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週刊こぐま通信
「室長のコラム」

小学校とのつながりを意識した幼児教育を

第592号 2017年9月15日(金)
こぐま会代表  久野 泰可

 2017年3月に発表された新しい「幼稚園指導要領」には、小学校で行う学習とのつながりを意識した教育を行うように、次のように述べられています。以下抜粋です。

第1 指導計画の作成に当たっての留意事項

1 一般的な留意事項
(9)幼稚園においては,幼稚園教育が,小学校以降の生活や学習の基盤の育成につながることに配慮し,幼児期にふさわしい生活を通して,創造的な思考や主体的な生活態度などの基礎を培うようにすること。
2 特に留意する事項
(5)幼稚園教育と小学校教育との円滑な接続のため,幼児と児童の交流の機会を設けたり,小学校の教師との意見交換や合同の研究の機会を設けたりするなど,連携を図るようにすること。
学習指導要領「生きる力」 新学習指導要領(平成29年3月公示)より抜粋

「幼小の円滑な接続」という具体的内容に関しては、5領域のうち「環境」「言葉」が、私たちが幼児期の基礎教育として重視している「数」「図形」「言語」の学習を扱っているのですが、その内容は次のように表現されています。

環境

周囲の様々な環境に好奇心や探究心をもってかかわり,それらを生活に取り入れていこうとする力を養う。
1 ねらい
(1)身近な環境に親しみ,自然と触れ合う中で様々な事象に興味や関心をもつ。
(2)身近な環境に自分からかかわり,発見を楽しんだり,考えたりし,それを生活に取り入れようとする。
(3)身近な事象を見たり,考えたり,扱ったりする中で,物の性質や数量,文字などに対する感覚を豊かにする。
2 内容
(1)自然に触れて生活し,その大きさ,美しさ,不思議さなどに気付く。
(2)生活の中で,様々な物に触れ,その性質や仕組みに興味や関心をもつ。
(3)季節により自然や人間の生活に変化のあることに気付く。
(4)自然などの身近な事象に関心をもち,取り入れて遊ぶ。
(5)身近な動植物に親しみをもって接し,生命の尊さに気付き,いたわったり,大切にしたりする。
(6)身近な物を大切にする。
(7)身近な物や遊具に興味をもってかかわり,考えたり,試したりして工夫して遊ぶ。
(8)日常生活の中で数量や図形などに関心をもつ。
(9)日常生活の中で簡単な標識や文字などに関心をもつ。
(10)生活に関係の深い情報や施設などに興味や関心をもつ。
(11)幼稚園内外の行事において国旗に親しむ。

言葉

経験したことや考えたことなどを自分なりの言葉で表現し,相手の話す言葉を聞こうとする意欲や態度を育て,言葉に対する感覚や言葉で表現する力を養う。
1 ねらい
(1)自分の気持ちを言葉で表現する楽しさを味わう。
(2)人の言葉や話などをよく聞き,自分の経験したことや考えたことを話し,伝え合う喜びを味わう。
(3)日常生活に必要な言葉が分かるようになるとともに,絵本や物語などに親しみ,先生や友達と心を通わせる。
2 内容
(1)先生や友達の言葉や話に興味や関心をもち,親しみをもって聞いたり,話したりする。
(2)したり,見たり,聞いたり,感じたり,考えたりなどしたことを自分なりに言葉で表現する。
(3)したいこと,してほしいことを言葉で表現したり,分からないことを尋ねたりする。
(4)人の話を注意して聞き,相手に分かるように話す。
(5)生活の中で必要な言葉が分かり,使う。
(6)親しみをもって日常のあいさつをする。
(7)生活の中で言葉の楽しさや美しさに気付く。
(8)いろいろな体験を通じてイメージや言葉を豊かにする。
(9)絵本や物語などに親しみ,興味をもって聞き,想像をする楽しさを味わう。
(10)日常生活の中で,文字などで伝える楽しさを味わう。
学習指導要領「生きる力」 新学習指導要領(平成29年3月公示)より抜粋

