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週刊こぐま通信
「室長のコラム」

入試が変わる(4) 問題は進化する

第485号 2015/6/5(Fri)
こぐま会代表  久野 泰可

 最近の入試では、以前のように知識を問う問題ではなく、思考力を求めたり、与えられた条件を使い作業してものごとを判断する問題が増えています。また、こうした問題は、子どもたちの理解度を見ながら、その学校で翌年以降より難しい問題に発展したり、また、その問題が他校に波及してより磨きがかかり、問題が進化していく様子がよくわかります。そうした入試問題の進化の過程を分析すると、学校側が何を求め、その対策のためにこれからどんな学習をしていけばよいのかがわかります。また同時に今後出されるであろう問題も予想できます。例えば、2015年度の入試で出された、聖心女子学院初等科の「飛び石移動に関する問題」は、入試問題全体からみると次のような変遷がありました。

「飛び石移動(旅人算的発想)」

最初の問題は、目的地に着くまでに何回移動すればよいかという基礎的な問題でした。次の問題は、2人が階段の上と下から移動するとどこで出会うかを問う問題です。2人が同時に動かなければならない点が難しくなっています。2010年度の雙葉小学校の問題は、この「飛び石移動」に関する基本的な事項をすべて含んだ問題で、これこそ「旅人算」の考え方につながる典型的な問題です。そして、今回出された聖心の問題は、作業させることにより難易度を加えた、これも旅人算の典型的な形ですが、作業能力を見るという点ではより磨きがかかっています。それは2問目の、「バッタとカタツムリは、1回に1つずつ動くが、前にいるカタツムリは、1回進んだら1回お休み」という指示をしっかり守って作業できるかどうかということです。問題の難易度からすると、雙葉の問題の方が難しいと思いますが、作業能力・判断力を見るという意味では、聖心の今回の問題の方が、子どもたちにとってはより難しかったのではないかと思います。

このように、同じ学校で問題が進化する場合もあるし、他校で出される問題によって、この問題により磨きがかかるということもあり得ます。こうした入試問題の分析をしていくと、「シーソーのつりあい」「交換」「一音一文字」「対称図形」「回転図形」等にも、問題が進化していく過程がはっきり見られます。例えば、「一対多対応の応用(交換)」問題も、まさしくそのことが言えます。

「一対多対応の応用」

最初の雙葉の問題は、「葉っぱ」とドングリの関係ですから、一対多対応の応用です。次の雙葉の問題が、これまで出された交換問題の中では一番難しいと思います(詳細はこちらをご覧ください。「室長のコラム 第403号」)が、次に聖心で出された「絵本2冊と同じ値段のカバンを探す」という問題は、別の意味で難しいことがわかります。それは、
(1)「値段が同じ」ということが、子どもにとってはあまり経験がないためわかりにくい
(2)鉛筆2本と消しゴム4個が同じ値段という関係から、「鉛筆1本は、消しゴム2個と同じ値段」と置き換えができないと解けない

この2点が問題を難しくしています。

「飛び石移動の問題」と、「一対多対応の応用問題(交換)」がどのように難しくなってきたかをご紹介しましたが、小学校の入試問題は、各学校が刺激し合い、とても良い問題に洗練されてきています。このように考えてくると、「思考力」や「判断力」を問う良い問題は、小学校入試問題の中に存在しているということが言えます。入試は特別な教育だから、受験を目指さない子どもにとっては、意味がない・・・のではなく、幼児期の子どもたちの「考える力」を育てる良い問題が、入試問題の中にいっぱいあるのです。ですから、「今年はどんな素晴らしい問題が出されるのだろうか」・・・といつも期待をしながら入試を見守っていますし、そうした視点で、毎年の入試問題を分析してきました。時代の要請を受けて、これからも小学校の入試問題は進化していくと思います。この流れをつかまないまま、知能検査的な問題をどんなにたくさんトレーニングしても、これからの入試で求められる「考える力」は育ちません。

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