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週刊こぐま通信
「代表のコラム」

無償化だけでは、教育はよくならない

第899号 2024年7月5日(金)
こぐま会代表  久野 泰可

 7月7日の東京都知事選に向けて街頭演説が活発に行われ、その行方を都民だけでなく全国民が注目しています。これまで投票をしてこなかった若者も関心を持っているようで、無党派層といわれる人たちの動向が注目されています。

今回の選挙では、主な候補者が「子育て支援・教育の無償化」を訴えています。また、教育に積極的に投資すべきだという候補者もいます。今回は、私たちの仕事に関係のある子育て支援や教育に関する政策が、公約の目玉になっているように思います。しかし気を付けなければならないのは、子育て支援や教育の無償化が、当選するためのお金のバラマキになってはいけないということです。

以前、幼児教育の無償化が行われた際にもコラムで書きましたが、無償化は子育て世代の経済的な支援にはなりますが、今抱えている教育問題が解決することにはなりません。つまり無償化で教育の質が深まることはないということです。

大阪市は、幼児教育の無償化を国に先駆けて実施しました。橋本氏から引き継いだ吉村市長の時代に、大阪市はこども青少年局に「保育・幼児教育センター」 を開設し、新人教師の育成と、幼小一貫のカリキュラム作りに取り組みました。私も最初の5年間、大阪市特別参与を拝命し、このセンターの活動にアドバイザーとしてかかわりました。当時、吉村市長とお会いした時、市長は「無償化だけでは教育はよくならない。現場に立つ若い先生の育成とカリキュラムをしっかり作らないといけない」と述べており、大阪市保育・幼児教育センターを設立したのでした。私が幼児期の子どもに向けて教科書を作るべきだと話した際には、大変興味を示されました。

ジェームズ・ヘックマン氏の「幼児教育の経済学」で示された考え方が、OECDの保育政策の理論的な根拠になり、今世界中で幼児教育に対する関心が高まり、幼児教育に対する国家予算の投資が行われています。遅ればせながら日本でも幼児教育への投資が必要だと考えるようになり、「幼児教育の無償化」が推し進められました。待機児童の問題も解決し、順調に進んでいるように見えますが、残念ながら教育の質は深化していません。だからこそ、中教審の中に「幼児教育と小学校教育の架け橋特別委員会」 が設置され、幼小一貫教育の議論が進み実践活動も始まっています。私は、この仕事にかかわり始めた50年前から、幼児期の正しい知育が必要だと訴えてきました。しかし当時、「知育」は小学校入学後の課題であり、幼児期は遊び保育を通して集団活動の基礎を身につければよいとされてきました。しかしどうでしょう。今や生徒獲得のために「読み・書き・計算」に取り組む園が出てきましたし、英語教育を取り入れて、それを生徒募集の目玉にしている園もあるようです。しかし、目に見える「形だけの教育」では、将来の子どもの学習の基礎となる「考える力」を育てることはできません。幼児教育の無償化は大事な政策です。しかし、それをもって教育の質が向上するわけではありません。無償化したからこそ、教育内容も改革しなければならないと考え実行した大阪市の取り組みに学ぶべきです。子育て支援と称して、多くのものが無償化されていくのは時代の流れですが、「ばらまき」にならないよう、どんなお金の使い方をされているか関心をもって見守るべきです。無償化だけでなく、幼児教育の環境整備や人材育成に最大投資すべきだと思います。

読み・書き・計算はまだ早い!

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