関心を持つ・親しむ・楽しさを味わう・・・いかにも幼稚園教育要領らしい表現ですが、これでは現場で何をどう指導したらよいか明確ではありません。前向きに考えれば、「どうぞ現場でお考えください」ということでしょうが、小学校の指導要領と比べると到達目標が曖昧な点が、日本の幼児教育における知育の限界でしょうか。

ここ数年、幼小連携とか幼小接続とか言われ、多くの自治体で幼稚園の生徒が小学校に行って遊んだり、小学校の生徒が幼稚園に来て園児たちの遊びの相手をしたり、先生の交流を行ったりしてきたようです。私は、以前から「幼小一貫」を主張し、そうした外面的な連携ではなく、学習内容における一貫性を持たせないとだめだと言い続けてきました。やっとそのような方向に進んでいくのではないかと期待しつつ、しかし何をどう学ぶのかといった具体的なプログラムがない現状で、ひょっとしたら「読み・書き・計算」をやればよいといった、とんでもない主張が出てくることを懸念しています。

意図的な教育を「お受験のため」と振り向きもしなかったつけが、いま回ってきたのだと思います。遊び保育の意味を十分踏まえながら、小学校の学習内容につながる系統性のある教育活動をしなければなりません。現在の教員養成のあり方から変えていかなければならないはずなのに、そこに手をつけないで小学校とのつながりを訴えても、現場が何をどうすればわからないのは当然といえるでしょう。

こぐま会が実践してきた「KUNOメソッド」を、お受験のためと排除してきた多くの教育関係者には、今一度KUNOメソッドのプログラムを見ていただきたいと思います。発達心理学の成果を踏まえ、また小学校で学ぶ教科学習へのつながりを意識し、長年現場で実践してきたメソッドです。教育の意図に合わせてオリジナルの教材を作り、それを全国の皆さまにお使いいただけるよう、約200書店に置かせてもらっています。

先日、大阪市私立幼稚園連合会の地域別研修会でモデル授業を行ってきましたが、それをご覧いただいた園長先生方の反応からは、私が予想したとおり、新しい教育の形として受け止めていだだけたのではと感じています。現在も、いくつかの幼稚園から講演会や体験授業の要請があり、現場の先生方に具体的に伝えられるように出向いていくつもりです。

ただ、同じカリキュラムや同じ教材を使っても、指導する先生によってまったく違う授業になってしまうのは、教え込みの教育が成り立たない、幼児教育の宿命と言えるのかもしれません。それは、子どもとのやり取りの中で授業が進んでいくためです。さまざまに反応する子どもたちの様子を受け止めながら、授業の意図を浸透させていかなければならないところが、大変難しいところです。経験によって少しは解決するはずですが、授業の意図と子どもの発達状況をしっかり理解しておかないと適切な対応はできません。その意味で、幼児教育を担う人材の育成が大変重要になってきます。私は当事者でないため詳しくは分かりませんが、今の教員養成の実態は、少なくとも幼稚園の現場に伺って実際に授業を行うところを見ていただき、そのあとの意見交換の場などでの様子を見る限り、毎日の子どもの世話で精一杯で、意図的な教育どころではないというのが本音のようです。
30人前後の子どもたちを、1人ないし2人で担当する今の物理的条件からしても、とても悲観的な思いになってしまうのが現状です。しかし、それでも今の条件の中でできることはたくさんあるはずです。子どもと接する先生たちの意識しだいで、可能になるところはたくさんあると思います。

小学校とのつながりを意識した教育活動がどのようなものになっていくのか、見守っていきたいと思いますが、これこそ現場の先生方が動かないと実現できないことであることは誰が見ても明らかです。文部科学省の官僚や大学の教師の具体的でない、無責任な発言に惑わされないで、毎日子どもと接する教師が変革の意思を持たないと、現場は何も変わらないまま進んでいってしまう危険は常に付きまとっています。

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