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週刊こぐま通信
「室長のコラム」

「逆思考」で問われる考える力

第869号 2023年9月22日(金)
こぐま会代表  久野 泰可

 コロナ禍による行動制限が解除されてから初めて行われる2024年度入試はいよいよ本番を迎え、すでに神奈川の学校では面接が始まっています。やや易しくなったコロナ禍の3年間の傾向は少し変化し、難しい問題が増えることが予想されます。学校側が求める「考える力」とは、教え込まれた知識や解き方ではなく、自ら試行錯誤して解答を導き出せる能力です。AI時代のこれからの教育は、この「考える力」が大事になっていくはずですし、入試でも、教え込まれた解き方や知識では太刀打ちできない問題が増えていくはずです。

各学校の入試問題を分析してみると、本当によく考えられた問題が多く出題されています。学校現場も「探求型学習」をどうすべきかを追究している現在、小学校の入試問題もその流れに沿って変化せざるを得なくなってきているはずです。そんな中、学校側はどのようにして問題を難しくしようとしているのでしょうか。決して幼児に小学校で学ぶ内容を求めようとしているわけではありません。子どもたちの生活や遊びの内容を素材に、考える力を求めるオリジナルな問題を工夫し、出題しようとしています。たとえば、小学校入試の定番である「しりとり」の問題一つとっても、学校側の工夫がよくわかります。

しりとりは、一音一文字の考え方を応用した言葉遊びで、子どもたちも普段の遊びの中でよく経験していることです。ですから、後ろにつながる言葉を探すだけであれば、何の難しさもなく、誰でも解くことができます。ところが、これがいろいろ変化し、しりとりのルールが問われてくるようなケースになるとかなり問題が難しくなります。
  1. 最初の言葉も最後の言葉も指定がなく、すべてをしりとりでつなぐ
  2. 最初の言葉も最後の言葉も指定がなく、できるだけ長くつなげる
    途中で枝分かれしていくつながりもある中で、一番長くなるものを探す
  3. 3つの言葉でつながるしりとりの2番目が抜けていて、前後の言葉のつながりを意識しながらそこに入る言葉を探す
  4. しりとりを、最後の言葉から逆につないでいく(逆しりとり)

「逆しりとり」
  • 上と下のお部屋は矢印の順番にしりとりでつながって、それぞれ「ミカン」と「クマ」で終わります。空いている「?」のお部屋に入る言葉を真ん中から選んで同じ印をつけてください。上と下の問題を両方やってください。

このように、「前の言葉の最後の音に次の言葉をつなげる」というしりとりのルールの理解が問われたとき、問題は難問化していきます。さらに問題が発展すると、次のような問題が登場します。下から2番目の音で次の言葉が始まるように言葉をつなぐ問題で、こぐま会ではこれを「言葉つなぎ」として、しりとりとは区別しています。

「言葉つなぎ」
  • 星の問題を見てください。「はさみ」からはじめて、真ん中の音で次の言葉の最初の音とつなぎます。線をかいて全部つないでください。
  • ハートのお部屋を見てください。上の言葉の真ん中の音を使って作れる言葉を下から探してをつけてください。

しりとりもこうして問題が多様化し、難問化していきます。こうして見てくると、多様化した「しりとり」問題のポイントは「逆しりとり」ができるかどうかに関わっています。それができれば、ルールもしっかり理解していることになるし、他の問題もたやすく解けるようになるはずです。

このように、入試問題を難しくする一つの方法として「逆から質問する」という方法が見られます。それは同時に「視点を変えて質問する」ということであり、幼児期の思考力を高める大事な観点です。

では、具体的にどんな問題として出題されているのでしょうか。
  1. 「魔法の箱」における逆思考
  2. 「数の変化」における、最後の答えから戻って途中の抜けた数を考える逆思考
  3. 「方眼上の位置」の逆思考
  4. 「四方からの観察 ―反対からの見え方(つみ木)」

