学力世界一の国におけるKUNOメソッドの役割
こぐま会代表 久野 泰可

去る4月29日と30日の両日にわたり、シンガポールのある幼稚園でKUNOメソッドによる模擬授業を行ってきました。お国柄その現地校には、シンガポール人はもちろん、日本人も含めて多国籍の同年齢の子どもたちが在籍していますので、授業は英語で行いました。実は昨年11月19日に、この園の教育責任者の方が来日され、こぐま会の授業を見学されました。事物を使い、子どもたちがトライ&エラーをしながら学び進める授業を大いに評価してくださり、KUNOメソッドをシンガポールの子どもたちにも導入できないかという要請を受け、実現したものです。私たちがシンガポールの教育を受け止める際に、学力世界一の国の教育、そして小学校から中学校に上がる際の学力テストの結果によって、その先の学びのコースが決められてしまう、そのためにシンガポール人は生まれた瞬間から子どもの教育に相当投資し、いろいろな学びをしていると受け止めていました。ですから幼児期から相当意図的な教育を実践しているのではないか、私たちが積み上げてきたKUNOメソッドは受け入れられるのか・・・そんな思いを持ちながら、日本の年少(N2)、年中(K1)、年長(K2)にあたる子どもたちを対象に10名ほどのクラスを編成していただき、発達診断テストと模擬授業を行ってきました。発達診断テストを行った理由は、現地の子どもたちの発達に合わせたカリキュラムを組むためには、子どもの学力の現状を知っておく必要があると考えているからです。その結果、わかったのは次のことです。
- 1
- 意図的な授業に対する集中力は日本の子どもより高い
- 2
- ペーパー的な課題は、日本で受験を意識して家庭学習をしてきている子と大差なくできる(シンガポールには小学校受験のための対策はありません)
- 3
- ただし、具体物を使った学習は苦手のようで、例えばペーパー上の4等分はできても、折り紙を使っていろいろな形に4等分することが難しい(K1)
- 4
- 解答の理由を言語化するのが苦手である
- 5
- 全体として、日本の子どもたちと比べて学力が高いとも低いとも言えないが、小学校受験がなくても、普段の幼稚園の教育の中で基本的な学びをしっかりやっている様子はうかがえる(K2)
- 6
- ただ課題としては、事物教育と対話教育が必要であることは大変よくわかり、ここにKUNOメソッドを導入する意味があるのではないかと思う
4月29日にK1とK2の発達診断テストとN2の模擬授業を行い、30日にはK1とK2の模擬授業を行いました。私が担当したK2(年長)のクラスでは、秘密袋を使った触索と、つみ木を使った移動による変化の把握・立体模写を行いました。
模擬授業 K2(年長)
テーマ:図形 立体学習「触索による形の認識・つみ木の構成」 | ||
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1 | 導入 | 形について話す 両国の国旗提示 |
2 | a. 触索 | 提示した立体・平面(袋2種)と同じものを触索して取り出す
触索した立体・平面の特徴を言語化する 触索した形を紙に描く | b. つみ木の構成 | 8個のつみ木の構成・変化 |
3 | ペーパー | 図形模写/図形分割/つみ木の変化/折り紙の分割/さんかくパズルの変化 |
秘密袋に入った立体を取り出したり、中に入っているものの特徴を言語化したり、触った形を紙に描いたりしましたが、初めての体験なのか、みんなとても楽しそうに集中して取り組んでくれました。一番難しい、触った形(平面)を描く課題は、日本の子どもたちよりよく出来ていたように感じます。図形教育に相当力が入っているのだと思います。立方体の模写はかなり難しかったようですが、ひし形の模写は大変きれいに描けていました。 つみ木を使った形の変化は、私たちが山手線ゲームと呼んでいるもので、最初の形からつみ木を1個ずつ移動させて形を変化させながら、最後にまた元の形に戻ってくるという学習です。

ペーパーでの学習がどれだけできるか興味を持ってみていましたが、K1・K2ともペーパー学習には慣れているようで、この点については、日本の幼稚園の子どもたちと比べると進んでいるのではないかと感じます。これがシンガポールの教育状況を反映した家庭での取り組みの結果ではないかと思いますが、形だけを教え込む今の教育では、これからの時代に要求される能力は育たないと考えている指導者が増えているというお話も伺いました。教育立国といわれるシンガポールで、これまでのペーパー主義の教育だけではだめだと考える人たちにとって、KUNOメソッドの事物教育・対話教育が魅力的に映ったのは間違いありません。
カリキュラムの担当者は、シンガポールの小学校に行くには今の内容で対応できるが、こぐま会の学習内容はシンガポールの幼稚園で現在行っている教育より難しく、将来の学びの基礎として内容が確立されているし、論理を育てる教育として意味があるのではないかとお話しくださいました。実際、シンガポールの算数の教科書を見せていただきましたが、驚いたことに小学校4年の対称図形の導入に、私たちがばらクラス(年長児)の授業で行っている内容と同じものが掲載されていました。
シンガポールの算数の教科書を見ると、どんな学年でも生活に即したテーマが導入に使われ、学習の基礎として、私たちがばらクラスでやっている内容でもしっかり取り上げ、そこから難しい課題の取り組みに進んでいくということがよくわかりました。
日本の算数が計算主義である一方で、シンガポールは最初から文章題を扱うというように、生活の中における課題をどう解決するかというスタンスで学習が始まっています。その意味で、算数が生きた学力の育成につながっており、そこが世界一になる大きな理由なのではないのかと思います。その世界一の国で、今後の教育にとって必要な幼児期の学習内容がKUNOメソッドに含まれているという評価をいただき、これまでのこぐま会の実践が単に受験に合格するためだけのものではなく、将来の学力の基礎を育てる教育内容になっていることを改めて確認しました。来月6月19日から5日間にわたり、幼稚園の現場責任者とカリキュラム作成責任者が、こぐま会の授業を見学するために来日されます。私たちの実践がどう評価されるか、楽しみにしています。すでにシンガポールでの模擬授業を見学されたインターナショナル校の校長からは次のような質問が寄せられています。この質問にしっかり答えることができるかどうか、KUNOメソッドの真価が問われています。
- Spiral curriculum structuring information to first teach complex ideas in a simplified form, and then later re visiting them in a more complex form. Could you share examples of this in the Curriculum?
