週刊こぐま通信
「代表のコラム」現場の先生方からの質問にお答えしました
第926号 2025年4月18日(金)
こぐま会代表 久野 泰可
こぐま会代表 久野 泰可

先月、幅広い分野で子どもたちの教育に携わっている教育機関で、「考える力を育てる幼児教育・KUNOメソッドの教育内容と方法」と題したお話をさせていただきました。幼児期から中学生に至る年齢層の子どもたちを対象に日々教育活動を担っている先生方、30名ほどを対象に行ったセミナーです。終了後たくさんの質問をいただきました。指導者の皆さまからの質問ですから、保護者の方々の質問とは少し異なりますが、教える側の質問にもしっかりお答えしないといけないと思い、追加の質問を含め後日文章で回答させていただきました。以下、いただいた質問と私がお答えした内容です。
- 1.
- 宿題をたくさんやらせたい、もっとやりたいと保護者さまからご相談をいただくとき、お子さまの知識が身についていないと感じる場合には、どのような家庭学習の提案などができますか。親はできるだけ難しいことができてほしいと願い、子どもの学力の現状を踏まえず、高いレベルを要求してしまう傾向があります。しかし、基礎がないところに難しいことを詰め込んでも砂上の楼閣に過ぎず、決して身につきません。まずそのことを保護者さまに理解していただき、「元に戻る」ことの大事さを伝えるべきです。それは、例えば3年生で壁にぶつかったら2年生の学びをもう一度しっかりやってみる、というようなことです。それが私たちの強調しているらせん型カリキュラムです。また子どもにやらせるという勉強ではなく、一緒に考え取り組んでやるという姿勢が親には必要です。躓きの原因を明確にしてあげ、一つの課題をどのように学んでいけばいいのかをはっきり示してあげることが大事です。
- 2.
- 小学1年~3年の生徒が「読むこと」に躓いたとき、なるべく短時間でその課題を解決しようとするためにはどういった指導をすべきでしょうか。優先順位を含めて指針を教えてください。(言語力・読解力に対する生徒の課題を感じることがあるため)私も小学生指導の経験がありますが、国語の指導はとても大変ですね。「読むこと」は、読解力ということだと思いますが、小学校低学年の読解指導は上級生のようにいかない大変さがあります。私も、受験を終えた子どもたちの就学準備クラスで国語の「読む課題」に挑戦していますが、特に次の点に注意しています。
・読が上手にできるかどうか、まずは拾い読みをなくす ・音読した後、内容について口頭で質問し、口頭で答える練習をする ・そのあと自分で書いて答える。その際、必ず答えの根拠(本文のどこに書いてあるのか)をしっかり説明させる
低学年の子どもの国語力を見るには、音読させるのが一番よくわかります。 - 3.
- 実体験から気づいてもらうという点について 例えば長さ・かさ・重さをどのように根源的に教えていき、単位へつなげて知識として身につけていくのか、教えてください。単位の考え方は、次のように段階を踏んで理解していきます。
1. 直接比較
2. 間接比較
3. 個別単位
4. 普遍単位
4.の普遍単位は2年生で学びますが、そこに至るまでにそれぞれの量について1.~3.の段階を踏んで理解していきます。3.までの経験が幼児期の課題であり、具体物を使って学習することが求められますが、特に3.の個別単位の考え方が大切です。 方眼の一辺を使った「長さくらべ」、方眼のマス目を使った「広さくらべ」、カップを使った「多さくらべ」など、何を「一単位」とするかの考え方を幼児期に経験させておくことが大事です。 - 4.
- 勉強において、保護者さまとしては「量をこなしてほしい」という要望をお持ちだと思います。これに対して、どのようなお話の仕方で「質」の方向に促しているのでしょうか。たくさんのペーパーにあたり、学力を伸ばしたいと考えるのは普通の考え方で、それを否定はしません。しかし、たくさん量をこなしたからといって、応用力につながる学力形成は必ずしも保証できません。100ある課題を100通りの練習で解決するのではなく、「100のうち大事な10の課題を解決すれば、残りの90の課題は解決できる」という学び方をしないといけません。その10の課題こそ深い学び、つまり質の高い学びです。具体的には、必ず「答えの根拠を説明させる」ということです。
例えば、2×3と3×2はどちらも答えは同じで6だけれど式の意味は全く違う、というようなことが理解できる、そうした本物の学力を身につけるようにしなくてはなりません。量をこなせば質は保証されるという発想をどこかで崩しておかないといけません。計算はできても文章題になるとできない、計算はできるけれど立式ができないといったよく聞かれることも、質の大切さを説明する具体例だと思います。 - 5.
- KUNOメソッドを子どもたちが学ぶ上で大切にすべきことを教えてください。私が教室での指導にあたり、いつも気をつけていることは以下のような点です。
・教え込みの指導はしない。自ら考え、試行錯誤する過程を大事にする ・ペーパーを先行させた授業はしない。必ず事物に働きかける経験を持たせる ・答えの根拠を必ず聞く。理由説明ができずに〇をもらってもそれは本当に分かっていることにならない ・幼児期の子どもたちが認識を定着させていくためには繰り返しのトレーニングが必要である。家庭学習との連動をしっかりとる必要があるため、授業進度に即した家庭用教材を準備する - 6.