では具体的に見てみましょう。

1. 魔法の箱の逆思考

「魔法の箱」
上のお部屋を見てください。トンネルを通るとの数が変わって出てきます。赤いトンネルは数が2増えます。青いトンネルは数が2減ります。黄色のトンネルは数が1減ります。
  • 1番上の問題です。4が絵のようにトンネルを通ると最後にいくつになって出てきますか。その数だけをかいてください。
  • 2番目と3番目の問題です。今度は出た数から最初に入れた数を考えてその数だけをかいてください。
  • 1番下の問題を見てください。トンネルを通ると絵のように数が変わりました。「?」のついたトンネルは何色のトンネルでしょう。その色にをつけてください。

「魔法の箱」は、変化の法則性を理解した後、あるものを入れた時、どのように変化して出てくるかを考える問題ですが、出てくるものを予想するだけでなく、出てくるものを見て入れたものを考えるという逆思考の問題です。

2. 数の変化における逆思考

「逆思考の文章題」
  • バスにお客さんが何人か乗っていました。次の停留所で3人乗ってきたので、全部で9人になりました。最初何人乗っていたのでしょうか。その数だけバスのお部屋にをかいてください。
  • イチゴが何個かありました。花子さんが4個食べたので、残りは6個になりました。最初何個あったのでしょうか。その数だけイチゴのお部屋にをかいてください。
  • お庭にバラの花が5つ咲いていました。今日またいくつか咲いたので、バラの花は全部で9つになりました。今日咲いた花はいくつですか。その数だけバラのお部屋にをかいてください。

小学校で学ぶたし算・ひき算は、式を立てて最後にいくつになるかを考える問題です。
例えば、

バスにお客さんが6人乗っていました。次の停留所で4人が乗ってきました。今お客さんは何人になりましたか。

計算式で表すと6+4=10となりますが、これが逆思考の問題になると次のようになります。

バスにお客さんが6人乗っていました。次の停留所で何人か乗ってきたので、お客さんは10人になりました。何人乗ってきたのでしょうか。

幼児の場合、立式はしませんが時系列に並べて式を立てると6+=10ということになり、の数を求めるには10-6=4としなければなりません。式を立てて答えるわけではありませんが、出た答えから途中の抜けた数を考える問題です。

3. 方眼上の移動の逆思考

方眼上を指示どおりに動く課題、たとえば「クマは上に5、右に4、下に2動きました。どこに着きましたか。」という問いは、左右関係の理解がしっかりできていれば問題なくできると思います。こうした問題の中に、「ウサギはあるところから出発して上に4、左に2、下に3動き、この場所に着きました。どこから出発しましたか。」という逆思考の問いが入っています。

「方眼上の位置および移動」
  • 上から3番目の右から2番目に赤いをかいてください。
  • 下から6番目の左から5番目に青いをかいてください。
  • リンゴから出発して、上に3、左に2、下に4行ったところに赤い×をかいてください。
  • ミカンを見てください。下に2、左に1行って今ミカンがあるところに着きました。出発したのはどこですか。青いをかいてください

4. 四方からの観察 反対から見たら

「四方からの観察」
机の上のつみ木をまわりから動物たちが見ています。
  • 向こう側にいるクマさんから見るとどのように見えますか。その見え方のつみ木を下から選んで青いをつけてください。
  • キツネさんから見るとどのように見えますか。その見え方のつみ木に青いをつけてください。
  • トリさんは真上から見ています。右側のトリさんのお部屋から見え方を選んで青いをつけてください。

自分の視点を離れて、別の場所からの見え方を考える問題です。反対からの見え方が理解できるかどうかが問われます。

以上見てきたように、さまざまな領域で逆から問いかける問題があり、それが子どもたちにとっては難しい課題となります。機械的に対処できるわけではなく、本当に理解していないと解けないからです。逆思考は、観点を変えて考える意味でとても大切な思考法です。


 こぐま会代表 久野泰可 著「子どもが賢くなる75の方法」(幻冬舎)

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