週刊こぐま通信
「代表のコラム」幼児教育をめぐる活発な議論を
第910号 2024年10月25日(金)
こぐま会代表 久野 泰可
こぐま会代表 久野 泰可

OECDの勧告により、世界各国で幼児教育に対する国家予算の投資が続いています。ジェームズ・ヘックマン氏が著した「幼児教育の経済学」の中で、幼児教育に最大投資することがその国の将来にとってとても大事であるという考え方が示され、それを根拠に、OECDは世界各国に幼児教育への投資を勧告しています。日本でも遅ればせながら幼児教育の無償化が行われたり、教育環境の整備のためにさまざまな改革が行われたりしています。無償化だけでは教育の中身はよくならないと気づき始め、年長から小1までの学習のつなぎを考える「幼児教育と小学校教育の架け橋特別委員会」での議論を踏まえたパイロット園での実践も始まり、もうすぐ具体的な答申が出されるはずです。私が40年以上も前から主張してきた「幼小一貫教育」が始まろうとしています。しかしこれまでの動きを見ていると、出される答申にはあまり期待は持てそうにありません。なぜなら、内容と方法の理論的なバックボーンが出来上がっていないばかりか、子どものいる現実から発想する方法がとられていないからです。大学の研究室から生まれた上からの発想で好ましい子ども像を述べるだけでは、成長する子どもの現実から発想するカリキュラムはまず出てこないと思います。また、委員会を構成するメンバーに、教育現場で実践する人が少ないのが、そのことを物語っています。そのうえ、委員会を構成する有識者の中には、「読み・書き・計算」を早くやればいいと考えている人たちが少なからずいることも確かです。とんでもない話です。こんな人たちに、幼児教育の改革を任せるわけにはいきません。
一方現実は、少子化に伴う幼稚園や保育園の生徒獲得競争が熾烈を極めています。他園と差別化するために、英語教育を取り入れたり、小さいうちから「読み・書き・計算」をさせたりする園が増えています。そうした目に見える形の教育成果を差別化の主張の根拠にする現実に、それが子どもの将来にとって果たしていいことかどうか、もう一度立ち止まって考えるべきだと思います。
長い間、日本の幼稚園・保育園は「遊び保育」を中心に行ってきました。そのような中で、40年位以上も前から幼児期に適切な知育をすべきだと主張してきた私に、そんなことは必要ないとそっぽを向いてきた幼稚園や保育園が、今や生徒集めの差別化のためにそうした知育をすべきだと180度転換してきているのです。私にしてみれば「何をいまさら・・・」と思います。遊び保育と意図的な知育を対立させ、幼児期の知育は必要ないと言い張ってきた関係者はこの事態をどう説明するのでしょうか。知育は必要でないと言い張ってきた人たちが、今度は知育が必要だと考え始め行っていることが「読み・書き・計算」では、あまりにも短絡的です。 そうではないのです。遊びは子どもの学習体験として極めて貴重です。しかし、それだけで終わってしまったのでは将来の学びの基礎にならないのです。遊びと学びをどうつなげるか、それこそが日本が昔から行ってきた伝統保育の良さを生かし、次のステップにつなげることになるのです。遊びを学びの基礎としてとらえ、そのうえで、将来の教科学習の基礎づくりを行うべきなのです。
私たちはこれまで40年間、幼児期の教育を教科前基礎教育として捉え、事物教育と対話教育を実践してきました。ピアジェ・ブルーナー・モンテッソーリ・ヴィゴツキー・遠山啓氏など先人が残した理論を土台に、教室に通う子どもたちの様子を観察しながら、年少から年長にわたる3年間の教育プログラムを完成させ、実践してきました。幼児教育に関心が集まる今こそ、具体的な議論が必要です。そのために「KUNOメソッド」を検討素材に提供することにやぶさかではありません。子どもたちのために、具体的な議論が必要です。
- 読み・書き・計算はまだ早い!
こぐま会代表 久野泰可 著「子どもが賢くなる75の方法」(幻冬舎)
家庭でできる教育法を一挙公開
子どもを机に向かわせる前に実際の物に触れ、考えることで差がつく。- 食事の支度を手伝いながら「数」を学ぶ
- 飲みかけのジュースから「量」を学ぶ
- 折り紙で遊びながら「図形」を学ぶ
- 読み聞かせや対話から「言語」を学ぶ
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