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週刊こぐま通信
「室長のコラム」

合格に向けた1年間の学習計画「合格カレンダー」

第215号 2009/9/25(Fri)
こぐま会代表  久野 泰可

 夏休みが終わり、毎年9月に入ると11月から始まる「ばらクラス」への入会希望者が増えてきます。こうしたことから、私たちも幼児期における基礎教育のあり方を伝えるセミナーや、実際に授業に参加して見学していただく「体験授業」を、この時期から増やしてきました。教室と家庭とが同じ考え方で教育に当たらなければ教育効果が望めないため、スタートの時点で信頼関係を築きあげておく必要があるからです。

先日、ゆりクラス(年中児クラス)の夏季講習会に参加していただいた方々を対象に、これから1年間の学習の進め方をお伝えするセミナーを「こぐまクラブ」にて行いました。夏の講習会で見られた子どもの学力の現状を具体的に伝えると共に、その現実を踏まえ、これから1年間どんな方針で学習すれば合格につながるかを、これまでの経験に基づきお伝えしました。

このセミナーを「合格に向けた1年間の学習計画『合格カレンダー』」と題したのは、私自身の長い指導経験に基づいたある種の想いがあるからです。それは、学習の手順や方法を間違えた「間違った受験対策」があまりにも横行し、その結果として子どもの伸びる芽が摘み取られていく現実をたくさん見聞きしてきたからです。しかも、それが家庭において行われる学習上の問題ならばともかく、専門性を売り物にしている個人塾や多くの教育機関で「受験指導」と称して行っている教育が、子どもの発達段階や物事を理解していく道筋をふまえない、間違った指導を行っているから深刻な問題なのです。

間違った指導の典型は、11月スタート時点から過去問をペーパーのみで解かせる訓練を行うことです。1年後の入試までに、しっかりとした考え方を育て、自分の力で入試問題を解けるようにすることが大事なのに、学習のスタート時から過去問を課題として与えたら、子どもが理解できないのは当然です。理解できない子どもに解き方を教え込み、パターン練習を繰り返すことによって身につけさせることが受験指導だと勘違いしている指導者があまりにも多いことを残念に思います。この業界に携わる教育者の質を向上させなければ、間違った指導による子どもへの影響が後年必ず現れると危惧しています。教科書もなく、入試情報も公開されず、うわさ話が先行しがちな環境にあって、受験を特殊な訓練だと考えている保護者がかなり大勢いるということも、こうした間違った受験指導を助長させる原因のひとつであることも事実です。

小学校受験の出題内容も、過去40年近くの間に大きく変化してきました。私がこの世界に飛び込んだ37年前は、受験問題のほとんどが「知能検査」の問題でした。その後、日本経済の高度成長に呼応し、小学校受験をする人たちが増えてきました。知能検査のパターン化された問題では差がつかないことがはっきりすると、学校側は小学校低学年の学習内容に絡めた問題をたくさんのペーパーを使って出題しました。多いところでは、20~30枚近いペーパーを使って問題を出した学校もありました。今考えれば笑い話になりますが、真剣にペーパーをめくる練習までしました。ペーパーをめくるのに時間がかかったのでは、時間内に高得点が取れないからです。そうした時代の対策は、ともかくたくさんのペーパーをこなすことでした。その結果何が起こったか。受験対策の厳しい指導に不適応を起こした子どもたちが、専門の先生方に相談に行き、その結果、臨床心理の専門家から多くの書物が出版され、「小学校入試」の準備教育が問題だと告発されたのです。そうした状況の中で、当然学校側は反省をせざるを得ず、ペーパー試験を少なくしたり、なくしたりして、具体物やカードを使った「個別テスト」が多くの学校で導入されたのです。しかし、個別テストの形式では大勢の受験生のテストをするには莫大な時間がかかります。年間の行事予定の中で、入試に振り分けられる日数がおのずから決まってくる現実を踏まえ、学力試験は厳選されたペーパー試験で行い、子どもの育ちや集団でのかかわりを行動観察でチェックし、家庭の考え方を面談で確認し、その総合点で合否を決める今のスタイルに変化してきたのです。こうした、入試問題の変遷過程をふまえれば、小学校入試イコールペーパートレーニングだと考え、学習のスタート時からペーパートレーニングを徹底することが、いかに時代遅れの入試対策かがお分かりいただけると思います。

私が「合格カレンダー」にこだわり、その言葉にこめた想いは

  1. 受験する学校の正確な入試情報を集める
  2. 1年間の学習計画をしっかり立てる。5月連休前までに基礎学力を固め、夏休みまでに応用力を含めたすべての内容を終了させる。その上で夏休みは難問、それ以降は入試の実際に合わせたトレーニングを積ませる
  3. 学習内容の系統性を重視し、指導の手順や教育方法を子どもの発達に合わせる
  4. 螺旋型カリキュラムによって、基礎から応用へと無理なく指導する
  5. 具体物に働きかける経験を重視し、決してペーパー学習を先行させない

こうした考え方のもとで、まともな幼児期の基礎教育を行えば、受験対策のみならず、将来の教科学習の基礎をしっかり身につけることができるはずです。ペーパー学習を先行させた過去問トレーニングだけでは、物事を考える力は決して身につきません。それは、今の時代の入試にそぐわないだけでなく、子どもの柔軟な思考力の芽を摘み取ってしまう結果にもなりかねません。「合格カレンダー」が、合格に向けて一歩一歩前進する為の指針でありたいと願っています。

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