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週刊こぐま通信
「室長のコラム」

入試問題を難しくする「逆思考」

第825号 2022年8月12日(金)
こぐま会代表  久野 泰可

 50年前の入試問題は知能テストの内容でした。集団用知能テストはパターン化されていますから、3カ月も訓練すればできた問題です。その後受験者が増えていくことによって、知能テストでは差がつかなくなり、学校の先生方が小学校低学年の学習内容をもとに問題をつくりました。30~40枚のペーパーを課すことも珍しくありませんでした。その結果、ペーパー主義の準備教育がはびこりました。子どもたちが毎日何十枚ものペーパートレーニングを行うことになり、そのプレッシャーから精神的に不安定になって精神科や心療内科に駆け込む子どもたちが増えました。「最近なぜ幼児が来院するようになったのだろう」と不思議に思った現場の医師たちによって、幼稚園や小学校に入るための準備教育が子どもの成長にとってふさわしくないと判断され、多くの警告本が出されました。医療現場からの警告を学校側も真摯に受け止め、ペーパー試験がなくなった時期がありました。しかし、個別テストや少人数テストには時間がかかり、年間の学校行事の中で入試に多くの日数をあてはめることができないと判断した学校側は、数枚のペーパーを復活させ、行動観察と三者面談を組み合わせて合否を判定する方法をとるようになりました。30~40枚のペーパーを出していた時代から比べると、5分の1程度の枚数に減りました。そのため、1枚1枚のペーパーについて学校側も相当検討し、訓練でできてしまうような問題は極力避け、思考力が必要な良問を出題するようになりました。決して難問・奇問を出しているのではなく、「考える力」が本当に身についているかどうかを見ようと問題を工夫しているのです。そうした目で毎年の問題を分析してみると、最近ある一つの傾向があるのに気づきます。考える力が身についているかどうかを見るために「逆思考」の要素を取り入れ始めたのです。具体例を示すのが一番わかりやすいと思いますので、典型的な問題を紹介いたします。

1. 逆しりとり

しりとり
  • 上の問題を見てください。「メダカ」からはじめて「ゴリラ」で終わるように、しりとりでつなぎます。空いている?のお部屋に入るものを下から選んで線でつないで入れてください。
  • 下の問題を見てください。しりとりでお部屋をつなぐと、最後が「ながぐつ」になります。空いている?のお部屋に入るものを下から選んで線でつないで入れてください。

「しりとり」は、幼児の言葉遊びの典型ですが、前の言葉の最後の音を次の言葉の頭に持ってくる遊びです。その「しりとり」が入試問題ではいろいろ工夫され、空欄を埋めたり、できるだけ長くつないだり・・・となりますが、最近多くの学校で、最後の言葉から戻ってはじめの言葉にたどり着く「逆しりとり」「頭とり」といった課題が出題されています。しりとりのルールを逆手にとってつなぐ言葉遊びですが、かなり論理性が求められます。元に戻るにはどう考えれば良いかが問われます。

2. 魔法の箱の逆思考

魔法の箱
上のお部屋を見てください。の箱を通ると数が2個増えます。の箱を通ると数が2個減ります。×の箱を通ると数が入れた数だけ増えます。の箱を通ると数が半分になります。
  • リンゴの問題を見てください。このお約束で数を入れると、最後にいくつになって出てきますか。その数だけ最後のお部屋にをかいてください。2つともやってください。
  • ミカンの問題を見てください。今度は入れた数と出てきた数が分かっています。どんな箱を通ったのでしょうか。真ん中のお部屋に箱の形をかいてください。
  • バナナの問題を見てください。今度は最後の数が分かっています。最初にどんな数を入れたのでしょうか。その数だけ最初のお部屋にをかいてください。

私たちが「魔法の箱」と呼んでいるのは、主に数の変化を考える問題です。数の変化の法則性を自分で発見する場合と、あらかじめ約束として提示される場合がありますが、いずれにしても「箱を通過すると数が変化する」というものです。基本は「ある数が何個かの箱を通過すると、最後にいくつになって出てくるか」を考えさせる問題ですが、最近では「最後に出てきた数を見て、いくつの数を入れたかを問う」問題が出始めています。例えば、「2個増える」箱を通って5が出てきた場合、入れた数は3であるし、「半分になる」箱を通って4が出てきたら、入れた数は8であるという具合です。逆しりとりと同じように、元に戻る逆思考の典型です。

3. 数の増減における逆思考

小学校1年生の算数に次のような問題があります。

数の増減
バスにお客さんが5人乗っていました。次の停留所で何人か乗ってきたので、全部で9人になりました。お客さんは何人乗ってきたのでしょうか。

この問題を、式を立てて解かせるといろいろな答えが出てきます。
  • 5+4=9 答え9人
    時間の順序に数を入れ、最後が9になるため答えを9としてしまう
  • 5+4=9 答え4人
    式の中に答えの数を入れて、答えを4にする
  • 9-5=4 答え4人
    乗ってきた人数を出すために、今乗っている数から最初に乗っていた人数を減らす
答えになる4人は暗算ですぐにわかるのですが、それを式にどう表すかが難しいのです。たし算の場面なのになぜひき算をするのか。こうした問題を逆思考の問題と呼んでいますが、思考のレベルで逆にし、それを式で表現するところが難しいようです。この種の問題は、小学校入試でもよく出されています。

