか・・・また新しい挑戦が始まります。

「全ての子どもたちの未来のために、一緒に頑張りましょう!」と最後に和久田氏が言われたことを我がものとし、体力の許す限り現場で幼児と向き合い続けることが、私に与えられた使命だと思っています。

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