週刊こぐま通信
「代表のコラム」海外での子育てと言語の発達
第928号 2025年5月9日(金)
こぐま会代表 久野 泰可
こぐま会代表 久野 泰可

4月26日(土)より5月1日(木)まで、シンガポールおよびジャカルタに出向き、現地人および海外在住の日本人に向けてKUNOメソッドを紹介するセミナーを行ってきました。4月27日には、提携しているシンガポールの「学習塾KOMABA」オーチャード校において、日本人会クリニック言語聴覚士の鈴木利佳子先生と対談形式の「海外での子育てと言語発達」と題したセミナーを行いました。そのセミナーと同時並行で、年中児と年長児のチャレンジテストを行い、シンガポールに在住する日本人の子どもたちの思考力の発達テストを行いました。また、午後には年中以下の子どもたちを対象とした「こぐま春まつり」を行い、親子でKUNOメソッドを楽しく学ぶ体験会を実施しました。 言語聴覚士の鈴木先生との対談セミナーは昨年に続き2回目になります。海外で生活する日本人の子どもたちの日本語習得に関する悩みにお答えするセミナーとして、次のような内容で企画されました。
1 シンガポールでの子育てと言語の発達
2 KUNOメソッドの内容と方法
3 対談「海外での子育てと言語の発達」
鈴木先生がシンガポールでよく受ける相談として、
- 1
- 言語発達への心配(2~6歳)
- 2
- 学習への心配・・・6歳以降、読み書き計算が苦手、宿題をやらせるのが大変、学校に行くのを嫌がる
- 3
- コミュニケーションに関する心配・・・場面沈黙、質問応答ができない、説明ができない
をあげ、専門家としての立場から標準的な言語発達を説明され、その中で、「レイト・トーカー」についてお話しくださいました。そのうえで、言語環境をどう整えるかについて、参加者の皆さまの質問に答えながら、日々感じている課題についてお話しくださいました。
次に私の方からKUNOメソッドの内容と方法について全体的なお話をしたうえで、「言語」領域ではどんな内容の学習をしているのかを説明しました。学習塾KOMABAの塾長である石川先生が日々子どもを指導している立場から、言語発達に関するKUNOメソッドの「事物教育」や「対話教育」の有効性を具体的にお伝えくださいました。
最後に石川先生も参加され、「海外で子育てをする日本人の子どもたちの言語発達」に関し、3つのテーマについて意見交換しました。
【テーマ1 バイリンガルについて】
バイリンガルの場合、モノリンガルよりも、その子の特性を踏まえて周囲のサポートや本人の意識的努力が必要。また、第一言語のベースを作ることの大切さ、コミュニケーション言語と学習言語の違いを理解することの大事さを鈴木先生よりお話しいただき、私からは日々教室授業で感じている次のことをお伝えしました。
- ①
- 日本でも英語教育を早いうちから始める家庭が増え、日本語が母語でありながら、思考の武器になっていない子が多い
- ②
- 英語で何を学ぶのかの議論が始まっているが、答えが見つからない
- ③
- 私立・都立小学校で英語の取り組みが強化されているが、教師の英語レベルの確保と参加する子どもたちの英語レベルの格差で授業がうまくいかないケースが目立ってきている
【テーマ2 ことばの4技能について】
最初に私の方から、幼児期の課題として以下のようなお話をしました。
- ①
- 幼児期の課題は、「読む・書く」の前に「聞く・話す」を大事にすることが必要
- ②
- 「読む・書く」は一人でもできるが、「聞く・話す」は他者がいて初めて成り立つ。その関係性の中で言葉が発達し、思考力が育つ
- ③
- 音読が上手にできない子に男の子が多いのはなぜか
- ④
- いくつかの音が組み合わさって意味のある言葉になることを理解させるために、「一音一文字」を通して言葉の成り立ちを身につけることが大事
また、鈴木先生からは日々の診療の経験から、
- ①
- 「話せない」のは「聞けていない、理解できていない」ことが多い
- ②
- 6歳までは「聞く・話す・コミュニケーション」のバランスで考える
- ③
- 書けないのは読めないためであることが多く、読めないのは「聞く・話す」ができないためであることが多い
【テーマ3 心とことば】
鈴木先生からは、3歳の子から学んだことを次のように述べていました。
その子は初め、「話さない」「目を合わせない」「場に入れない」子だった。しかし、鳥が好きだということを知り、鳥の話をしていくうちに、好きなものからコミュニケーションをとり、意志を伝える楽しみを感じてもらうことができた。そして、喜びを共有し、楽しい時間を過ごせるようになり、興味関心を広げられるようになった。その経験からわかったことは、コミュニケーションの基本は、「楽しい」を共有すること、一緒に楽しむことが大事であり、普段の生活の中で一緒に遊び、一緒に経験し、言葉を楽しむことが大切、ということである
というお話がありました。
私からは、日々教室で接している子どもたちの様子から、「心とことば」について次のような視点でお話ししました。
- ①
- 教え込みの教育は、子どもの心(想い・意欲)と言葉を奪ってしまう
- ②
- 体を通して言葉を紡ぎだす作業が必要
- ③
- 学びの中における「言語化」はとても大事である
- ④
- 共同作業の中でことばを共有することの大切さは、小学校受験における行動観察で評価されている
- ⑤
- 「子どもは何も知らない、だから教えてあげよう」という発想は、大人の傲慢さの表れであり、子どもから学びに向かう主体性を奪ってしまう。子どもは体験を通して自ら学ぶ力を持っており、遊びや生活の中で必要に応じて多くのことを学んでいる〈例・数の自己教育〉
海外に住む日本人にとって、「日本語の習得」に関する悩みは深刻です。今回は、シンガポールに在住する日本人の皆さまが直面する、言語に関する課題をどう解決するかという観点から、事物教育と対話教育の意味を伝え、言語聴覚士の鈴木先生からは、現場で取り組んでいる課題の解決法を具体的に示していただきました。このテーマは、いま日本で英語教育をどうするかという課題とつながった問題だと思います。いつから英語教育を始めるのか、どんな内容と方法で学ぶのか・・・まだまだ議論が続きます。今回のセミナーは、私にとっても日本における英語教育の在り方を考えるよい機会になりました。
セミナー終了後、ジャカルタに移動し、28日は学習塾KOMABAジャカルタ校主催のセミナーに登壇して、KUNOメソッドの内容と方法をお伝えしました。ジャカルタで活動されている日本人会の皆さまに、幼児期の教育の大切さをお話しさせていただきました。
あわただしいスケジュールの中、夜にはシンガポールに戻り、29~30日はシンガポールの幼稚園で、年少児から年長児を対象とした発達診断テストと模擬授業を行いました。この様子は次回のコラムで報告させていただきます。
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