週刊こぐま通信
「代表のコラム」幼児教育人生 53年
第924号 2025年3月27日(木)
こぐま会代表 久野 泰可
こぐま会代表 久野 泰可

1972年に渋谷の小さな教室で大学の指導教官と立ち上げた幼児教室にかかわり始めて、今年で53年になります。この間一貫して教室の現場で幼児期の子どもたちの「考える力」をどう育てるかを考え続け、カリキュラムや教材・教具を開発してきました。現在も、以前よりは少なくなりましたが、教室の現場に立って子どもたちの指導にあたっています。
先日ある出版社の取材を受け、KUNOメソッドの内容と方法をお伝えしました。その中で、「先生はなぜこの幼児教育の世界に飛び込んだのですか」と聞かれました。いつも質問される内容です。この問いかけに対し、私は次のような観点でお答えしました。
1. 伝統的な遊び保育を大事にしながら、幼児期の基礎教育を充実させることこそ、小学校における学力差問題を解決する方法である
私が大学を卒業するころ、社会問題になっていたことがありました。それは、小学校に入ってからの学力差の問題でした。「落ちこぼれ」「落ちこぼし」を解決するためには、幼児期の基礎教育をしっかりやるべきだと考えました。そこで大学教官が著した「感覚教育論」の考え方を実践する教室を立ち上げたのが、この世界で仕事をするきっかけとなりました。将来の教科学習の基礎を幼児期に育てる「教科前基礎教育」を実践してきたのが、私の53年間の活動でした。
2. 間違った受験教育は、子どもの成長の芽を摘み取ってしまう。学校が公開しない入試情報をさまざまな手段で集め、それを公開し正しい受験対策をとってもらう。ペーパー主義の間違った受験対策を糺し、将来の学習の基礎を育てる受験対策を実践しようと考えた
民間の教育機関では、受験を避けて通れないと思ったとき、基礎教育と受験教育をどう調和させていくか相当悩みました。なぜならその当時の小学校入試は知能テストが問題だったからです。ある意味で訓練によって知能指数を伸ばす教育と、私たちが考える基礎教育をどうすみ分けしていくか、ある意味二刀流で臨まなければならない時期が続きました。そうした中、受験者が増えていく過程で入試問題が変化し、知能テストの問題から小学校で学ぶ内容を幼児向けに作成した問題に変わりました。しかし、あまりにも多いペーパー試験の弊害を告発され、学校側もそれを認識し、その後8枚前後のペーパー・行動観察・面談の3つの総合点で合否が決まる今の方法に変わりました。まともな幼児教育を実践すれば、それが入試対策にもなるという時代になりました。間違った受験教育は何もやらないよりももっとたちが悪いと思います。なぜなら、成長の芽を摘み、学ぶ意欲を奪い取ってしまうからです。それを糺すために、できるだけ入試情報を公開し、子どもの発達に見合った教材教具を開発してきました。こぐま会のベストセラーである「ひとりでとっくんシリーズ」は25年かけて開発してきました。
3. 幼児教育に新しい風を吹き込み、幼小の架け橋プログラムを作るためには、子どものいる現場に身を置いて、カリキュラムや教材を開発する必要がある。現場主義を貫き、日本の幼児教育を変革することを、残りの人生の課題としたい
大学闘争が収束し、これに参加した学生が教員になるのは難しいと考えたとき、私は大学院に進み、研究者の道を目指そうと考えました。しかし、教育改革を実現するためには、研究室に閉じこもった発言だけでは何も変わらない、教育改革は現場に身おいて発言してこそ実現できると考え、指導教官と実践する幼児教室の立ち上げにかかわりました。日本には、その当時参考になる実践例はあまりなく、教室に通ってくる子どもたちとの活動を通して、実践内容を考えてきました。教室での指導を通して物事を考える「現場主義」を実践することが大事だと考え、53年間も指導の現場に身を置いてきました。カリキュラムを作るにしても、教材を開発するにしても子どもたちから学ぶことがとても多いと考えているからです。
幼児期の基礎教育の内容と方法を完成し、それを「KUNOメソッド」として体系化しました。今ではこぐま会の教室だけでなく、幼稚園や保育園のアフタースクールで実践したり、海外の幼稚園で正課として取り入れたりアフタースクールで行ったりしています。今後、シンガポールを中心に、近隣諸国にKUNOメソッドを広める活動に力を注ぎたいと考えています。
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