週刊こぐま通信
「代表のコラム」学力テストの結果から見えてくるもの
第903号 2024年8月16日(金)
こぐま会代表 久野 泰可
こぐま会代表 久野 泰可
全国学力テストは今年4月に小学校6年生と中学3年生を対象に186万人が参加して行われ、7月29日にその結果が公表されました。全国(国公私)の平均正答率は次の通りでした。
国語 | 算数 | |
---|---|---|
小学校 | 67.8 | 63.6 |
中学校 | 58.4 | 53.0 |
小中学生とも、記述式の問題に関する思考力や表現力が課題として残ったようです。
国語 | 算数 | ||
---|---|---|---|
小学校 | 基礎的知識 | 70.0 | 72.9 |
思考力・表現力 | 66.2 | 51.6 | |
中学校 | 基礎的知識 | 62.4 | 63.5 |
思考力・表現力 | 55.8 | 30.0 |
新聞各紙ではいろいろな分析が見られますが、総じて「目的や話題に沿った内容を記述したり、データをもとに考えたことをまとめる力に課題が見られた」(日経新聞)という評価のようです。要するに、思考力や表現力に課題があると総括されています。
私も小学校の算数問題を実際にやってみましたが、感想は
- 問題の中味はそれほど難しくない。実際に小6の子どもたちを教えた経験から、なぜこのレベルの問題で平均点が63点なのか理解できない
- ただ答えが出せればいいというのではなく、なぜそう考えたのか、なぜそうした式になるのかを、説明させる問題が数問あり、考えのプロセスを問う問題が子どもにとっては難しかったと思われる
- 複数のデータを読み、分析する力が問われた問題が難しかったようだ。しかし、こうした能力を育てる授業が学校で実際に行われているのかどうか大変疑問である
私が60年以上前の小学校や中学校の時に受けた学力テストとは、問いかけの仕方や内容に大きな違いが見られます。生活の中のありふれた事象を数学的な思考を巡らせて問題解決していくという、大学の共通テストと同じような傾向が感じられます。例えば、今回の算数の問題の中には、以下のような生活で起こるさまざまな事象を数学的に考え、解決できるかどうかを問いかける問題が見られます。
- トラックでお米を運ぶ問題(乗法や除法の関係について)
- 家から学校までの道のり(時間や速さ)
- サクラの開花予想日の求め方(身の回りの事象を目的に応じて表やグラフを用いて考察する)
- 直方体の見取り図・円柱の展開図の書き方
昔の問題のように、難しい計算や特殊算といわれる難問はほとんど出題されていません。基本的な問題をどう考えて解いたのか、その考えるプロセスをきちんと説明(記述)できるかどうかが問われています。その意味で、算数の授業の在り方が問われているのです。これまでのような、計算至上主義の算数や、公式を覚えてそれに当てはめて解くような勉強では、対応できないことは明らかです。こうした学力テストの変化に合わせて算数の授業内容や方法が変わっていけばよいと思いますが、果たして教室の現場が変われるかどうかは疑問です。それは、私が幼児教室の現場で実践している、子どもの主体的な学びを育てる算数教育が行われているかどうか疑問だからです。つまり平たく言ってしまえば、毎回の授業で教師が「教える」ことに注力し、「子どもに考えさせる」方法がとられていないのではないかということです。私が今子どもたちの考える力を伸ばすために行っている指導方法は、答えがあっていればそれでよしとするのではなく、なぜそう考えたのかを自らの言葉で説明させる「対話教育」の実践です。特に小学校受験対策の教育は、早く答えを出すためにやり方を教え込み、それで解かせています。その方法を子どもが理解してやっていれば問題ありませんが、多くの場合、子ども自身が何もわからないまま、機械的に教え込まれてやっているだけです。
今回の算数の学力テストを見ると、計算力を問う問題はほとんどありません。それよりも式の意味を問いかけたり、四則演算の意味を問いかけたりする問題が出されています。本当に基本がわかっていないと、どう答えたらよいのか迷う問題が多く見られます。私たちが幼児期に大事にしている逆思考の問題や、視点を変えて関係を考える問題、図形感覚を育てるために重視している図形模写の課題も出されています。私が受け持つ年長の子どもたちでもできそうな問題も見られます。例えば最初の問題を見てください。
ゆうまさんたちは、折り紙で遊んでいます。
ゆうまさんは、折り紙を72枚持っています。ゆうまさんが持っている折り紙は、こはるさんが持っている折り紙より28枚少ないです。こはるさんが持っている折り紙の枚数を求める式を、下の ア から エ までの中から1つ選んで、その記号を書きましょう。
ゆうまさんは、折り紙を72枚持っています。ゆうまさんが持っている折り紙は、こはるさんが持っている折り紙より28枚少ないです。こはるさんが持っている折り紙の枚数を求める式を、下の ア から エ までの中から1つ選んで、その記号を書きましょう。
ア 72+28
イ 72-28
ウ 72×28
エ 72÷28
2人の持っている折り紙の数の比較をゆうまさんから見た場合と、こはるさんから見た場合の関係づけを問いかけていますが、こうした視点を変えて関係を考える問題は、私たちが年長児の教育で大事にして行っている内容です。例えば次のような問題です。
- 太郎さんと花子さんは栗拾いに行って、太郎さんは花子さんより4個多く10個拾いました。では花子さんは何個拾ったのでしょうか。
- 太郎さん・花子さん・次郎さんは、学校からどれだけ遠いか近いか比べてみました。次郎さんは花子さんより遠く、太郎さんより近いようです。では学校から遠い順にまるさんかくしかくを書いてください。
このような問題をたくさんやって、関係性をとらえる練習をしています。つまり今回の最初の問題は、数を小さくすれば幼児でもわかる問題です。今回の問題には、こうした関係性を求める問題が数多く出されています。その意味で、論理数学的な思考力を鍛える教育は、幼児期からしっかりやっておくべきです。
今回の学力テストで求められた数学的な思考力は、算数という教科を教科書や問題集の中に閉じ込めた学びで育てることはできません。生活のさまざまな事象の中で、数学的に物事を考える経験を通して育てることが大事です。私たちがKUNOメソッドとして掲げている、「未測量」や「位置表象」の課題を生活に即して考える経験がどうしても必要です。今回の学力テストで求められている考える力の原型が、幼児を対象として実践している私たちの教科前基礎教育の中にほとんど詰まっていると確信しました。数学者の遠山啓氏が50年以上前に著した「歩きはじめの算数」の中で提案している「原数学」「原教科」の考え方を今一度受け止めるべきだと思います。
※出典:資料はすべて「国立教育政策研究所」ホームページより(https://www.nier.go.jp/)
- 小学1年生対象 「算数 学力点検テスト」のご案内
- 【対象】小学1年生
【日時】8月23日(金) 15:00~16:30
【会場】こぐま会 恵比寿本校 - 1年生の1学期までの基本的な学習課題と、ばらクラスの学習からつながるこれまでの学習内容について点検をします。1学期で学んだ内容がどれくらい身についているか確認し、2学期以降の学習に備えましょう。
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