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週刊こぐま通信
「代表のコラム」

どんな能力が求められているか(2)
学力試験全体の難易度バランス

第883号 2024年2月2日(金)
こぐま会代表  久野 泰可

 小学校入試で課せられる学力試験の多くは、ペーパーを使って行われます。個別テストを採用している学校もありますが、ごく少数です。問題数は大体8問前後ですが、難易度にはそれぞれ相当の差があります。受験生の皆さまには、どちらかというと難しい問題を紹介することが多いですが、実は7割がたは基本問題です。40年以上にわたって小学校の入試問題を分析してきましたが、難しい問題をピックアップするだけでなく、同じ学校で難易度の違うどんな問題が出されていくかを見て総合的に対策を考えていく必要があります。そうでないと、「小学校入試の問題は難問だらけで、我が子には到底対応できない」と受験をあきらめてしまうケースも出てきます。またそれだけではなく、学力試験の問題はいったいどんな目的をもって出題されているのか、将来の学習とどうつながっているのか、そこをしっかり押さえておかないと有効な対策を立てることができません。

そこで今回は、昨年秋に行われた入試の中でバランスよく問題が構成され、将来の教科学習の基礎として目的が明確になっていると思われるある学校のペーパー問題を紹介し、小学校入試で一体どんな能力が求められているかを考えてみたいと思います。この学校ではペーパーテストが11問、個別テストが2問出されましたが、そのひとつずつについて、問題の意図と難易度、さらに何が子どもにとって難しいのかを明らかにしたいと思います。

(以下、問1~問6の問題は子どもたちの聞き取り調査をもとに構成したもので、学校が公表したものではありません。)

問1「数の総合問題」 難易度(中)
上のお部屋の絵をよく見てください。
  1. カモメがここにいる数だけ飛んでいます。あとから2羽やって来ました。カモメは合わせて何羽になりましたか。その数だけカモメのお部屋にをかいてください。
  2. ここにあるミカンを男の子に2個ずつあげるには、あと何個必要ですか。その数だけミカンのお部屋にをかいてください。
  3. ここにあるスイカを4つに切って、子どもたちにあげると、切ったスイカは何個あまりますか。その数だけスイカのお部屋にをかいてください。
  4. ベンチに2人ずつ座ると、座れない人は何人いますか。その数だけベンチのお部屋にをかいてください。

これは「一場面の絵を使った数の総合問題」です。最近の数の問題では、多くの学校でこのような絵を使って小学校低学年の四則演算につながる質問を設けています。それぞれの質問の意図は次のように考えられます。

a. たし算の添加の考え方
b. 一対多対応とひき算の基礎としての求差の複合問題
c. 一対多対応と一対一対応の複合問題
d. 包含除の考え方と数の比較の複合問題

複合問題と表現したのは、答えを出すために異なった数の操作をしなければならないからです。たとえば小学生に c の問題を数式を使って解かせる場合、[ 4×2=8 8-6=2 ] ということになり、かけ算とひき算を使って答えを出します。しかし、幼児の場合は数式を使わないため、絵を見ながら考えて答えを出さなければなりません。頭の中で数を操作することが求められるため、そうした経験を通して数の概念が形成されていくのだと思います。今回の4問の中で、かけ算の基礎としての一対多対応が求められる c , d の問題がやや難しいと思います。生活場面を素材にいろいろな数の問題が出題されており、入学後の算数につながる生活に密着した良い問題だと思います。

問2「推理・図形系列」 難易度(中)
上のお部屋を見てください。坂道を転がってきたボールは、絵のような順番で穴に入ります。
  • 同じように、坂道を転がってきたボールは、どんな順番で穴に入りますか。それぞれ下から選んでの中にをかいてください。

ボールが坂を転がって順番に穴に入り、どのように並ぶかの法則性を見つけて正しい並び方を選ぶ問題です。科学実験的要素もありますが、決められた並び方の法則性を考えて解く問題とすれば、図形系列の応用と考えられます。問題の意味が分かるかどうかを考えると、難易度としてはやや難しいと思います。「法則性の理解」を学ぶよい問題です。

