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週刊こぐま通信
「代表のコラム」

海を渡るKUNOメソッド

第902号 2024年8月2日(金)
こぐま会代表  久野 泰可

 こぐま会のKUNOメソッドによる授業は、海外でも行われています。15年ほど前から、主に書店に置かれたこぐま会のオリジナル教材が出会いのきっかけとなり、海外でも授業が行われるようになりました。最初は韓国から始まり、中国、インド、シンガポール、タイ、ベトナム、インドネシア、バングラデシュ、台湾など、主に東アジア、東南アジアの地域で行われてきました。一つは海外在住の日本人のため、もう一つは現地人が通う幼稚園や保育園、また塾において行われてきました。しかし、バングラデシュのように国内の政治状況によって運営が不可能になったり、中国のように現政権による民間教育機関への規制によって実践活動ができなくなったり、また、コロナ禍による国の政策によって民間の教育機関の運営ができなくなったりしたところもありました。しかしコロナ禍による厳しい制限が緩和され、少しずつ再開され始めています。現在、シンガポール、タイ、ベトナムが動き始め、新たにトルコで授業が始まる準備が進んでいます。

ジェームズ・ヘックマン氏の著作により「5歳までの教育が人間の一生を左右するかも知れない」「これからの社会で活躍する人間は、認知能力だけではなく非認知能力も大事だ」という考え方が広まり、国家の教育予算の多くを幼児教育に投資すべきだという考え方が経済協力開発機構(OECD)の教育政策になり 、今世界中で幼児教育に注目が集まっています。日本でも遅ればせながら、幼児教育の無償化が実現されました。しかし、無償化で教育の質が良くなる保証はどこにもありません。むしろそうした子育て政策の一環として、家計に重くのしかかる教育費を軽減させる「無償化」の嵐は、教育の質を深める動きを見えなくさせてしまう結果にもなりかねません。今回の都知事選でも、少子化対策が政策の目玉になっていましたが、ある候補者が主張したように、無償化ではなく教育投資に力を入れないと、本当の意味での少子化対策にならないと私も思います。子どもの数が明らかに減少し、国力が落ちていくことが目に見えている現在、教育による人材育成が、今後の日本を支える力になるのではないかという考え方に私も賛成です。その典型例としてよくシンガポールの教育政策が挙げられています。こぐま会もシンガポールに2つの教室(現地人向け・在留邦人向け)にメソッドの提供をしていますが、シンガポールの教育の厳しさは現地人のみならず、そこで学ぶ日本人にもいろいろ影響しているように思います。教育によって人材を育成し、国力の基礎を作るという高い目標を掲げても、実際にはいろいろ難しい問題を抱えているようです。教育の内容、受験制度の厳しさによって、子ども間に競争を煽り、小さいうちからの詰め込み教育によって心を痛める子どもが多く生みだされ、その矛盾は大きな社会問題になっていると聞きます。教育による人材育成が受験競争を煽るようでは、本末転倒です。この矛盾をいかに乗り越えるか。そのためには新しい思想と具体的な教育の中味が用意されなくてはなりません。幼児教育が大事だという掛け声だけでは、教育の質はよくなりません。宗教や文化の違いを超えて、幼児期の教育の中味を議論するためには、具体的な内容と、理論的なバックボーンとエビデンスが必要です。

こぐま会のKUNOメソッドが海外で注目され、導入を検討する教育機関が増えているのは、教育内容と方法に普遍的な価値を認めてもらっているからだと思います。単に受験における合格者が多いからというだけでなく、あるべき幼児教育の姿が体現されているからだと思います。民間の教育機関が単独で海を渡るのには、多くのリスクがあります。20年以上海外での活動を経験してきた今だからこそ、新たな思想で、日本発の幼児教育が海外で認められていくことには意味があると思います。こぐま会は、昨年1月に「学研トルコ」と業務提携を締結し、約1年半かけて、2学年にわたるモデル校での検証を今年の6月に終えました。そして7月には、イズミール(トルコ)の幼稚園でKUNOメソッドのカリキュラムでサマースクールを開催しました。これらの活動を踏まえて、トルコ国内の幼稚園、保育園、塾にKUNOメソッドが定着していくことを期待しています。教科書のない日本の小学校受験において、教材開発の分野で貢献してきたKUNOメソッドが、次に目指すのは、海外を含めた幼児教育の質の深化にどれだけ貢献できるかということです。50年現場で指導に当たってきた私の次のステージは、発展途上国の幼児教育の内容と方法の確立に向け、これまでの経験を生かし、アドバイザー的役割を果たすことだと考えています。体力の衰えを実感しながらも体が許す限り、世界を飛び回るつもりです。

イズミールで実施したKUNOメソッドによるサマースクールに、こぐま会の教師が指導員として参加しました。KUNOメソッドを学んだトルコの子どもたちの様子と写真をここに掲載させていただきます。

「トルコサマースクールに参加して」

 トルコの幼稚園で7月1日から3週間行われたサマースクール。私はそのうちの5日間参加してきました。
初めて出会う9月から年長になる14人の子どもたち(内3人は年中)、すぐにトルコ語やボディランゲージで懐いてきてくれました。
三角パズルを使った基本構成、つみ木を使った見本構成、触索で立体を捉えて模写、水量の相対化、数の構成など、1課題をらせん型に積み上げるKUNOメソッドカリキュラムをトルコ版に作り直したものを実施しました。初めて知る学びに楽しそうに手を動かして取り組む姿、わかったことに誇らしげに挙手する子どもたち、お国柄もあるかと思いますが、「やった!」「できた!」を表情や歓声として表してくれる子どもたちに、こちらが嬉しくなってしまうほどでした。
子ども本来の、知りたい、知ることが嬉しいという様子を体感でき、とても素晴らしい時間でした。
シャイで、比較的ぼんやりしている印象だった男の子が、三角パズルで諦めず何度もやり直しては考え、最後に出来上がったとき、私の腕を掴み「できた!(ben yaptim)」と顔を寄せてきました。それは、どんな子どもにも学ぶチャンスがあって欲しいし、スポンジに吸われる水の如く、染み入っていく学びがたくさんの子どもたちに届けられたらと感じた瞬間でした。

こぐま会 齋藤 佐知子


8月下旬から9月初めにかけて、シンガポールで親子で楽しむサマースクールを開催します。私を含め3名の教師も参加し、シンガポール在住の日本人を中心にいろいろなイベントを行うつもりです。シンガポールを東南アジアの拠点に、近隣諸国にKUNOメソッドが広がっていくことを願っています。

 学習塾KOMABAシンガポール×こぐま会
『親子で学ぼう 夏のとくべつイベント』 8月30日・31日・9月1日開催!

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