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世界の子どもたちに「KUNOメソッド」の学びを
国内・海外からの実践報告

第3回 「KUNOメソッドを実践して気づいたこと」―ジンバブエ特別編―

2025年5月7日(水)
学習塾KOMABAシンガポール・ジャカルタ塾長 石川晋太郎
 2003年、私は首都から車で4時間ほど離れた、かつて金鉱で栄え、現在はさびれた村の小学校に赴任しました。
「あら、アフリカの村での生活なんて、なんだか大変そうね」
そんなふうに思われるかもしれませんが……その通り、たいへんでした。
何しろ、水道はあるのに水が出ない(雨が降るとジャバジャバ出ます!)。
電気は通っているのに、毎日停電する(とくに一番電気を使いたい夕方から夜9時ごろまで!)。
いっそ、最初から何もなければ諦めもつくのに……そんな生活でした。

ただ、人間というものは本当によくできていると気づかされます。
喜怒哀楽の振れ幅は見事にバランスが取れていて、しんどさの針がグググっとマイナスに触れた分だけ、幸せの針も同じだけグググっとプラスに触れるのです。
何気ないことが、もう嬉しくて嬉しくて。
ちょっとしたこと(たとえば水道から水が出るなど)で、思わずニッコニコになってしまう。そんな毎日でした。 考えてみると、日本人はこの振れ幅を小さく抑えようと、「微マイナス」と「微プラス」の小さな幅で生活しているのかもしれません。
果たして、どちらが幸せな社会なのでしょうか。
日本人よりもずっと苦しそうな生活を続けているのに、底抜けに明るい笑顔が飛び交うジンバブエ人たちと一緒にいると…考えさせられます。

さて、そんなかつて暮らした村の学校へ行き、KUNOメソッドを用いた授業をしてきました。20年以上前に実際に毎日教えていた教室で授業をするというのは、それだけで感無量でした。幸せの針が振り切れて、逆に不幸のメーターを蹴散らして一周してくるのではないか、と思うほどの、充実した時間でした。

……と、私個人の感傷はこのへんにして。

今回、久野先生をはじめ、こぐま会の皆さまから温かいご支援をいただき、たくさんの三角パズルをジンバブエに持ち込むことができました。
クラスの対象は、4歳から6歳くらいのEarly Childhood Development(以下ECD)の子どもたち。人数はなんと45人。多い(笑)!
実施した単元は、KUNOメソッドにおける年中・第4週「図形1」です。

こぐま会に通われている方、またはKUNOメソッドをご存じの方はおわかりかと思いますが、いきなりパズルを子どもたちに渡して課題を出すようなことはしません。
まずは図形の名前の確認から。これについては子どもたちもよく知っていて、年齢を問わず、全員が「Circle!」「Triangle!」「Square!」と元気いっぱい答えてくれます。
続いて、「まるいもの」「さんかくのもの」「しかくのもの」は何があるかな? と問いかけると、
「国旗の中の形!」(ジンバブエの国旗には三角や四角が使われています)
「とうもろこし!」(ジンバブエの主食です)
と、身近な生活と結びつけながら答えてくれました。

さあ、ここからがKUNOメソッドの真髄です。

「なるほど、みんながいろんな形を知っているのはよく分かりました。では、『まる』と『さんかく』のちがいって何だろう?」
……しーん。
誰も答えられません。
いや、私の英語が悪かったのかもしれません。そう思って、現地語に通訳してもらいました。
(ジンバブエには複数の民族と言語があり、英語は教育用言語として学びます。)
それでも、やはり誰も答えられません。

おそらく、そういう問いかけを受けた経験がなかったのだと思います。
しびれを切らした担任の先生が、「それは難しくて誰も答えられないわ」と言い、そして「こう答えるのよ」と子どもたちに説明してしまいました。

私が協力隊時代に教えていた頃も、学校では先生から生徒への一方通行な指導が多いと感じていました。
生徒同士で議論をしたり、生徒が先生に質問をしたりするような光景は、ほとんど見た記憶がありません。
「この形を『まる』と言います。分かりましたか?」
「はい!『まる』です!」
「この形を『さんかく』と言います。分かりましたか?」
「はい!『さんかく』です!」
――こんなやり取りで、日々の授業が進んでいるのだと思います。おそらく他の教科でも同様でしょう。

しかし、これは第1回でも触れたとおり、ジンバブエの社会そのものが教育にそう働きかけているのかもしれません。実際、子どもたちも「教えてもらうこと」に安心し、強くそれを求めているように感じます。
だからこそ、KUNOメソッドが大切にしている「なぜ、そう考えたのか?」という問いは、今のジンバブエの子どもたちにとって必要な視点だと強く感じます。
ジンバブエでは、もう何十年も続く出口の見えない混乱が、国民の生活に重くのしかかっています。
今回、20年ぶりに再会したジンバブエの方はこう語っていました。
「政府は変わる、変わるって言って、結局なにも変わらない。国民はもう疲れ果てています。」
さて、授業の続きです。
三角パズルを配布し、まずは2枚で形を構成させました。2枚で三角形や四角形を作るのは簡単なようで、意外と難しいもの。それでも何人かの子は上手にできました。
次に、4枚を使って複雑な形に挑戦。