数の増減
これからするお話を聞いて、答えの数を考えてください。
  • 駐車場にバスが5台とまっていました。そこに何台か入ってきたので、バスは全部で9台になりました。何台入ってきたのでしょうか。その数だけ、バスのお部屋にをかいてください。
  • お皿の上にサクランボがいくつかのっていました。京子さんがそのサクランボを3個食べたら、残りが6個になりました。最初お皿の上には何個のサクランボがあったのでしょうか。その数だけサクランボのお部屋にをかいてください。
  • リンゴが8個ありました。花子さんがそのうち何個かを太郎君にあげました。今リンゴは3個しか残っていません。花子さんは太郎君に何個あげたのでしょうか。その数だけリンゴのお部屋にをかいてください。
  • 家の中で子どもが10人遊んでいました。何人か帰ったので、今は3人になりました。何人帰ったのでしょうか。その数だけ家のお部屋にをかいてください。

4. お話の順序を逆にする

「話の内容理解」でも逆に考えなければならない問題があります。

話の内容理解
今夜は、夏休みの子どもたちのための「きもだめし大会」です。太郎君が「花子ちゃん一緒に行ってみようよ」と言いました。「怖いからいや」花子さんが答えると、「本当のお化けじゃないんだよ。大人の人が変装してるだけだから大丈夫だよ」太郎君がそう言うので、2人は手をつないで行ってみることにしました。
子どもたちで懐中電灯を持って、森の中の道を歩きます。最初に道の先に赤い光がありました。提灯のようです。近づいて見ると、大きな目がかいてあって、破れているところが口になっていて、大きな紙の舌が出ています。名札がついていて「おばけちょうちん」とかいてありました。これぐらいならあまり怖くありません。
次は着物を着た女の人がいました。一緒にいた男の子が先に行って確かめてくれました。「大丈夫、人形だよ」とその男の子が言ったので、みんな安心して行くことができました。みんなが前に来ると人形の首がにゅーと伸びました。名札を見ると「ろくろっくび」とかいてありました。
だんだん怖くなってきました。道の向こうまで何も見えません。しばらく歩いていると、突然「うぉ~」と大きな声がして、大きな傘をかぶった人が出てきました。みんなびっくりしました。大きな傘をかぶったお化けは、男の子たちを追いかけました。足にはゲタを履いています。名札を見ると「からかさおばけ」とかいてありました。
今度は道を横切る長い長い白い布がかけてありました。風でゆらゆら揺れています。近づいてみると、顔がかいてあって、名札に「いったんもめん」とかいてありました。
またしばらく歩くと後ろ姿で掃除をしている人がいました。近づくと花子さんたちの方を振り返りました。大きな目が1つ顔の真ん中にあります。名札には「ひとつめこぞう」とかいてあります。一つ目小僧は花子さんに近づいてきました。そして捕まえようと、「うぉ~」と言って手を伸ばしてきました。花子さんは「イヤー、怖いよー。もう帰る」と、もと来た道を駆け出しました。お兄さんの太郎君も花子さんを追いかけました。
  • 花子さんたちはきた道をまたもどりました。花子さんたちがもどるときに出会うお化けは、どんな順番で出会うでしょうか。左からその順番で並んでいるものを探してをつけてください。

「きもだめし大会」で森に入ったものの、途中で怖くなって入り口のほうに戻っていったという話です。そのうえで、戻ってくるときに出会うお化けを順序付けるという問題ですが、最初に見たものは最後に見ることになるという「順序の逆」が理解できるかどうかです。記憶の問題といってしまえばそれまでですが、個別式の知能検査の中にも数の逆唱の問題がありますので、逆に戻って考えることの大切さがうかがえます。

5. 出発点に戻る

方眼上を指示通りに動く、以下のような問題があります。

方眼上の位置の移動
これからお部屋の中を動いたり、もといた場所を動いて探してもらいます。お話をよく聞いてください。
  1. ミカンのあるところから、左に4、上に3進んだところにをかいてください。
  2. バナナは、上に5進んで今のところに着きました。最初どこにいましたか。そこにをかいてください。
  3. サクランボは右へ2、下へ3、左に1動いて今のところに着きました。最初どこにいましたか。をかいてください。

一般的に「方眼上の位置の移動」は、出発点が示され、そこからスタートして最後につくところを特定する問題です。上の問題では、1.がそれにあたります。2.は1つの方向に戻る問題、3.は3つの方向に戻る問題です。3方向になるとかなり難しくなりますが、移動の逆思考の問題として、できるようにがんばってください。

以上、最近よく入試で出題される「逆思考」が求められる具体例をご紹介しましたが、こうした問題には子どもたちは戸惑います。しかし、そこでこそ「考える力」が身についているかどうかが問われます。こうした逆からの問いかけに対して自信をもって取り組むためには、1枚のペーパーをいろいろな角度から問いかけていくような深い学びが必要です。


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