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週刊こぐま通信
「室長のコラム」

入試速報(5) 数の問題はどう変化したか

第794号 2021年12月10日(金)
こぐま会代表  久野 泰可

 小学校入試における「数」領域の問題は、図形・言語と並んでたいへん多く出題されてきましたが、最近の入試問題を見るとやや少なくなったように思います。今年行われた学力試験では、主要女子校10校のうち数の問題を出題しなかった学校は2校ありました。全体の問題数としては11問です。2問以上出題していた学校があるということですが、10校で11問は、以前と比べると少なくなっていることは歴然です。入試問題全体が易しくなったということで、数の問題も基本に戻り、以前から取り上げてきた「交換」「数のやりとり」といった論理性が求められる問題はほとんどありません。今年出された問題は、基本中の基本である「分類計数」「数の構成」「数の合成」「数の増減」などですが、そうした中で私たちが「数の総合問題」として分類している問題が4校で出されています。この課題は最近よく出される傾向にあり、今後増えていく問題の一つとして注目しておく必要があります。どんな問題か、典型的な問題を紹介しましょう。

2022年度入試 「数の総合問題(A校)」
動物村の秋祭りです。1つから4つまで順番にやります。
  • ちょうちんはいくつありますか。その数だけをかいてください。
  • シカの兄弟はリンゴあめ屋さんとわたあめ屋さんをしています。リンゴあめとわたあめを合わせた数はいくつですか。その数だけをかいてください。
  • ここにいるウサギが金魚すくいをしました。それぞれ3匹ずつすくったら、残りの金魚は何匹ですか。その数だけをかいてください。
  • 紫の花と黄色の花はどちらがいくつ多いですか。多いほうのお花にをかいて、多い数だけ横のお部屋にをかいてください。
今度は1つから3つまで順番にやります。
  • ここにいるリスが1本ずつうちわを買いました。うちわはいくつ残りましたか。その数だけをかいてください。
  • クマが盆踊りをしています。このあと、クマが6匹やって来て2匹帰りました。今いるクマは何匹ですか。その数だけをかいてください。
  • キツネが風船を持っています。風が吹いてきて2個飛んでいってしまったので、新しく4個ふくらませました。今ある風船は何個ですか。その数だけをかいてください。

動物村の秋祭りの場面を見て7つの質問に答えていく問題ですが、それぞれが将来の算数につながっていく大事な課題です。1問目は分類計数、2問目は数の合成、3問目は一対多対応、4問目は数の多少、5問目は一対一対応、6・7問目は数の増減ということで、1年生から3年生までに学ぶ「四則演算」すべてを含んでいます。従来は別々の問題として何枚かのペーパーに分かれていましたが、1枚の生活場面の絵を使って複数の出題がされるようになったために、一見「数のペーパーが少なくなった」と思われがちです。しかし、決して問題が減ったわけではありません。こうした一場面を使った問題の難しさは、質問に答えるために絵のどの部分を見るべきかを判断しなければならない点です。質問と関係のない要素が混ざっている中で、仕分けをしっかりやらないと正解できません。また1問1問が違った数の操作を必要とする問題ですから、切り替えを行い質問の意図をしっかり把握しないといけません。その意味で「聞き取る力」が問われています。もうひとつ問題を紹介しましょう。

2022年度入試 「数の総合問題(B校)」
クマさん親子がみんなをクリスマスパーティーに招待しました。
  • ウサギさんがジャガイモを買って来ることになりました。はじめの八百屋で3個、次の八百屋で2個買いました。全部で何個ですか。その数だけジャガイモのお部屋にをかいてください。
  • 今見えているプレゼントの他に、ツリーの下には2個、机の下には4個のプレゼントがあります。全部で何個ありますか。その数だけプレゼントのお部屋にをかいてください。
  • リスがろうそくを10本買いましたが、来る途中に転んで6本折れてしまいました。今何本残っていますか。その数だけろうそくのお部屋にをかいてください。
  • ツリーにリボンが全部で9個ついています。後ろ側には何個ついていますか。その数だけリボンのお部屋にをかいてください。
  • ネズミさんが7匹招待されています。まだ机の下には4匹隠れています。何匹来ていませんか。その数だけネズミのお部屋にをかいてください。
  • 4つのイチゴを半分に切ると、全部でいくつになりますか。その数だけイチゴのお部屋にをかいてください。

クリスマスパーティーの場面と、それに関連した6つの質問が用意されています。先程ご紹介した「秋祭り」の問題と類似した質問もいくつかあります。たし算につながる数の合成、ひき算につながる数の構成、かけ算につながる一対多対応の問題です。ここでもやはり、小学校1年生で行うたし算・ひき算につながる内容が多いことがわかります。ここでは「数のやりとり」「交換」の問題はありませんが、難度が上がるとこのような問題が出されてもおかしくありません。

学校側が、なぜこうした生活の一場面を使った問題づくりに力を入れているかはわかりませんが、幼児期の基礎教育として「数」の指導を考えた時、生活に密着したこうした問題が入試で出されるのはとてもいいことだと思います。それは次のような理由によります。
  1. 数の概念は、子どもたちが経験する遊びや生活の中で培われていく
  2. 子どもたちが一場面の絵を見たとき、自分の経験を投影しやすく、数のイメージを持ちやすい
  3. 幼児期の数の教育は、生活と切り離した「数字の世界」に引き込む方法では、本当の意味で数の概念は身につかない
つまり、自分の生活や遊びを土台に数のイメージ化を図り内面化することによって、数の操作が意味を持ちます。小学校の授業のように、最初から数字の学習をして、その世界で計算処理をするような、いわば生活と切り離したところで数の操作をするといった数教育では、答えは出ても論理数学的な思考は身につきません。ですから文章題になるとお手上げ・・・という子が大量に生み出されてしまうのです。そうしたことを考えた時、幼児期の段階から、数の操作を生活の実態と切り離して学ばせるような教育に私は反対です。今回のように、生活の一場面を使って普段の生活を思い起こし、そこで数的なものごとの処理をしていくことに大きな意味があると思います。こうした幼児期の学びが正当に評価され、それが入試問題になっていくことは、子どもたちの数の学びにとってたいへん有効だと思います。こうした、生活に密着した入試問題が増えていくことを願っています。


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