- “7 STEPS” CURRICULUM
7 Steps : Foundation learning (Steps 1 to 4) , Applied Learning (Steps 5&6) and Summary (Step 7) Could you share with more examples, the progression from Step 1 to 3 and 4, and then 4 to 5? - Is this curriculum meant to be a “brain development” approach ? Left brain? Right Brain? Whole brain?
- Is the 42 week curriculum the same for age 3 , 4, 5 and 6? Is there a difference or progression from age 3 to age 4, is it more complex as the children progress to the next level?
- Kogumakai's education is based on three principles. One of which is : P ractice of Dialogue education. How does the teacher record the conversations in the stages of learning if this is an important aspect of the learning?
- Student teacher ratio How flexible is this? What are the factors that will determine a change in the ratio? Teacher competency? Student readiness?
- Assessment : How is assessment carried out for each child? What’s the frequency? And what is the benchmark or standard to progress students from one level to the next?
- Elementary School Entrance Exam could you share sample of questions that are used for the tests ? How Kuno method help prepare students for this exam? I would like to clarify this : elementary schools that conduct exams using objects give many tasks that are more difficult than paper exams. Are students required to explain the basis for their answer?
- BLOCK ACTIVITY
What’s the objective of this activity? Is it to get back to the original shape. Any rules? Eg. Only move one block at one time, only allowed 6 moves?
Is the brown block in a fixed position? How many moves are allowed? This shape only has 6 blocks , unlike the first diagram which has 8 blocks. Any significance?
Looks like more than one block can be moved. Is this an exercise to practice moving blocks physically to help with pictorial visualizing skill?
BIGGER QUESTION: Is there some general rules for creating the particular block shapes to facilitate the thinking behind such activities?
- 2 D to 3 D activity
This looks like a rhombus. Noright angle. The cube has a square face with right angles.
Question: How to find the connection between the diamond shape and the cube? Is this to explain how to draw “slant lines”, or parallel slant lines?
「N2(年少)の授業の様子を振り返り」
日本と同内容で実施しました。日本でこれまで私が担当してきた子どもたちの様子と比較しながら、よく観察することができました。この園では、挨拶やしつけの面で厳しく指導されていることに加え、見知らぬ日本人が突然来た緊張感も相まって、スタート時の子どもたちはおとなしい印象でした。周りの方が目配せしたり、声掛けや手助けをしたりすることで「正解」を求められてしまう様子に、「チャレンジの気持ちや考える時間を担保してほしい」と周りの大人の方々にお願いすると、あっという間に子どもたちが生き生きと活動をはじめ、その様子を大人たちが興味深く観察するようになりました。「子どもたちが学ぶということは、こういうことなのだ」と感じた瞬間でした。
なかなか取り掛かれない子どもに、その課題の事物の扱いや違いを伝えると、急に嬉しそうに両手に持ち直していました。プリントで苦々しい顔を見せていた子どもに、先ほど触った事物を見せ、「平面になっただけだよ」と点と線をつなげると、さっと表情が変わり嬉しそうに取り組んでいました。最後には「もう終わったの?これ(事物)が欲しい」と言って、教室から出て自分の部屋に帰っていきました。
正解や結果を求められているような様子の子どもたちを見て、「幼児期の学びの土壌に、将来につながる豊かな栄養を届けたい」と願った時間でした。
こぐま会 齋藤 佐知子
「K1(年中)授業とK2(年長)テストを振り返り」
年中は「形の等分」の授業を、年長はテストでさまざまな課題をペーパー中心に行いましたが、双方を通じて図形に関しては高い理解を感じました。ペーパーにおいても大体において意欲的だったと思います。一方で、具体物における別の視点からの働きかけに対しては、普段の経験が多くないのではとも感じました。
年中の授業で「折り紙の2等分と4等分」を行った際、1つ目の分け方はスラスラ出てきたのに対し、2つ目以降の分け方になると失速する子が少なくありませんでした。それ自体は日本で行っていてもあることですが、「いろいろ試してごらん」という問いかけに対して手が全く動かなくなってしまう子も結構いて、「どうやるの?」と聞いてくる子が多かったように思います。答えが分かっていることに対しては自信を持って行えるけれど、知らないことに対しての試行錯誤が慣れていない様子でした。ただ、そういった子に「一緒に考えてみよう」と、少しの間一緒について始めてみると、「わかった!」と急に手が動き出すことが多かったです。その中には間違った分け方になっていることもありましたが、自分から考えて働きかけようとする姿は、認知していく過程の大事な部分であると感じました。
年長のテストでも、ペーパーで折り紙の線対称を解いている時に自信のなさそうな子がいたので、その後に「折り紙で自分たちで模様を作ってみよう」と実際の折り紙を渡して行ってみました。すると「こんなのが出来た!」と嬉しそうに見せてくれたり、「こういう形を作りたいんだけど、どうやったらいいかな?」と真剣に考えたりと、どの子も前のめりに模様を作ることを楽しんでいたのが印象的でした。具体物での働きかけの意味の重要性と、子どもの知的好奇心の強さを改めて感じることができ、嬉しく思いました。
こぐま会 島津 香里奈
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