週刊こぐま通信
「最新入試問題で求められているものは何か?」絵画製作:想像画(慶応義塾幼稚舎)
第30号 2006/02/09(Thu)
齋藤 洋
齋藤 洋
- 絵画製作:想像画(慶応義塾幼稚舎)
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※ 消防車が通っていく、道路の音をテープレコーダーで聞く。
他にバスなどいろいろな自動車の音がする。
A.「今の音を聞いて、思い浮んだ道路の絵を描いて下さい。」
B.「今の音には出てこなかった、自動車の絵を描いて下さい。」

そしてさらに、同じ日程であってもグループによって違う出題方法を採っています。上記のように、同じ音を聞かせているのに、発問が違うということもありました。どちらも音を聞いての課題画ですが、やや求められているものが違っているように感じられます。
この違いをどのようにとらえる必要があるのでしょうか?それともそれほど重要視する必要はないのでしょうか?
Aの場合は、子ども達は音を聞いて何かしらのイメージを持ったと思います。そしてその様子を描くのですから、音からイメージされる道路の状況を描くという、まさに想像画であると言えます。
この場合は、その中に出てきた様々な自動車を全て描かなければならないということではないでしょう。消防車は明らかに出てきていますから描くとしても、その他の状況は自分の思い通りで良いのです。消防車だけを描いた子も多かったと思いますが、描くのは「道路」ですから周囲の状況も想像し、工夫して描くことが求められていたはずです。
Bも音を聞くところは同じです。また音の中に出てきた自動車が分かることも必要です。なぜなら、その音には出てきていない自動車を描くということですから、出てきた自動車が分からなければなりません。その上で、別の自動車を描きます。ここでは「自動車を描いて下さい。」ですから、周囲の状況を描く必要は無いことになります。この出題の仕方ならば、一風変わった出し方ですが、いわゆる課題画ということになります。想像するのではなく、自分の知っている自動車の中で、今聞いた音には出てこなかったものを描くだけで良いのです。とは言っても周囲まで描けば、それだけ絵の完成度が高くなりますから、描いた方がよいでしょう。
さてどこに大きな違いがあると思われますか?
厳密に言うと、Aの想像画は単なる課題画よりも難しいと思われます。しかしBと比較すると、出てこなかった自動車を考えなければなりません。これは子どもには大変だと思われます。もし「道路を描く」に対して「消防車を描く」だったならば、前者がレベルが高いのはもちろんです。しかし幼児で、消防車を細かく観察したことのある子はそれほど多くはないでしょう。ということは、結局この問題には大きな違いは無いと考えられるのです。
しかし大切なのは次の点です。
まず指示の聞き取りです。確かに消防車を描いてよいのか、いけないのかについては違いがあります。その部分はしっかり判断できなければならないでしょう。
その上での話ですが、自動車を描くこと、そしてその周囲を描くことで、どんな場面を描こうとしているのかを見る者に伝えること。それが最も重要なポイントになると思われます。
もう一つ。上手であればそれに越したことはありません。しかしそれ以上に、下手でも一生懸命、自動車の細部まで描こうとしている姿勢、そして実際に描いていく様子。そしてその周囲の状況として、人の存在やその他の道路を含めた町の様子を、細かく描いていこうというがんばりが見られているはずです。どの学校でもこの点については同じでしょう。
慶応は、描いている子どもにいろいろな質問をしにきます。がんばっていればそれだけ先生方は興味を持つはずです。その時に緊張しないで、描こうとしている物についてや乗り物についての意見を、どんどん答えていくことも忘れてはいけないポイントです。