……予想通り、ほとんどの子が苦戦しました。
でも、大切なのは「試行錯誤すること」です。
私がニコニコしながら教室を回っていると――
担任の先生が次々と子どもたちのパズルを手に取り、子どもたちの意思とは関係なく、正解の形を作り始めてしまいました。

後の振り返りミーティングで、その点について話をしました。
「考えさせること」が目的であること。
「たとえその場で正解にたどり着かなくても構わない」ということ。
そして、「自分の手で正解を見つけることが大切だ」ということ。
納得した様子の先生もいれば、「よく分からない」といった表情の先生もいました。
その後、他の分野の授業や指導方法についても意見交換を行い、かつて勤めていた学校をあとにしました。

まとめ
今回、久野先生とこぐま会の皆さまのご協力のおかげで、ジンバブエの幼児たちと先生方とKUNOメソッドを通じて、かけがえのない時間を共有することができました。
少し大げさかもしれませんが、私は途上国支援はKUNOメソッドを伝える過程に似ていると感じています。
先進国から来た私たちには、つい「答え」が見えてしまう。
「ここをこうしたらいいのに」
「なんでそんな非効率なことをするんだ」
「なぜそれが分からないのか」
……そうして「答え」を押しつけてしまう。
しかし、それがうまく伝わらないと、相手が理解できないことに苛立ち、やがて諦めてしまう。
あるいは、相手がその「答え」を受け入れたように見えても、実は本質を理解していなかったため、数年後にかえって問題が大きくなることもある――。

これ、幼児教育における先生と子どもの関係、または親と子どもの関係でも起こりうることではないしょうか?
私自身、これまでの支援活動の中でも教育現場での、同じような失敗を重ねてきてしまっている気がします。

今回の滞在で訪問した学校の教育現場が変わる、とはまったく思っていません。
本気でKUNOメソッドのカリキュラムを現地に根付かせるには、協力隊の活動のように数年単位で現場に張り付き、ようやく少しずつ周囲に伝えていけるものだと思います。
それでも、ジンバブエの未来を願って、「こういう考え方もあるよ」と、感情論ではなく教育という方法論を通して伝えること。
それは、私たちには見えない誰かの心の内側で、変化の種をまくことになるかもしれません。
私も今後は年に1度ほどの訪問になるかもしれませんが、KUNOメソッドを通して、子どもたちや先生たちと引き続き交流し、共にジンバブエの課題と向き合っていきたいと考えています。
その先の10年後、20年後、30年後――子どもたちの未来が豊かなものになるよう願いながら、久野先生の想いを少しずつアフリカの大地に伝えていければと思っています。
今後も、活動の報告をする機会があれば幸いです。
またおしまいに、当日授業に参加した現地の先生からのメッセージを英語と日本語で紹介します。
このような場をいただけたことに、心より感謝申し上げます。

学習塾KOMABAシンガポール・ジャカルタ 塾長 石川晋太郎

――ジンバブエの先生からのメッセージ――
Dear Mr. Kuno and the KOGUMA-KAI team,

I would like to thank you for introducing the new KUNO Method for teaching Early Childhood Development (ECD) using concrete shapes.
Mr. Ishikawa demonstrated the teaching and learning approach using these shapes. While kindergarten learners often perceive numbers as abstract, using shapes can help develop their young minds in a more tangible way.
I observed that the children truly enjoyed these lessons. Through Mr. Ishikawa’s demonstration, I came to realize the importance of nurturing imagination and helping children develop their five senses.
I hope I will teach the lessons in all our schools. Most of our teachers appreciated the method when Mr. Ishikawa taught at primary schools in Chakari and Chegutu. The use of shapes also has great potential for supporting learners in special needs classes.
I am looking forward to another opportunity to learn from the KUNO Method through Mr. Ishikawa

Best regards,
Rodreck Dick


親愛なる久野先生およびこぐま会の皆様へ

具体的な物を使って幼児教育(ECD)を行う新しいKUNOメソッドをご紹介いただき、誠にありがとうございます。 石川先生は、この形を使った指導・学習法を実演してくれました。幼稚園の子どもたちは、数字を抽象的なものとして捉えがちですが、形を使うことで、彼らの幼い心をより具体的に育むことができます。
私は、子どもたちがこの授業を本当に楽しんでいる様子を目にしました。石川先生の授業を通して、想像力を育てたり、五感を発達させたりすることの大切さに改めて気づかされました。
この授業内容を、私たちのどの学校でも取り入れられたらと思います。石川先生がチャカリとチェグツ(どちらも地名)の小学校で授業を行った際、ほとんどの教師がこのメソッドに感謝していました。また、この教材は、特別支援学級の児童にも有効に活用できる可能性があります。
今後また、石川先生を通じてKUNOメソッドから学ぶ機会を楽しみにしています。

敬具
ロドレック・ディック


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