問3「シーソーの重さ比べ」 難易度(高)
  • ここにあるシーソーをよく見て、1番重い動物に◎、3番目に重い動物にを下のお部屋につけてください。

典型的なシーソーの問題ですが、これは五者関係の推理です。一般的にシーソーの基礎は三者関係です。入試では四者関係が一般的ですが、これは五者関係ですので難度の高い問題です。なおかつここには、つりあいの場面が入っています。となると、シーソーに乗っているウサギをネコに、またはネコをウサギに変えても重さの関係は変わらないということになります。その前提で5つのシーソーを見たとき、ウサギよりブタが重い、ブタよりトリが重い、トリよりイヌが重い、つまり重い順にイヌ - トリ - ブタ - ウサギという、ネコ以外の四者の関係を把握することができます。ネコはウサギと同じ重さであることがわかっているため、どちらも4番目に重いということになり、質問の「一番重い動物」はイヌ、「3番目に重い動物」はブタということになります。五者関係も四者関係と同じ解き方で答えを求めることができますが、シーソーの場面が多いことと、特にこの問題ではネコとウサギが同じ重さだというつりあいの関係が混ざっており、これが難しさの原因になっています。

問4「つみ木の数」 難易度(低)
  • 左のつみ木と同じ数のつみ木はどれですか。それぞれ右から探しての中にをかいてください。

立体構成の基本である「つみ木の数あて」の問題です。実際に積んだ経験をもとに、隠れている数を意識して全体の数がわかるかどうかが課題です。左側のつみ木と同じ数のものを探すわけですから、まずこれを間違えずに数える必要があります。特に真ん中の段では、隠れたつみ木が3個ありますので注意しなければなりません。将来の図形学習の基礎として、立体感覚を育てる意味で大事にしたい問題です。

問5「つみ木の変化」 難易度(低)
上のお部屋を見てください。つみ木の黒いところをとると、上にあったつみ木が落ちて絵のようになります。
  • 同じように、左のつみ木の黒いところをとるとどうなりますか。それぞれ右から探しての中にをかいてください。

黒いつみ木を取った時に上のつみ木が下に落ちる、それをイメージしてどんな形に変化するかを問いかけています。一番下の2個取り去った時の変化がやや難しいと思いますが、実際に積んだ経験があれば、イメージするのはそれほど難しくはないと思います。こうした変化に対する観察力は、幼児期に育てておきたい大事なものの見方です。変化するところと変化しないところを見抜く力は、図形だけでなく、あらゆる領域で必要なものの見方です。

問6「回転推理」 難易度(中)
上の絵を見てください。サイコロにかかれた太陽、星、雪だるまの反対側にはそれぞれ雲、傘、月がかかれています。
  1. このサイコロが右に1回転がると、上の面には何の絵がきますか。上のお部屋から選んでをつけてください。
  2. このサイコロが左に2回転がると、上の面には何の絵がきますか。真ん中のお部屋から選んでをつけてください。
  3. このサイコロが手前に1回、左に2回転がると、上の面には何の絵がきますか。下のお部屋から選んでをつけてください。

サイコロが指示どおりに回転した時、上の面にどんな絵が来るかを考える問題で、回転推理の課題の中では、基本的な問題のひとつです。質問が3つありますが、それを解くために、6つの面に何がかいてあるかを把握しておく必要があります。そのうえで、a.右に1回転がった時、b.左に2回転がった時、c.手前に1回、左に2回転がった時にどうなるかを考えなければなりません。c は難しいと思います。回転の典型的な問題は、観覧車や回転テーブルの問題ですが、「回転」の要素が入った問題は実際に経験したことをどれだけイメージできるかが問われますので、こうした問題はまず実物を使い、手を使って試行錯誤させてください。ペーパー上だけの学習では「回転」の考え方は身につきません。

以上、今回は前半の6問を紹介し、問題の意図を分析しました。

問1は、四則演算につながる内容
問2は、法則性の理解
問3は、シーソーによる関係推理
問4・問5は、つみ木を使った立体構成に関する問題
問6は、回転推理

この学校では1つの領域にこだわらず、多くの領域から出題されていることがわかります。これらを通して思考力がどれだけ身についているかを見ようとしています。教え込まれた知識、教え込まれた解き方で解決できる問題ではありません。出題の意図に、将来の学習の基礎としての学びが大切であるという明確なメッセージが込められており、大変よい問題だと思います。残り半分は次回報告し、そのうえで全体の難易度のバランスを考えてみたいと思います。


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