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週刊こぐま通信
「室長のコラム」

入試が変わる(5) 行動観察の役割が以前より重視されている

第486号 2015/6/12(Fri)
こぐま会代表  久野 泰可

 現在の入試方法は学校によって少しずつ違いますが、「学力試験」・「行動観察」・「三者面談」の3点セットで行うのが基本です。学力試験のみの上級学校とは違って、行動観察や面接があるのが小学校入試の特徴です。では、この3つの柱のうち何を重視しているのでしょうか。それは、外部の我々には解りませんが、合否判定の結果を見る限り、学力試験の結果だけで決まっていることはないはずです。一定程度の学力があることが分かったら、あとは「行動観察」・「面接」が最後の決め手になる・・・と考えるのが正しいと思います。

小学校受験独特の「行動観察」をどうとらえ、そのための対策をどうとるべきかは、いろいろ議論のあるところですが、そもそも学校側がなぜ行動観察を重視しているのか・・・その背景をしっかり捉えておく必要があります。それは、年長11月のペーパー試験の結果だけでは、将来の伸びる力を保証しないという考えが明確にあるからです。裏返せば、「楽しく遊べないような子は将来伸びない」という確信を持っているからです。子どもが学校生活を通して成長し、能力を伸ばしていくためには、今身につけている能力だけでなく、それをより一層開花していく原動力が必要です。その一つが、集団活動における人と人との関わり方やものごとに対する意欲・自己表現力であり、もう一つ大事なことは家庭のサポートということだと思います。面接で志望理由を聞かれ、学校の教育方針と家庭の方針がどう一致するのかを聞かれるのは、そのためです。学力試験では測れないそうした役割を担っている行動観察について、一番大きな誤解は、「行動観察は、お行儀のテストだ」と勘違いしている保護者が多いということです。行動観察は、大人にとって好ましい態度がとれるかどうかがポイントではありません。与えられた課題に対し、皆で相談して取り組み、時には助け合い協力し合ってものごとを解決していく・・・そうした態度が身についているかどうかを見ているのです。想定される場面を設定し、その時取る態度を徹底して教え込むことが、行動観察の対策だと考えるのは間違っています。そんなものを学校側が求めているはずはありません。その証拠に、徹底して「型」を教え込む対策を学校側が批判しています。

行動観察を実施する学校側は、身に付けた「型」ではなく、本来のその子らしさを見ようと、いろいろ工夫しています。訓練されてきた「型」を排除するために、一時期、どの学校も「自由遊び」を重視しました。訓練されてきた子どもたちが多かったため、その対抗措置として自由遊びを選んだのでしょう。どんなに訓練されてきても、楽しく遊ばせれば「素」のその子らしさを見ることができると考えたはずです。最近の行動観察を見ると、「自由遊び的要素」は残しながら、子どもたちがどう協力し合ってものごとを解決していくのかを見ようと、さまざまなテーマを設定しています。それがゲームであったり、制作であったり、劇遊びであったり・・・いろいろ工夫していますが、そうした過程で、ペーパー試験では見られない、自分たちで考え、判断し、行動に移す能力を見ようとしています。特に最近は、コミュニケーション能力を重視しています。ですから、「あれもいけない・これもいけない」と禁止事項を並べて訓練するのではなく、ものごとに積極的に関わり、相談し、自分も意見を言うけれども、他者の考えも理解してあげられるような経験をたくさん積むことが必要です。

大学入試まで含めた入学試験の在り方が、時代の要請によって変化してきているように、小学校受験における「行動観察」の役割も、時代によって変遷してきました。その時代の子どもたちに一番欠けているものがどれだけ身についているかを見ようとしてきました。今テーマになっているのは、自立した判断力・行動力とともに、ものごとに取り組む意欲がどれだけ身についているかということだと思います。その結果の表れが、「自己表現力」だと思います。子どもらしく元気に活動できる力こそ、将来の伸びる力の源泉になっていくと考えているはずです。変わりつつある入試の中で、行動観察の役割は、非常に大きくなっています。行動観察をお行儀のチェックと考え、「型」を教え込むことがその対策だと考えることがないよう、くれぐれも注意してください。

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