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週刊こぐま通信
「代表のコラム」

どんな能力が求められているか(3)
学力試験全体の難易度バランス

第884号 2024年2月9日(金)
こぐま会代表  久野 泰可

 前号の続きで、ある学校の入試問題の残り半分を分析します。

問7「折り紙を使った線対称」 難易度(低)
  1. 右の問題です。上の折り紙の黒い太線のところを切り取って広げると、どうなりますか。それぞれ下から選んで線結びしてください。

4つ折りの折り紙を切り取って広げたとき、どんな形ができるかを判断する問題です。折り紙を使った線対称の基本は、4つ折りから真ん中に丸を作ることと、ひし形を作ることです。そのうえでの応用課題ですが、まず4つの角のうちどこが折り紙の中心かを判別する必要があります。そして、同じ切り方をしても切る場所によって違った形ができるという経験を持つことが必要です。小学校高学年で学ぶ線対称の課題につながる基礎として、とても大事です。

問8「交換(一対多対応)」 難易度(中)
上のお部屋を見てください。おはじき2個でリンゴ1個、おはじき3個でブドウ1房を買うことができます。
  1. おはじき10個でリンゴは何個買えますか。その数だけリンゴのお部屋にをかいてください。
  2. ブドウを2房買える数のおはじきで、リンゴはいくつ買えますか。その数だけブドウのお部屋にをかいてください。
  3. ブドウを3房買える数のおはじきでリンゴをできるだけ買うと、おはじきはいくつあまりますか。その数だけリンゴとブドウのお部屋にをかいてください。

かけ算の考え方の基礎となる、一対多対応の問題です。おはじきをお金に見立て、おはじき2個でリンゴ1個、おはじき3個でブドウ1房を買えるという約束です。a.は、わり算の包含除の課題、b. c.はかけ算とわり算の混合問題ですが、c.が難しいと思います。これを小学生が行う計算式で解くと、[3×3=9 9÷2=4あまり1]となり、この「あまり1」が答えになります。問題の意図をしっかりつかめれば暗算で答えは出せるはずですが、「リンゴをできるだけ買う」という意味が分かるかがポイントです。いずれにしても小学生になってから学ぶ、かけ算・わり算の考え方につながる内容であり、しかもそれが生活に密着した場面を使って出題されている、よく考えられた問題だと思います。

問9「魔法の箱」 難易度(高)
上のお部屋を見てください。の箱を通ると、数が2つ増えて出てきます。♡の箱を通ると、の数が1つ減って出てきます。
  1. 上のお約束で下の絵のようにが箱の中を通ると、最後は何個になって出てきますか。その数だけ右のお部屋にをかいてください。1番下のお部屋は、途中のの数から◇の箱のお約束を考えて、最後にいくつになるかを考えてください。

箱を通過することで数が変化する約束を適用して、最初に入れたの数がいくつになって出てくるかを考える問題です。1つの箱だけでなく、2つ、3つの箱を連続して通過するところがむずかしいと思います。また一番下の問題は「魔法の箱」における逆思考課題のひとつで、約束が提示されていない◇の箱を通過する際の変化を、6個のが4個になるところを見て2個減ると約束だと判断し、それを適用できるかどうかが問われます。たし算やひき算の基礎になるという意味でもよい問題です。

問10「位置の対応」 難易度(低)
  1. 上のお部屋と同じところに同じ形がくるように、下のマスに形をかいてください。

方眼上の同じ位置に同じ形を描く「位置の対応」の問題です。これが発展すると、方眼上の特定された場所をどう説明するかという問題になりますが、今回は位置の対応ですからそれほど難しくはありません。3×3方眼の場合は、記憶の問題として出題されることもあります。

問11「点図形」 難易度(低)
  1. 上のお部屋と同じになるように、下のお部屋の点を結んで形をかいてください

小学校入試では昔から出題される定番の点図形です。点の位置をしっかり把握し、まっすぐな線で点を結んで同じ形を描く課題です。問題の難易度を決める要素は、点の数によるところが大きいですが、斜めの線がどれくらい使ってある形かによっても決まります。今回の問題の場合、右にある形に斜めの線が多く、さらに点と点の間を通って次の点と結ぶ線が2つありますので、そのあたりが難しいはずです。こうした斜めの線が多い形は、それが何に見えるかの見立てをすると、難しいお手本でもある程度かけるようになるはずです。

問12「常識(季節)」個別テスト 難易度(低)
※おはじきを用意してください。
  1. この中で、夏のものはどれですか。おはじきを置いてください。

理科的常識の典型である、季節を問う問題です。夏のものを探す問題ですが、他のものについても季節を問いかけてみてください。

問13「一音一文字」個別テスト 難易度(中)
  1. この中で「ズボン」や「ダイコン」のように、名前に「にごる音が」入っているものはどれですか。おはじきを置いてください。
  2. ここにあるものでしりとりをします。使うものにおはじきを置いてください。
  3. この中で、しりとりで負けてしまうものはどれですか。おはじきを置いてください。

言葉の学習に関する問題です。
  1. は、「にごる音」、つまり濁音の理解です。ズボンやダイコンのようにと説明されていますので、にごる音の意味が分からないことはないと思います。
  2. は、ここにあるものでしりとりがどうできるかを考える問題です。使うものの指示がありませんので、やや難しいかもしれません。
  3. しりとりで負けるということは、最後に「ん」がつくものです。同尾音を探す問題ですので、それほど難しくはありません。

以上、学力試験に関するペーパーテストと個別テストを紹介しましたが、今回全問を分析した理由は、同じ学校で難易度の違う問題をどう組み合わせて出題しているかを知ることで、難問だけに取り組めばいいという間違った考え方を正すことができるのではないかと考えたからです。これまでも入試問題を分析してきましたが、どちらかというと難しい問題や新傾向の問題に絞ったもので、同じ学校で出された問題を全て分析し紹介したのは初めてではないかと思います。

今回紹介した問題がどのように小学校の教科学習につながっているかを見ると、次のようになります。

問7は、線対称の考え方の基礎づくり
問8は、かけ算とわり算の考え方の基礎
問9は、数の変化に関する法則性の理解
問10は、方眼上の位置を意識する課題
問11は、方眼上の位置と模写能力(点図形)
問12は、理科的常識
問13は、ことばの理解における濁音の理解と一音一文字の理解

前回分析した6問と今回の7問を合わせた13問を見てみると、「未測量:1問 / 位置表象:2問 / 数:3問 / 図形:3問 / 言語:1問 / 常識:1問/法則性の理解:2問」というように全領域にわたって出題されています。また、難易度を見ると「難易度低(A):5問 / 難易度中(B):6問 / 難易度高(C):2問」とこれもバランスよく作られています。

小学校の入試問題が将来の学習の基礎として意味のある内容であれば、入試に向けた学習が将来の教科学習の基礎になるわけです。私たちは、受験対策の学習が合格のためだけではなく、将来の学習の基礎づくりになることを願っています。そのために学校にお願いしたいのは、一つひとつの問題に将来の学習の基礎としての意味付けをしていただき、難問奇問の出題にならないようにしていただきたいということです。その意味で今回紹介した学校の問題は、子どもたちを送り出す側の私たちにとって、とても教えがいのある良い内容だと思っています。幼児教育に関する議論が高まっていますが、こうした具体的な問題を通して、何を教育の課題にすべきかを議論することが必要です。小学校の受験問題が特別なものではなく、将来の学習の基礎として誰もが学ぶ意味のあるものであってほしいと願っています。


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