- ここまでカリキュラムが整うのにどのくらいの期間が必要でしたか。現在、開講間もない小学校受験教室のカリキュラムがこのレベルに達するための道のりが果てしなく遠く感じられます。私が現場に出て今年で53年になります。子どもの指導にあたりながら、考えてきた内容を実践し、約20年かけて体系化してKUNOメソッドを完成させました。また、ひとりでとっくんシリーズ100冊は完成までに25年間かかりました。現場での子どもの様子を見て作成し、実践して修正を繰り返して完成させましたので、それくらいの時間は必要でした。ただ、検討する素材は身近にたくさんありますから、それらを参考に御社の考え方にあった内容に変更させていくということを考えれば、そんなに時間はかかりません。私がかかわった時代は参考になる実践記録が何もなかった時代ですから、相当に時間が必要でした。メソッドを整える以上に大変なのは、子どもにかかわる教師の指導能力を高める教員養成です。その意味で、毎日の実践を大事にし、常に子どもの目線で指導内容を考え、本当に子どもにとって意味ある経験だったかを振り返り、その積み重ねの中で、メソッドを作り上げていけばいいと思います。私たちの実践経験をぜひ参考にしてください。
- 7.
- 各領域の元々の得意・不得意、発達状況を踏まえて、お子さまごとに対応・工夫されている点があれば教えてください。8~10名くらいの小集団で授業を行うことを基本としていますので、当然10人集まれば、理解度の違いは生じます。それを前提に授業を工夫していますが、理解度の差をどう解決するかは大変難しい課題です。ただ、らせん型カリキュラムですから、学習内容は1回だけで終わらず、何度も復習する機会はありますので、1回の授業ですべて完結させるという発想はとっていません。仮に、その時理解できない課題があったとしても、事物を使った経験を積み上げるという考え方にたち、長い目で見ようと考えています。ひとりひとりのお子さまにとって、今日の授業が意味あるものになるように、発達に合わせた対応をしてきています。理解が遅れ気味のお子さまに対しては、補習授業を組んで対応しています。
- 8.
- 生徒に集中力がないため、いろいろと試みたいことがあっても長続きしないのですが、どうしたらよいでしょうか。いろいろ試みたいことが、本当に子どもの理解度にあっているか、今一度考えてみてください。基礎から応用へ、具体から抽象へ、単純なものから複雑なものへ、というように、子どもの理解の道筋に合わせてあげることが大事です。興味のないことには集中できない、長い時間をかけても集中できない、背伸びしてもできない難しい課題を与えても集中できないということを知っておいてください。理解できなければ基礎の課題に戻ることを心がけてください。
- 9.
- 文科省が指針として示した「幼児期の終わりまでに育ってほしい10の姿」がありますが、バランスよく学ぶことの大切さを感じるとともに、何か得意なことをとことん伸ばすことも重要に思えます。幼児期の教育はどのように考えればよいのでしょうか。幼児期の子どもたちの思考力を伸ばすためには、まずバランスよく学習する必要があります。そのために何が基礎になるかを明確にさせ、それを生活や遊びの中でしっかり身につける必要があります。そのうえで、子どもが興味を持ち、自ら進んで打ち込める得意分野を伸ばすことはいいことだと思います。数に興味があるけれど図形は嫌い、数も図形もよくできるけれど、運筆・手先の巧緻性には打ち込めない・・・よくあることですが、一つの分野に苦手意識を持ってしまうと、後で挽回するのがとても大変です。「10の姿」は幼児期の課題を明確に述べていて、そのバランスは大事ですが、あまりにも理念先行で抽象的で具体性に欠け、何をどうすべきかの指針にはなりません。成長のバランスはもっと具体的に考える必要があります。得意な分野を持ち、自己肯定感を高めることによって、物事に自信をもってかかわる姿勢が持てることが何より大事なことだと思います。
- 10.
- 幼児、特に乳児に対してPC・スマートフォン・タブレットを遊びや勉強のツールとして使用している例が多くみられますが、それは時代の流れでよいことなのでしょうか。生成AIの発達によって、子どもたちが社会で活躍する時代になった時、これらのデバイスは何事をするにしても排除できるツールではありません。その意味で積極的に使わざるを得ませんが、そのことで幼児期から使わせるべきだという議論にはなりません。幼児期に必要な「考える力」を育てるためには、まず本物の事物に触れ、働きかける経験が必要です。その観点からすれば、ディスプレイ上の疑似体験では知識の源にはなりません。身体を通して身につけた経験があるうえで、スマートフォンやタブレットを使って視野を広げていくことは大事だと思います。事物に触れる経験がないところでこうしたデバイスありきの生活では、大切な幼児期の経験の蓄積にはなっていかないと思います。
また、遊びのツールの一つとして捉え、静かにさせておく手段として使うケースも多いかと思いますが、それをしてしまうとスマホ依存になってしまい、もっと楽しい具体物を使った遊びがあるのに興味を持たなくなってしまう可能性がありますので、極力避けたほうがいいと思います。また、おもちゃの与え方についても、精巧にできたおもちゃほど教育的にはあまりよくありません。可塑性のないおもちゃは子どもが創意工夫するチャンスがなく、おそらくすぐに飽きてしまいます。それよりも単純な素材である、例えばカプラや紙コップなどを使った遊びのほうが、子どもたちが創意工夫する経験の積み重ねにとなり、大きな意味があるはずです。
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