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週刊こぐま通信
「室長のコラム」

聞く力・作業する力・考える力

第780号 2021年9月3日(金)
こぐま会代表  久野 泰可

 都内の入試まで、残り2カ月足らずとなりました。受験されるご家庭はすでにほとんどの課題の学習を終え、これから最後の総まとめをすることになります。こぐま会では夏休み前にすべての領域の基本学習を終え、夏休みに難しい過去問に取り組みました。その成果を夏の集中授業で総点検し、今週からまとめの「ステップ7」に入り、領域ごとに典型的な問題をもう一度練習する授業を行っていきます。コロナの感染状況が深刻な現在、幼児でも感染するケースが報告され、休園する保育園や幼稚園が増えています。昨年も直前の2カ月間は相当神経を使った授業を行ってきましたが、今年は昨年以上に感染対策をしっかりした授業運営をしていかなければなりません。教室では、マスク・手洗い・うがい・給水はもちろん、飛沫防止のビニールカーテンで教師側と子ども側を分け、人数も制限しています。そして、子どもの机は前後左右1メートル近く離して配置し、常時窓を開放して換気を徹底し、授業を進めています。考えられる限りの対策を講じて10月17日までは対面授業を実施し、残り2週間はオンライン授業に切り替えて、最後の最後まで子どもたちを応援していきます。

さて、これから2カ月間の総まとめで何に力を入れていけばよいのかを明確にしなければなりません。コロナ禍の中での2度目の入試ですが、学校側もこの1年でいろいろな経験をされてきたと思いますので、それを生かした試験の方法をとるはずです。私は、今年の入試を次のように予想し、その対策をしっかりとる必要があると考えています。

  1. 昨年易しくなった学力試験は、また元の難易度に戻る
  2. 行動観察もいろいろ工夫すると思いますが、やはり今年も密を避ける意味で、運動課題が中心になる
  3. 小学生になっても筆圧の弱い子が大勢いるというニュースが取り上げられたので、その影響を受けて、線の模写・図形模写・点図形といった運筆につながる問題が多く出される可能性が高い。線や丸をしっかり書く練習が必要
  4. ペーパー試験でより高い得点をするためには、機械的なトレーニングを毎日大量に行うのではなく、自ら答えを導き出す「試行錯誤」の時間を大切にする
  5. 問題が難問化する背景には、今まで見たこともない全く新しい問題が出されるのではなく、従来の問題を、視点を変えて質問するような工夫が目立つ。特に逆から問いかける方法は、最近の問題を見ると顕著な傾向
  6. 子どもたちが普段経験している遊びやゲームを素材に問題を組み立ててくる傾向がある。しりとり・じゃんけん・すごろく・トランプゲーム・パズル・折り紙等はペーパーの前に実際に実物で行うことが望ましい

学校側が入試で求めているのは、知識の量や単純作業のスピードではありません。将来の学びの基礎として、「聞く力」「作業する力」「考える力」がどれだけ身についているかが求められています。指示がしっかり聞けるかどうか、話の内容がしっかり理解できているかどうかが必要であり、答えを導き出すために指示に従って作業する必要があります。そのうえで物事を論理的に考え、答えを導き出す必要があります。最近入試で出題された次のような問題は特別な訓練が必要なのではなく、生活や遊びで経験したことをイメージしながら問題を解いていくことが求められます。

1. 数の増減とやりとり
  • クマとイヌとパンダが、持っているリンゴを半分の数だけ、同時に矢印のほうにいる動物にあげます。2回、同じようにリンゴをあげたとき、パンダが持っているリンゴの数はいくつになりますか。その数だけ下のお部屋にをかいてください。

2. 数の推理
上を見てください。パンダとウサギが星のカードを3枚ずつ持っています。相手からは持っているカードは見えません。
これから相手のカードを1枚ひきます。ひいたカードを見せ合い、数が多いほうが勝ちです。ひいたカードは自分がもらえます。
  • ウサギが2のカードをひくと、パンダが勝ちました。パンダは星いくつのカードをひいたのでしょうか。その数だけイチゴのお部屋にをかいてください。
  • 今度はパンダが2のカードをひきました。すると今度もパンダが勝ちました。ウサギは星いくつのカードをひきましたか。その数だけリンゴのお部屋にをかいてください。
  • 2回勝負をしたあと、2匹が持っているカードの星の数の違いはいくつですか。その数だけバナナのお部屋にをかいてください。

この2つの問題は以前にも紹介しています。数の領域の問題で、単元で括るとすると「数のやりとり」になるわけですが、内容を見てお分かりのように、パターン化された問題ではありません。どちらかというと、生活や遊びの中のありふれた場面を使った問題です。最初の問題では、3匹の持っているリンゴの半分の数だけ隣の動物に渡します。それを2回繰り返したとき、パンダの持っている数がいくつになるかが問いかけられています。1回やりとりしてそれぞれが何個になったかを踏まえ、2回目のやりとりをしなければなりません。半分あげたり、もらったりする数の変化をどう捉えるかが問われていますが、操作の仕方をしっかり聞き取り、指示に従って作業して数を求め、変化した数を踏まえて2回目の数を判断しなければなりません。やりとりで変化していく数を論理的に捉えないと結論は出ません。

もう一つは昨年の入試で出されたものです。トランプ遊びの経験がある子は問題の意図がすぐに理解できたと思いますが、経験のない子が1回の説明で理解できたかどうか心配です。3つある質問のうち最初の2つは数の比較ですから、何を引けば相手に勝つかはすぐにわかるはずです。問題は、最後の「2回勝負した後、2匹が持っている数の違いはいくつですか」という問いかけには、数の変化に関する連続した思考が必要です。2回連続して行った数のやりとりの結果を論理的に考え、2匹が持っている星の数の違いを正確に判断できるかどうかが問われます。実際、今年の受験生に解いてもらうと最初の2問はほとんどできるのに、3番目の問題ができる子は今の段階でも極端に少ないのが現状です。

この2問に象徴されるように、ありふれた生活の一場面を素材にし、「聞く力」「作業する力」「考える力」が求められるような入試問題が今後も増えていくのではないかと思います。入試対策をペーパートレーニングだと考えないで、豊かな生活経験が必要だと考え、「子育ての総決算としての入試」に備えてください。


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